また会えたけど
ゆーり。
また会えたけど①
環境が変われば心持ちも変わる。 ただ中学生から高校生に上がるというだけで勉強にも身が入るというもの。 友悟(ユウゴ)は長年愛用の学習机に座りながら大きな伸びをする。
漢字検定三級の勉強が一段落付き、ふと目に入るは机に飾られている写真立て。 小さい頃仲のよかった二つ年上の蒼良(ソラ)とのツーショットだ。
―――会わないうちに、見た目とかガラッと変わってたりしてね。
手に取って眺めていると窓の先で大きなトラックの影が揺れた。
「・・・ん? 何だろう」
覗いてみると引っ越し屋が来ているようだ。
―――誰かマンションに引っ越してくるのかな?
―――可愛い女の子だったら嬉しいけど、現実はそう都合よくいかないよなぁ・・・。
もっとも、もしそうだったとしても話しかける勇気なんてない。 友悟はもう一度伸びをすると勉強を再開した。 しかし漢字の書き取りに使っているノートがもうすぐ終わりそうなことに気付く。
「マズい、新しいノートを調達してこないと!」
急いで財布を取り玄関へと向かった。
「お母さん、ちょっと文房具屋へ行ってくるー!」
「気を付けてねー」
玄関で身だしなみのチェックをする。 その時母が言った。
「そう言えば、誰かこのマンションに越してくるみたいね」
「そうだね。 さっき引っ越し業者の人が外にいたよ。 って、痛ぁッ・・・!」
「どうしたの?」
「また玄関の棚で頭を打ったよ。 これ欠陥だって・・・」
頭を擦りながら鏡を確認する。 どうやら赤くなっているだけで傷にはなっていない。 今打ったところの横に古傷があるが、それは今の件とは別のものだ。
「よし、行くか」
頭に残る痛みが少しずつ引いていき、玄関を出たところでふわっと憶えのある香りが漂った。
「この香り・・・」
どこか遠い昔に嗅いだことのある柔軟剤のような香り。 心当たりを探ってそれが何か分かった時、友悟は自然と駆け出していた。
「もしかして・・・?」
匂いの元を辿っていくと辿り着いたのはマンションのエントランスで、そこには懐かしい人が立っていたのだ。
「蒼良・・・?」
名前を呼んだのが聞こえたのか前にいる少年は少しだけ反応を見せた。 だが振り向くことなくそのまま歩いていってしまう。
「あ、待って!」
走って追い付き少年の腕を掴む。 強引で失礼であるが、そのようなことを考える余裕もない程友悟は浮かれていた。 そのまま少年の顔を覗き込む。
「・・・ッ! やっぱり蒼良だ!!」
「・・・」
蒼良とは自分の机に写真で飾っていた、小さい頃仲のよかった友達だ。
「蒼良、アメリカから帰ってきたの!? まさかこのマンションに戻ってきてくれるとは思わなかったよ!!」
友悟が小二で蒼良が小四の頃、親の仕事の都合で蒼良はアメリカへと旅立った。 だがその彼が戻ってきたのだ。 何年かぶりに再会でき、友悟はとても嬉しかった。
―――また蒼良と昔のようにたくさん遊べるのかもしれない。
だがその期待は儚く散った。
「俺に何か用?」
「・・・え?」
確かに目の前にいるのは蒼良だ。 背も高く肌も焼け声も低くなっている。 だが間違いなく蒼良だと確信することができた。
―――僕が蒼良を見間違えるわけがない・・・!
だからこそその冷たく突き放すような態度に戸惑った。
「僕のこと忘れたの? 友悟だよ!」
「・・・」
つまらなそうにしていて特に反応しない。
「・・・本当に憶えてないの?」
「君、何歳?」
無表情というより、冷めた表情から口だけを動かして年齢を聞いてくる。
「え、15歳だけど」
「俺より年下じゃん。 なら敬語使えよ」
「・・・え」
「何の用もないなら話しかけないでくれる?」
そう言うと少年は離れていった。
「蒼良・・・?」
昔の蒼良は面倒見がよく、とても親切で温かい人だったはずだ。 なのに今は真逆に感じられる程に冷たい。 久しぶりに再会した蒼良は別人のようになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます