第10話 忍び寄る影

「ドルド。私、一度里に戻ります。婚儀の件、取りやめにしてくれるよう頼んでみます。だから、それが終わるまでここで待っていてくれませんか?」


 夜も更けた頃、決心してルナティーヤは洞窟を後にした。ずっと一緒だったので寂しい気持ちはあったが、吹っ切れたような彼女の顔を見てドルドは安心した。


 ルナティーヤはきっと戻ってくる。また話を聞いてくれる。だから自分は待とう。


「本当にそうかな?」

「誰だ?」


 いつの間に忍び寄った? 警戒心が膨らむ。

 聞きなれぬ声が響き、周囲を見渡しても人影はない。愛槍を手に、臨戦態勢を取る。


「俺は親切心から言ってるんだ。なあ、ドルド。哀れなるドルド。今頃里に戻ったエルフの姫は魔王たちと合流してお前を始末する計画を立てているぞ?」

「そんなはず、ない。魔王たち、いい奴。ルナ、もっといい奴。ありえない」


 不思議な声だと思った。危ういけれど、何故か聞いてしまう。


「だったら、自分の目と耳で確認してみろ」


 どうするか考える。ルナティーヤには待っていろと言われた。だけど、謎の言葉に囁かれると不安になる。居ても立っても居られない。気付けばドルドは洞窟を出ていた。


「いた。ルナ」


 里の入り口まで進むと、ルナティーヤと魔王たちが楽しそうに談笑していた。


「バカだよなあ、あの豚人族」

 魔王の声だった。聞き間違いかと思った。聞き間違いであって欲しかった。

「ほんとほんと。エルエルの作り話完全に信じてるし、まじのーきんって感じ?」

「エル、演技派」


 だけど消えなかった。幻ではなかった。現実だった。


「あのような下等な種族、謀るのは容易です。あなたもそう思いますよね?」

 紫紺のローブを纏う賢者が問いかける先。何より見知った人は、

「――本当に。エルフの姫である私が豚人族ごときを本気で相手する訳ありませんのに」


 見たこともないような醜悪な笑顔でそう告げた。


「そんな……ルナ、オラ、信じてるって、言ったのに……」

「ドルドよ、これが真実だ。おお、可哀相なドルド。苦しみが聞こえるぞ。辛いよな? 悲しいよな? ならば怒れ。お前のように純粋な者を弄ぶ世界なぞ壊してしまえ!」

「だ、ダメ。ルナ、悲しむ。それ、できない」

「おいおい、わかってないなぁ」


 ニヤリと、影のような何かが笑った。


「――殺しちまえば悲しむことなんてないだろう?」


 刹那、ドルドの身体から真っ黒な煙が噴出された。闇夜で不気味な笑い声だけが、その産声を祝福していた。

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