5話 レミは、お嬢様とちゅーします。
「へ? 私が?」予想していなかった提案に目を丸くし、ぽかんと口を開けてしまう。
「そう。いやかしら?」母様は少し悲しげな表情をみせる。
「いえいえいえ! リア様をお世話させていただくなんてとっても光栄です! ですけれど、私のような若くて未熟なメイドがお世話するなんて……メイド長みたいな人が適任なのでは……」
お屋敷で働いているメイドの中で私は一番下だった。その次に若いのは……バイトメイドのスイとリコの十六才だった。ちなみにメイド長はたしか三十才ぐらいで母様とほぼ同じ年齢だ。
「逆よ、若いからこそいいの。リアが親しみやすいように、年齢が近い子のほうがいいのよ」
「そ、そうなんですか……?」私はまだ戸惑っていた。
「そうよ、別に私の娘だからって気にする必要は無いの。手のかかる妹ができた、って感じでお世話してくれればいいわ〜」と軽く母様は言う。
「……リア様は私なんかでいいんですか?」私は聞く。
じいっ。リアお嬢様は私を見つめてくる。きれいな翠色の瞳だ。顔立ちがはっきりしていて、とってもかわいい。私は母様に見つめられているみたいに、てれてれと恥ずかしくなってしまう。
にこっ。お口の端が少し上がり、無表情が笑顔にかわる。私の肩に手を回し、抱きついてくる。むに、と私の頬に自分のほっぺをくっつけてくる。
「ふにゃ」私はおもわず声が漏れてしまう。
「気にいった?」母様は嬉しそうにリア様にたずねる。
リアお嬢様はうなずき、「私、レミがいい。メイド長は厳しそうだから、やだ」むにむにとほっぺをくっつけながら言う。
「り、リア様もそうおっしゃるのなら……えへへ」私は照れてしまう。
「もちろん、最初はあなた一人じゃなくて他のメイドに手伝ってもらうわ……そうね、スイとリコとかいいんじゃないかしら?」母様はそう提案してくださる。それなら安心だ。
「……わかりました」私は決心する。しゃがんだまま少し後ろに下がり、母様とお嬢様の正面に向き直る。
「レミは……リアお嬢様のおかかえメイドに、なります!」元気よくそう、宣言する。
「ありがとう〜」母様はとっても喜んでいる。「私しばらくお屋敷を離れちゃうからリアの面倒見てくれてとても助かるわ〜」
私は胸を張り、「おまかせください!」と返事をする。
改めてよろしくお願いします、リアお嬢様」私はしゃがんだまま丁寧にお辞儀をする。
「うん、よろしく〜」と言いつつ、お嬢様は私に近づいてきた。また抱きついてくれるみたいだ。
私はちょっとわくわくしながら手を広げ、受け止めようと身構える。お嬢様はぴと、と私にくっついてきた。首に手を回し、顔を近づけてくる。
……あれ、さっきみたいにほっぺをくっつけようとしてる? にしては顔が正面を向いている気が。むしろ私がおねだりした時の母様と同じ動きなような……。
ちゅー。私のくちびるに、お嬢様のくちびるがくっついた。
リア様のくちびるはとってもやわらかくて。突然のキスに私の身体は固まってしまってるけれど、顔はとろけかけている。
目が合う。リア様はくちびるを重ねたまま、にこっと笑いかけてくれる。無意識に私は手を伸ばし、彼女の身体を抱きしめてしまう。
「あらあら〜。ちゅーするなんて、もう仲良し姉妹ね〜」
嬉しそうに母様は私達の頭をなでなでしてくれる。
ああ、幸せだ……。最高の誕生日だ……。お嬢様の体温を感じながら、しみじみと感じる。
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