勇者パーティを追放された【凡人】の元村人は、【魔王】と共に静かに暮らしたい

あおき りゅうま

第1話 大器晩成型だと思われていたが、違った俺。


 ————成長すると思ったから連れてきた。


 そんな身勝手なことを言われた。


「最初の頃は、役に立ってたよ」


 世の中には才能というものがある。

 【勇者】の才能。【賢者】の才能。【剣聖】の才能……。

 偉業をなす人間は、大抵そういった才能がある。


「だけど、もう全然ついて行けてないじゃん」


 才能ない者は、ただ黙って才能ある者を仰ぎ見ればいいのか?


 そうじゃあないはずだ。


 偶に、突然変異的な存在が出る。

 元々何の才能もなかったのに、努力を重ねていくうちに才能が開花する人間が。一見、凡人に見える奴が道を究め、才能を最初から持っていた人間を上回る。

 そんな夢のようで痛快な話が……本当に偶にある。


 大器晩成———というやつだ。


「いや、チャンスをくれ! 俺は、まだやれる!」


 俺は、食い下がった。

 魔王を倒す、勇者ご一行様。

 旅に出てから1年経つ、あらゆる逆境も乗り越えてきた人類最強がそろうパーティ。

 俺はその中の一人だった。いや、一人なんだ。過去形じゃない。過去形にさせてたまるか! 現在形のままでいさせてみせる!


「とは、言われてもなぁ」


 金髪で金色の鎧。全身を金に包んだ【勇者】―アラン・ケイブ。

 頭を掻きながら困ったように眉尻を下げている。


「お前、魔法も使えないじゃん」

「確かに、俺には魔法の才能がない。だけど、剣の腕は磨いてきた! 剣の腕なら【剣聖】の才能を持っている人間にも引けはとらないだろ!」

「だけどな……」


 アランがグイっと周囲を見渡す。

 7人の仲間たちが、俺を見る。

 ローブを着た魔女、大砲を抱えた大男、道着を着た女拳法家……その誰もが言葉では言い表せない、一流の冒険者が持つオーラを持っていた。

 全員、勇者パーティに必要な才能を持っている奴らだ。


「諦めろ」


 そして、その中には、二本の剣を腰に携えた【剣聖】の才能を持っている男もいた。


「確かに、お前の剣の腕は認める。この俺、人類最強の【剣聖】——ゴードン・スミスがな」


 長髪で細い体をした、ゴードンが一歩ずつ俺へと歩み寄ってくる。

 そして、ゴードンが人差し指を伸ばし、俺の胸を小突く。


「確かに引けはとらない。だが、勝つこともない」


 断言———された。

 それは、言われたくない事実だった。言葉を飲むほどに。


「俺という完全上位互換がいる限り、勇者一行の中にお前の居場所はない」

「だけど、だけど俺は……アランと一緒に魔王を倒そうって、約束を……! 始まりの村から」

「ああ、確かにお前は勇者パーティの最古参メンバーだよ」


 【勇者】の才能を持っているアランが、村から旅立つ日。

 俺は、偶々アランの近くに住んでいたからという理由だけで勇者ご一行に加えさせられた。

 当時は誰も魔王を倒せるなんて思っておらず、勇者が旅立つその日になっても【賢者】の才能を持つエル・シエルというアランの幼馴染の少女以外、誰も勇者パーティに加わろうとしなかった。

 まぁ、だからこそという面もある。

 畑からの帰りに、偶々アランに呼び止められてなかったら、今もあの村で農家をしていた。


「だから、忘れてくれ」


 アランが俺の額を指で小突く。

 レッカ火山の山頂。

 火口を背に立ち尽くしていた俺は、そんな小さな力でいともたやすく後ろに倒れた。


「あ——————」


 落ちていく。

 魔王の居城への第一関門と言われる、険しい活火山。

 高温と魔物のおかげで人類は誰もこの先へ行ったことがないと言われる死の山。その奈落の底へと———。

 そこを管理している、魔王の幹部と言われる炎の魔神—イフリートを倒した。

 苦労して、やっと。

 だが、その直後に———これだ。


 下の溶岩へ向けて、俺の体は落下していく。

 どんどん……どんどん。

 アランは、こちらを一瞥すると、すぐに背を向け歩き出していった。


「さよならだ、親友」


 俺とアランは幼馴染で親友だ。


 いや、親友……だった————。

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