〈エミ視点〉









沙優ちゃんがいつ来てもいいように

スマホはサイレントモードを切ってからポケットに

入れているけど全然音が鳴らず段々と不安になっていった…





( 寝ちゃってるのかな… )





棚の扉を閉めながら「沙優ちゃん遅いな?」と言われ

「そうですね」と答えると店長は戸棚の扉を閉めて

立ち上がりコッチを振り返って

「本当は来ないんじゃないのか?」と笑って問いかけられ

足が震えているのが自分でも分かり

怖いと感じているとポケットの中から

着信音が鳴り出し慌ててスマホを取り出した





「さっ沙優ちゃん!?もう着く??」





電話の相手が沙優ちゃんだと分かるように

大きく名前を呼んでから店長に沙優ちゃんの

「え?」と戸惑っている声が聞こえない様

沙優ちゃんと会話をしているみたいにして

「早く来てね」と伝えた

 




サユ「・・・分かった」





沙優ちゃんの電話を切り自分の心臓の音が

嫌な位に身体中に響いていて息苦しさを感じながら

「早く次の棚しましょう」と必死に平静を装っていた




30分位で来るかと思っていた

沙優ちゃんは中々現れずあの電話から50分以上経っていて

2階の棚卸しも終わってしまった…


 



( ・・・・沙優ちゃん… )





店「・・・沙優ちゃん来るのか?」




「はい…向かってるって…」





一歩ずつ近づいて来る店長に怖さを感じるのに

足はまるで床に張り付いたみたいに一歩も動かなくて

手が震え出していた…





店「本当の事を言え、笑実…

  さっきの電話は一人芝居なんじゃないか?笑」





そう言って伸びてきた手を思わず払い除けて

逃げる様に鍵のあるトイレに走っていき

バンっと扉を閉めて鍵をかけポケットに手を入れて

「ぁ…」と固まった…





( スマホ…さっきテーブルに… )






沙優ちゃんとの電話を切った後にポケットには

いれずにカウンターのテーブルに置いたままだった事を

思いだし口に手を当てているとガタガタっとトイレの

ドアを開けようとする音が響いて怖くなり必死に

自分の手で鍵とドアを押した






電気のついていない暗いトイレで

ガタガタと揺れるドアを押さえながら

怖くて声も上げれないでいると

「笑実ちゃん」と沙優ちゃんの声が聞こえ

「さッ……ちゃ…」と名前を呼びたいけど

上手く声が出せれなかった…





扉の揺れが止まったかと思ったらドンッと

トイレのドアに強い衝撃が与えられ

何が起こったのか分からず息を止めて座ったままでいると

トイレのドアをまた誰かがガタッと開けようとしているのが

分かり「ぃゃ…」と首を横に振りながら

後ろに下がろうとすると

「笑実ちゃんッ」と呼ぶ声に「ぇ…」と…

体の動きも思考も全部が止まった…





( ・・・・・・ )





カオル「俺だから、出ておいで!」





何も考えられなかったけれど

カオル先輩の声を聞いた瞬間…

数ヶ月前まで、よく先輩が私を呼ぶ時に言う

「おいで」と言う時の優しい顔が見えた気がした…




無意識だった…

頭も真っ白で…手足の感覚もあまりなく

何もかもがフワフワとした感覚の中

気がついたら扉の鍵を開けていて

開いたドアの向こうには2ヶ月ぶりに見る

カオル先輩の顔があった…





カオル「もう大丈夫だから」






先輩の腕の中で「怖かったです…」と

泣きながら先輩の服をギュッと握りしめていた…





 




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