第33話 配信者
『そこで一つ提案なのですが、予選の動画を配信してみませんか?』
ん? 配信?
『「リンク」ではライブ配信や動画配信、ブログ等、SNSの機能も充実しています。動画は優秀なAIがいい感じで自動編集してくれるのでお手軽でとても好評なんですよ』
優秀なAIって自慢かーい!
『テヘペロリンチョ』
いや、何か照れ方が固いから。
っていうかAIが照れないでよ!
『勿論AIですので本当に照れているわけではないですよ。ええ、照れてる振りです』
ちょっとイラっと来るけど、人間にイラっとさせるくらい人間の心理を理解しているというか……ミラちゃんが優秀だってことはまぁ認める。
『配信をすると、「配信者」というジョブにつくことが出来ます。そうするとレベル上限が5引き上げられるのです』
ああ、そういうことか。
私今レベル15で上限に達しちゃってるもんね。
二次予選に向けてレベルアップしたいと思ってたから丁度いいかも。
『動画は私が編集しておきますのであゆみは最終チェックをお願いします』
分かった。じゃあお願いね。
『というわけで、ここに完成した動画があります』
どこの料理番組よそれ!
もう出来てんじゃん!
『仕事が早い優秀なAIと呼ばれております』
いや確かに早いけども誰が言ってんのさ。
『私です』
自分かーい!
というやり取りはさておき、ミラちゃんが作ってくれた動画は正直面白かった。
ダイナミックですごくいい編集をしてくれてる。私の視点からの映像だけじゃなく、ちょっと引いた視点、大きく引いた全体的な様子がわかる視点、様々な角度からの映像もあり、客観的な様子が分かる。
スローや早送り等の演出も見ていて分かりやすいしテンポがいい。
他にも効果音とか、BGMとか、字幕とか全部いい感じだ。
文句のつけようがなかった。
『ではアップしておきます』
うん。ミラちゃんありがと。
ただ、一つ聞いていい?
『はい、何でしょうか?』
ダメージポイントが1位の人ってさ、頭の上に王冠も表示されるの?
『はい、そのとおりです。』
そっか。これは客観的な視点で見なければ気づかなかったな。
プレイヤーの頭の上には与えたダメージが表示されるけど、1位の人の頭上にはそれに加えてキラキラと輝く王冠が表示されていた。
そりゃ狙われるよね。メッチャ目立つもん。
私ばかり狙われたことに改めて納得したのだった。
………
……
…
予選の後、早速スライムの湿原に向かった。
無事に配信者になりジョブが二つになった。
そして、例のあやつ。上位種のスライムを倒してたらあっという間にレベル20まで上がってしまった。あやつは結構レベルが高いらしい。
ただ、最近上位種をけっこう狩ったからか数が少なくなっている感じがする。
それでも10万程稼いだのでゲームを終えた。
今日はバイトが休みだったのでのんびり出来たな。
それで久々にジムに行った。
ミラ先生の修行を優先していたから最近は全然ジムに行ってなかったんだよね。
一応しばらく休みますって連絡はしといたんだけど、総さん怒ってるかもしれない。
「総さんこんにちは~」
「お、久しぶり。元気にしてた?」
あれ? 意外と普通だな。
「すいません。長い間休んでしまって」
「いや、気にしなくてもいいよ。こうしてまた来てくれたからね」
「ああ、よかった。内心怒られるんじゃないかって心配してたんです」
「いや、逆だよ。レイカとのスパーの後、様子がちょっと変だったから僕も会長もレイカも心配してたんだ。人を躊躇いなく殴るってそれなりに覚悟のいることだからね。レイカがダウンしちゃったからショックを受けたんじゃないかって」
うっ。これは言えない。
ゲームで修行してましたとか、絶対に言えない。
ここはもう、この流れに乗るしかない!
「そうな――」
「――でも、どうやら違ったみたいだね」
「えっ?」
即否定だと!?
「半月前と覇気が違う。見た目のひ弱な感じが払拭されて明らかに逞しくなってるね。一回りか二回り筋肉が付いてるし、多分背も伸びてる。何か特別な特訓でもしてきたのかな?」
ウソ! そう来る!?
確かに服が若干小さく感じてたけど、そんなに筋肉ついたの?
全くもって自覚がなかったよ。
「これはどう進化したのか楽しみだな。今日はストレッチが終わったらサンドバック打ちからやってみよう」
「は······はい」
えっと、まぁ······いっか。
ストレッチをしている間にレイカさんと会長さんから挨拶された。
レイカさんは「またスパーリング一緒にやろうね」と言ってくれた。元気そうで良かった。
そして、今私はサンドバッグの前にいる。
「総、お嬢ちゃんは随分と逞しくなってんじゃねぇか」
「ええ、期待大です」
「お手並み拝見ね」
会長と総さんとレイカさんが後ろで見てるから何かやりにくい。
まぁ、やるしかないか。
ふぅ。
まずはワンツーから……
——ズドッボフ!!!!——
——ミシィ——
サンドバッグががらんがらんと揺れた。
ぐっ……。
右腕に痛みが走る。
その痛みに思わず蹲ってしまった。
「あゆみ! 大丈夫か」
すかさず総さんが駆けつけて腕をチェックする。
イタイイタイイタイ。
「あゆみ、大丈夫?」
「この痛がりようは骨にひびが入ったかもしれんな……」
レイカさんと会長もひどく心配している。
え、骨にヒビ?
ここりゃいかん。
ひ、【
よく分からない不思議な力が発動し痛みが引いていった。
『あゆみ、Lv20になっているのですから気を付けてください。本気で動くと簡単に怪我をしてしまいますよ』
ミラちゃんわかったよ。
気を付ける。
「はぁ、大丈夫です。別にどこも痛めてませんよ」
「えっ?」
総さんが驚いた顔をしている。
「いや、明らかに痛がっていたじゃないか。念のため医者に行った方がいい」
会長が険しい顔で言う。
いや、そんなことしたら無駄なお金がかかるじゃない!
「久々に本気を出したので気圧の変化でちょっと立ち眩みしただけですよ。もう大丈夫です。怪我はしてません」
「いや、気圧は関係ないだろ。本当に大丈夫なのか?」
会長が念押ししてくる。
「はい。ほら——」
——ズバババンズドバババンズドンドンドン——
「な、な……」
会長は驚くあまり声が出なかった。
「サンドバックが暴れてる……なんて子なの。速すぎてパンチが目で追えないなんて……」
レイカさんもただただ驚いていた。
「あゆみ……君は一体……」
そして総さんはどこか神妙な顔をしていた。
「ほら、ご覧の通り大丈夫ですよ」
一度痛い目に遭ったので【
どうも魔法というものはその威力に応じて魔力を消費するようで、【
勿論、ステータスの数値に現れない小数点以下の魔力は消費しているから使い続けたらやがては魔力も尽きるけど、体感で1~2時間くらいは【
まぁ魔力というものが何なのかは分かってないけどね。でも何かの力を消費しているという感覚はある。
それにしても思った以上に力が上がっててビックリしたなぁ。
そんなこんなで何とか3人の目を誤魔化したのだった。
やれやれ。
ちなみに、レイカさんとはマスといって寸止めのスパーリング(多少は当たるけど)を行った。
レイカさんは「今日こそ絶対当ててやる」って言ってたけど、私は空気を読むことなく全部避けたのだった。
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