第一章

第1話  召喚

 三郎は溺れていた。火傷を負いながらも同級生の女の子を抱き抱え、炎から逃れる為に海に飛び込んだのだ。だが、火傷の為遂に力尽きて海に沈んでいった。そしてもう死ぬと思ったその瞬間、光に包まれたかと思うとその場からいなくなった。そして別の場所で海水と共に、多くの者が見守る床の上にまるでゴミのようにぶちまけられた・・・



 夢河 三朗 17歳

 身長170cm

 普通体型。


 名前の通り三男であり、どこにでもいるカンフーが好きな普通の?高校三年生。部活はテニスを少々する程度で、万年1、2回戦落ち程度だ。顔も身長も普通で、特に周りと大差はないし、学力も平均より少し上程度であり、特に目立つ要素はない。  


 ただ、根っからのブルース・リーのファンだ。

 

 特にヌンチャクが好きで、

ブルース・リーを心の師として独学でヌンチャクを練習しており、ヌンチャクパフォーマーになりつつあった。


 去年は担ぎ上げられ、断れずにヌンチャクのパフォーマンスを文化祭で披露していた。


 それ以外はネットゲームが好きな普通の高校生だ。


 ヲタクっぽいところがあり、仲良くしてくれる女子はやはりブルース・リーファンの筋肉好きなヲタクで、やれ腕立て伏せの回数を増やせだのプロテインをちゃんと摂取しているか?と食事に口を出したりと三郎に付き纏っている子が一人いるだけだった。


 メガネっ娘で、そばかすが酷い。根暗と言われており、女子からも浮いていた。紗代子と言われる近所の子だ。ただ、ちゃんとお肌のお手入れをし、髪型を整えれば美人なのだが、興味がなかった。


 一応三郎が格闘家認定されているから、三郎と仲良くしている紗代子をいじめる者はいないが、敢えて仲良くする女子はあまり居ない。部活の仲間位だ。


 学校生活は順調だった。


 そんな中修学旅行に来ていた。とある海の景色の良い温泉宿に宿泊していた。


 カヌーの体験をしたりと、皆行った事のない事をしたりと、充実した一日を過ごしていた。そんな修学旅行の最終日の夜の出来事であった。


 いわゆる不良共がタバコを吸っていて、火を消さずにポイ捨てをした。そのタバコが捨てられた場所が悪く、枯れ草があった。不良共がその場を離れて暫くしてから火の手が上がったのだ。炎は瞬く間に宿全体に広がり、けたたましい火災報知器の音、悲鳴や怒声、煙りに巻かれながら皆逃げ惑っていた。


 そんな中誰かが紗代子がいないと言い出した。三郎も周りを確認したが確かにいない。三郎は皆が止めるのを聞かず、腕を掴まれていたが無理矢理振り解き、バケツの水を自ら頭から掛けた。申し訳程度にしかならないが、マスクを着けて燃え盛る宿の中に飛び込んで行った。勇敢な行為といえば聞こえが良いが、実際は軽率な行為である。どこの部屋に泊まっているのかは知っていたので、煙で前が見にくいがその部屋に真っ直ぐに向かって行った。


 奇跡的に紗代子の泊まっている部屋に辿り着いたが、そこには腰を抜かし、失禁してその場にうずくまっている紗代子がいた。逃げるぞ!と腕を掴んだが、腰が抜けていて立つ事が出来ず、首を横に振っていた。


 来た所からはもう戻れそうになかった。すると三郎は一つある窓から海に飛び込む決心をした。しかし三郎は泳げない。だが、このままこの場に留まれば確実に焼け死んでしまう。もしくは煙に巻かれ、一酸化炭素中毒で死んでしまう。三郎は部活でテニスをしているのと、独学でやっている格闘技のおかげで体は細いがそれなりに筋力はある。火傷が酷かったが、アドレナリンが出ているからか、この時はまだ動く事ができた。


 部屋に有った荷物が入ったままの誰かの鞄を2つひったくった。一つはデイバックタイプの為背負い、もう一つの鞄と紗代子をお姫様抱っこで抱き抱え、行くぞ!と言い、ぐおおおと叫びながら窓から海に飛び込むと、紗代子の絶叫が木霊した。


 三郎が感じたのは紗代子は軽いのと、柔らかく女の体だなという事だ。


 海に落ちてからカバンを浮き代わりにしようとしたが三郎は部屋に来る迄に負った火傷で意識が朦朧とし始めていた。


 紗代子に対し、これに捕まれと言って、浮きの代わりになると期待した鞄を最後の力を振り絞り渡した。そして岸へ向けて泳ぎ始めたところで三郎は火傷の為ついに力が入らなくなった。


 そして三郎は小夜子が掴んでいる鞄を掴む力が無くなり、泣き叫ぶ紗代子の元から離れ海の中に沈んでいった。紗代子が手を伸ばし一度は三郎を掴んだが、その手からすり抜けていった。もう一つの鞄を背負っていたが、残念ながら浮きの代わりにはならなかった。寧ろ重りと化していたのだ。

 このまま死ぬのだなと思い、最後に紗代子、ごめんなと心の中で叫んだ。そして好きだよと言えなくてごめんなと。


 意識を失う直前に突然海の中が光り出した。もしそこが地上なら魔法陣が浮かんでいたのが分かったであろう。


 魔法陣は直径2 m位だろうか、高さも2 m 位の球状の光が発生した。出現した光の玉の中心に三郎はいたが、数秒程で光が弾けて消えた。するとその光の中にいた三郎の姿も消えていた。


 三郎は召喚の儀式により、勇者として召喚されたのだ。そう遥か彼方の異世界に。


 3つの魔法陣が作られており、その魔法陣が3つ共光っていた。


 その中の一つには二十歳位の若い細身の男が弓と矢の入った矢筒を持ち、もう一つの魔法陣には同じ年位のやんちゃそうな男が長剣を持った状態でその場に立ち尽くしていた。周りからはおお〜!とか成功だ!、奇跡だ!等と成功を喜ぶ声がし、中には抱き合って泣いて喜んでいた者もいた。


 そう魔法陣が現れ、それが消えた時にその者達がそこにいたのだ。そして同時に消えたもう一つの魔法陣からは三郎が現れ、ドサッと床に落ちた。そう大量の海水と共に。


 その場は大変な事になった。近くにいた者は避ける事も出来ずに巻き込まれ、皆ずぶ濡れである。直径2m 程の球体の中から魚やら海水がドバッと出てきたのだ。その周辺にいた者は、うわわわわ!と叫びながらパニックになった。


 周りでは多くの者がその様子を見守っていた。ここは地球で言えば中世の文明レベルで、立派な作りのお城の一角である。そして三郎は火傷で苦しみもがいていた。その様子を見た瞬間、神官服を着た一人が叫び出した。



「いかん!勇者様を治療するのだ。召喚事故が起こった!」


 召喚事故ではないのだが、事故により召喚者の一人が火傷を負っているとみたのだ。その場には色々な事を想定し、多種多彩の者達が待機していた。剣や槍を持った兵士や騎士、神官や魔導師達だ。


 待機していた神官の中には治療魔法行える者が数人おり、数人が三郎の元でヒールと唱えた。あるいはポーションを三郎に掛けたり口に含ませた。すると不思議な事に三郎が負った火傷は瞬く間になくなり、肩で息をしていた三郎が立てる状態になっていた。そして三郎の手にはヌンチャクが握られていた。


 また、召喚が執り行われた謁見の間の外に待機していた執事やメイド達が呼ばれ、慌てて掃除道具を持ってきて水を吐き出したり後始末を始めるのであった。

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