香り

〈エミ視点〉








あの後トイレで泣き続けた私は

腫れ上がった目で電車に乗って帰る事も出来ず

沙優ちゃんとタクシーで帰って来た




部屋に入ると鼻をかすめる匂いに眉を寄せて

窓ガラスを全開にし床に座りこんだ…





( ・・・・昨日までは匂わなかったのに… )





鼻が慣れてしまっていたのか

部屋に入ってきても

カオル先輩から貰った香水の匂いを気に留める事はなく

寝る前に一吹きした時に先輩の匂いだと

頬を緩めて喜んでいた昨日までの自分を思いだし

「ばかみたい…」と小さく呟いた…




皆んなが起き出す前にそっと帰ろうと

沙優ちゃんが気を遣ってくれて

6時前にはタクシーへと乗り込み…

6時半を過ぎたばかりの朝の空は綺麗と思えるほどに

晴れ渡ってもなく…少し曇っている





「・・・・雨降るのかな… 」





そう呟いてから後ろのベッドへと顔を向けて

スマホを取り出し天気予報のアプリをひらいてみた





( ・・・・晴れるんだ… )





1時間程度しか寝ていないし

泣き疲れたのもあって

早くシャワーを浴びてベッドの上に

横になりたかったけれど…




カオル先輩の香りがするこのベッドに寝るのが

なんだか嫌だった…





「・・・・だい…きらいですよアナタなんか… 」






数時間前の事を思い出し

棚の上にある香水の瓶を見てそう呟き

「はぁ…」と頬に流れている涙を指で拭き取りながら

枕カバーやシーツを取り外して

柔軟剤をいつもの倍の量を入れて洗濯機に回した…




先輩の香りがするベッドで寝るのは

昨日で最後だったんだからと胸の中で自分に言い聞かせ

浴室へと入り全部洗い流してしまおうと思った…




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