第27話巨大甲殻獣ズンゴックを狩れ!


「ここがズンゴックの目撃情報が多発しているしているところよ」


 ローゼンに案内されたのはビーチから少し離れた岩礁地帯だった。

雑木林も隣接していて、ズンゴックが好みそうな地形だ。


「ズンゴック……別名"巨大甲殻獣"と言われる危険度Aクラスの魔物! 青くて大きなカニ! 必殺技は爪から繰り出されるクローバイスアタック!」


「へぇ! シン殿は魔物にお詳しいのですね?」


「えっへん! シン、魔物大好き! 特におっきいの!」


 マインに褒められ、シンは大きな胸を張り出していた。

 そういや小さい頃のシンって"怪獣博士"なんて言われてたけっけ。


「でもズンゴックって青等級上位対象の魔物でしょ? 私たちで大丈夫かなぁ……」


「きっと大丈夫さ、キュウ姉! なんてたって今回はマインも一緒なんだから!」


 キュウの不安をコンが笑い飛ばした。


「が、頑張ります!」


 話題に上げられたマインは恥ずかしそうに頬を赤らめて、モジモジとしだす。

やっぱりピュアなんだな、この子。


「っと、盛り上がってるとこ悪いが、今回はまず様子見だ!」


 俺は敢えて、勢いで今にでも飛び出しそうだった4人へ注意を促した。

この間のようなことはもうごめんだしな。


「コイツのいう通りよ? 目撃報告によると今回のズンゴックは体表が赤いらしいの。今までに報告例がないから、変異種の可能性が高いわ。まずは鉄則に従って、調査から始めましょうね?」


 すかさずローゼンのフォローが入り、4人は一旦テンションを収めたのだった。


「おーっし、お前ら! そうはいったが、狩る前提で調査開始だ! バックアップはしてやっから安心な! それじゃ開始!」


 かくして、俺たちは変異種と思しきズンゴック討伐を目標に、岩礁地帯へ乗り込んでゆく。

 その道中、ローゼンは何故かニコニコと笑顔を浮かべていた。


「なんだよ、お前もお仕事大好き人間か?」


「ねぇ、トク思い出さない?」


「何を?」


「今のトクと三姉妹ちゃんたちをみているとさ……なんかシオンと、サフトのことを……?」


 やや伺うような物言いだった。

 色々と考えた末に、素直に名前をあげたのだろう。


「そうだな、ここ最近またよく思い出すようになったな。お前に食え食え言われて、げんなりしていたシオンとサフトのこととか?」


「あら? あの子達、意外と喜んで食べていたわよ?」


「まさか! お前に逆らって、睨まれるのが怖くてビビってただけじゃん」


「それ逆じゃない? トクの熱血指導モードの方に怯えてたような?」


「はは! そうかも!」


 この10年間、シオンとサフトのことに関しては、最期の辛い瞬間ばかり思い出していた。

だけどここ最近は、それ以前の明るくて、楽しかったことを思い出せるようにもなっていた。

それもこれも、三姉妹に再会でき、今を楽しく過ごせるようになったからだろう。


 と、そんなほっこりした気分でいる最中だった。

 突然、目の前で雑木林の木々が薙ぎ倒される。


 俺を含め、雑木林に踏み入ったばかりの全員が、臨戦態勢を取った。


 まさか、もう変異種ズンゴックのお出ましか!?


「……げっ! なんでお前らが!?」


「いや、それはこっちのセリフだよ。こんにちは、元勇者のパルディオスくん?」


「元勇者いうな!!」


 雑木林の向こうから現れたパルディオスくんは、挨拶も返さず怒りの声を上げた。


 ちなみに彼はダンジョンでの不始末が原因で、勇者の任を解かれていた。

それでも冒険者では最上位の紫等級でいるあたり、社会の闇を感じぜずにはいられない。


「にしても……マイン! てめぇ! 俺を裏切ったばかりか、よりにもよってなんでおっさんのところに!!」


「ひ、人聞ききの悪いことを言わないでいただきたい! 某はきちんと手続きを踏み、貴方の了承も得たではありませんか!」


「んなの知るか! こっちが落ち込んでる時に、そういう話をしたてめぇが悪いんだろうが!」


 ……相変わらず無茶苦茶なやつだな。

きっと世界は自分を中心に回っていると思っているんだろう。

ここまで来ると、逆にかわいそうになってきてしまう。


「いつか必ず勇者に戻って、てめぇの故郷のコンスコンをぶっつぶしてやっからな! 覚えてろ!」


「言わせておけば……!」


 俺はすかさず拳をグッと握りしめたマインの肩を掴んだ。


「トクザ殿……?」


「放っておけ。阿呆に付き合う必要なんてない」


「ッ……」


「お前はいずれ大勢の民を導く領主になるんだ。あんな小物のこといちいち気にしてちゃ、やってらんないかな? もっとデーンと構えてりゃ良いし、アイツから離れたのは良い選択だったと思うぜ?」


 ずっと強張っていたマインの肩から力が抜けてゆくのがわかった。


「……かたじけない。頭に血が昇っておりました……」


「今はアイツの方が強いかもしれない。だけどマイン、お前はもっと強くなれるはずだ。だから、一緒に頑張ろうな?」


「はい! ありがとうございました、トクザ殿!」


 ようやくいつものマインに戻ったようだ。


「ぜってぇ俺がズンゴック変異種を狩ってやる! 狩ってやるぅ!!」


 パルディオスくんは剣を振り回し、木々を薙ぎ倒しながら俺たちの元から去ってゆく。


「なんかあの人可哀想な人だね」


「まぁ、バカは死ななきゃ治らないっていうしな」


「なーむぅー」


 三姉妹も散々な言いようだった。

しょがない。だってパルディオスくんなんだもん。


「よぉーし、お前ら! 気を取り直して調査再開だ。あんな阿呆に先越されんじゃねぇぞ」


「「「「はい!!!!」」」」


「あ、赤いズンゴックが……ひぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 と、調査を再開しようとした矢先、木々の奥からパルディオスくんの悲鳴が聞こえた。

そして次の瞬間、目の前で大きな砂柱が沸き起こり、大樹が軽々と宙を舞う。


「左右、どっちでも良いから大きく飛べぇぇぇ!!」


 俺が遮二無二そう叫ぶ。

 皆が思い思いに大きく飛んだ刹那、真っ赤な巨体が木々を薙ぎ倒しながら、物凄いスピードで過ってゆく。


「赤いズンゴック、早っ!」


「ありゃ通常種の三倍以上のスピードじゃね!?」


「赤い地上の星ぃー! むふー!」


「あれが目撃証言のあった"赤の変異種ズンゴック"よ!」


 ローゼンが指差す、巨大なヤドカリのような魔物ーー赤いズンゴック変異種は既に雑木林を飛び出していた。


 ……あの動きは、既にお怒り&錯乱状態か!?

 もしかすると、雑木林で大暴れしていたパルディオスのせいかもしれない。


「トクザ殿! あのズンゴック、ビーチーへ侵攻していますよ!?」


 赤いズンゴックは物凄いスピードで岩礁を踏破しつつ、遊泳客で賑わうビーチへ向かっている。


 さすがにこの状況じゃ、指導とかうんぬんいってられないか!


「行くぞお前ら!」


 俺と三姉妹、そしてマインは赤いズンゴックを追い始める。

 すると先頭を走る俺に、ローゼンが疾風のような速さで並走をしてくる。


「手伝うわ!」


「助かる! でも大丈夫か!?」


「大丈夫よ! 引退してても毎朝の修練は欠かしていないもの! トクよりは役に立つはずよ!」


「はは! 頼もしい! なら頼らせてもらおうか!」


「いいですとも! 先に行くわ!」


 ローゼンは懐に隠し持っていたクナイを手にして先行する。

 元紫等級冒険者ーー通り名"疾風のローゼン"様に期待するとしますかね!

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