第101話 大災害10~予言~

 ・袋小路の世界を変えましょう。

 貴方の願いは、前世で分かたれた三つの意思に。

 同じ魂はいくつもいらぬ。

 本当の自分に目覚めたら、心は一つと知るでしょう。


 ・死の花を摘みましょう。

 死して横たわるは、鉄の味を知る貴方と彼女。

 看取るは世界の異端者。

 叶わぬと分かりきった願い事は、悔いなく潰れるでしょう。

 

 ・愛する者の為に還りましょう。

 全ては収束し、安らかな眠りにつくでしょう。

 魂が境界の彼方へと旅立つことを願って。


 ・不幸にも貴方は仮面を被る。

 二律背反の自身を守り、生きる理由を復讐に求める為に。

 世界が微笑みの天使で満ちる時。

 思い出は復習と引き換えに、貴方を鼓舞することでしょう。


 ・人という穢れを残し、貴方は眠る。

 銀の獣に願いを託し、真実と共に貴方は眠る。

 全ての命を抱えながら、痛みに耐えて静かに泣いて。

 かつて約束した旅立ちの日まで、愛した彼を見守ることでしょう。




 〜夜叉の猫・サスケ視点〜


 「ウーン」


 ランティスの予言が書かれた紙を見て、溜息スル。

 相変わらずわけの分からない予言をするネエ。


 でも、具体的にどこへ行って何をすればいいかは教えてくレル。

 そんなわけでやって来た、ウルファンス山脈ダヨ。


 吹雪で寒いと言われてたから、覚悟して厚着してたけど、晴れてんジャン。

 お日様がキラキラ輝いてて、気持ちイヨ。


 視界もいいし、魔物もミナイ。

 なんだ、ここ通るの簡単じゃナイカ。


 地面に積もった雪はちょっと解けてて、足元が少しグショグショ。

 歩きにくいナァ。


 そんな調子でトコトコ歩いて行くと、お城が見エタ。

 大っきなお城ダ。

 これがウルファンスのお城カァ。


 ランティスのお家、というか部屋は小さいから、スゴイと思ウ。

 ウルファンスとランティスは同じ疎まれている者同士なのに。


 「えっと、こっちカナ?」


 お城に用はナイ。

 お城のお客さんを探さなキャ。


 魔具を取り出ス。

 悪魔探しのアイテム。

 これで僕も道に迷わず済んダ。


 魔具にエネルギーを通ス。

 すると、すぐに送ったエネルギーが波紋に置換されて、周囲に広がっていくノダ。

 有効範囲は半径百キロメートルマデ。

 かなーり広いから、とっても便利ダヨ。


 そして見つける、悪魔の気配。

 ザッと数えて五百はいるネェ……ッテ!


 「多すぎるヨ!!」


 あ、ソッカ。

 あんまり遅いとグリード街に行くから注意しろって言ってタッケ。

 ランティスが予言した彼らを殺すカラ。

 怒ってるんだ、仲間を殺サレテ。

 残った隊長格の殆どが集結シテル。


 第二隊長ヴァネール・アウナス・クリセレンプス。

 第四隊長レイディ・ハンター。

 第七隊長ウェルチマーナ・オムノス。

 第八隊長モーラン・ハムナ。

 第十隊長ロンポット・マーステル。

 第十一隊長エイシャ・エンクレン。

 そしてその他大勢の騎士悪魔タチ。


 ざっとこんなモノ。

 みんな強いのバッカリ。

 特にヴァネール。

 断罪者の彼は怖いくらい怒ってルシ。


 でも、ラースの魔王はイナイ。

 どうしてダロウ?


 みんなゾロゾロと隊列を組んで、ある方向に向かっテル。

 多分、アソコダ。


 オレもそこに行かなくちゃイケナイ。

 なら、見つからないようにしてイコウ。


 気配断ちの結界を自分の体に合わせて張ル。

 足場が水混じりで、どうしても足音が立っちゃうけど、これなら大丈夫ダトオモウ。


 「ンジャ、道案内をしてモラウヨ」


 オレは彼らの後を、コッソリとついていくことにシタ。



 ---



 〜ダゴラス視点〜


 剣が腹を貫く。

 アマンダの黒い甲冑を突き抜けて。


 激しい攻防の後のこと。

 マールがいたせいで遠回りしたが、ようやく一人処理出来た。

 後は持ってる剣で、心臓を斬れば……


 「シフィーィ!!」


 味方の叫びが突然聞こえた。

 声に反応して振り返る。


 「まじか……」


 氷の分御霊クラルス イマーゴが、ボロボロの状態で這いずっていた。

 上半身だけの氷の体を引きずって、何かの元へ行こうとしている。

 それは、血にまみれて重症の二人、シフィーとララだった。


 負けたのか。

 ララまで……

 そんなに強い相手ではなかった筈だ。

 何故……


 「おおおぉぉ!!」


 俺のそうした隙を敵は見逃さなかった。

 アマンダが俺の剣を、無理矢理引き抜く。

 彼女が尻もちを突いたと同時に、俺とアマンダの間に巨大な岩の壁が出現した。


 「チッ!!」


 現れた岩壁をすぐさま切断して、壁の向こう側へ踏み切る。

 すでに彼女はマールに回収されていた。

 クソ、やられた。

 だが、それよりも……ん


 ガンッと氷が砕ける音が広がった。

 護り手ゴーレムの足が巨大な氷像の頭部を踏み抜いたのだ。

 

 大きな気配が消えたのを感じる。

 ウルファンスまで……

 まさか、七十二柱が負けるとは。


 焦りを押し込めて考える。

 ウルファンスがあんな反応を示す理由。

 彼女の私情。

 ……シフィー。


 そうか。

 彼女は、だからか……


 ならせめて、救おう。

 二人を。


 マールが俺の進行方向に、溶岩でコーティングした岩壁を作り出す。

 俺は素早く水の能力を発動して、数発放つ。

 水が当たった個所から溶岩はただの岩に戻る。

 そこを俺の剣で壁を切断。

 その先へ走る。


 マールの遠距離攻撃を振り切って、全力でシフィーとララの元へ急ぐ。

 ゴーレムが二人を足で潰そうとしていたからだ。


 脚スピーリトゥス級強化を施す。

 それに加えて……


 「始まりの風よラド・スピーリトゥス!」


 能力を唱えて、高圧縮した風を背中辺りに出現させる。

 一対の羽のように展開して、走りながら羽ばたく。

 俺の全力の移動方法。

 速度はララのスピードを超える。

 そして、二人の元へたどりついた。


 「おい、大丈夫か!」


 二人の様子を見る。

 ララはシフィーの手当てをしていた。


 ララの方は大丈夫だ。

 命に別状はない。

 ただ、もう戦闘は出来ないだろう。


 問題はシフィーの方だった。

 片方の足と腕がない。

 残った方も使い物にならない。

 そしてなにより、腹に開いた穴が深刻だった。


 内臓が複数抉れている。

 本当ならドバドバ出血してるところなんだろうが、何とかララが魔具で持ちこたえさせている。


 「おか…あさ……まが……!」 

 「話しは後だ!」


 ララを背中に背負う。

 能力で土を粘土状にして、俺の背中に固定する。

 シフィーは丁寧に両腕で抱きかかえて。


 俺達を踏みつぶそうとする巨大な足はすぐ真上まで来ていて、アリを踏み潰そうとするように殺そうとしていた。

 さっきの要領で、風の能力行使は出来ない。

 二人に負担がかかるからだ。


 俺は土の能力で、十本の太い岩柱を地面から生やす。

 巨大な足の底を支えるために。

 ガンッガンッガンッと音が響いた。

 ゴーレムの足を少しの間だが支える。

 作ったタイムラグを利用して、巨大な足の影から脱出した。


 上空を見てみる。

 龍と神聖種の狐が主人もなしに、勝手に戦闘を繰り広げていた。

 暴走じゃない。

 主人の指示を遂行しているのだ。


 ドラゴンの背中にマリアはいない。

 シフィーと一緒に乗っていたはずだが、どこにも見当たらない。

 ……脱出したか?


 シフィーとララは戦闘不能。

 マリアは行方不明。

 アイツはゴーレムの中で状態が分からない。

 ってことは……


 「残ったのは俺だけかよ」


 あ~あ。

 結局こうなったか。


 実は、こういう危機的状況は結構経験している。

 俺以外仲間はみんな全滅。

 一人だけ生き延びる。

 そんなの慣れっこだ。


 さて、ゴーレムに、魔王の側近一人。

 神聖種はドラゴンが抑えているから……


 「一人と一頭か・・・」

 「ほうほう。ダゴラス様は一人になったようですな」


 いつの間にかやって来ていた相手が、対話をしてきた。

 マールだ。

 都合がいい。


 「戦いなれない奴も連れてきちゃったからなぁ。仕方ないさ」

 「敵として言うのもおかしなものですが、あのウルファンスまで倒されるとは思っていなかったのですよ」

 「だろうな」


 俺だって想定外だ。


 「実はですの、私、ダゴラス様と手合わせをしてみたいと前々から思ってましてな」


 そうきたか。

 マールも実力的に七十二柱に近いものがある。

 抑えきれまい。

 ますます都合がいい。


 「もう状況的に、俺とあんたが殺しあうしかないだろ。言われなくても戦うさ」


 俺の即答に喜ぶマール。

 戦いに喜ぶ、か。

 人間に近くなっている証拠だ。

 柱落ちも近いんだろう。


 「丁度、魔王様も取り込み中ですからな。私にとっても大変都合がよろしい」


 見ると、ゴーレムの動きが止まっていた。

 そうか。

 アイツも戦ってるんだな。

 俺も気合を入れなおす。


 形としては、一対一の戦闘を所望している。

 この状況を作り出したかったから、まずアマンダに俺を攻めさせた?

 結局は俺と戦うことになるのだから、魔王の背信行為にはならないだろう。

 結果、魔王にも検知されない。


 ニヤッと皴のある年季の入った顔が笑う。

 老獪な面持ちが、若者のような好奇心を持つことの恐ろしさ。

 それは十分に承知している。


 「なあ、俺達が戦ったら、確実にこの二人、消し飛ぶだろ」


 シフィーとララを指さして言う。

 ララはその間もシフィーの出血を魔具で止めていた。

 ララと目で合図する。

 テレパシーは使わない。

 傍受される恐れがあるからだ。


 「この二人は巻き込みたくないと?」

 「察しが早くて助かる」

 「いいでしょう」


 マールも自分の欲望には勝てないか。

 俺にもその欲求はある。

 実に魅力的ではあるが、とっくのとうにそんな衝動を打ち消す段階は克服している。

 俺はそんなレベルじゃない。


 「これを」


 そう言って、マールが魔石を投げてくる。

 キャッチして、表面を見る。

 転移の陣が精密に描かれていた。


 「転移魔石か」

 「左様で」

 「どこに繋がってる」

 「グリード城内部。ゴーレムの中にある、私の私室ですよ」

 「安全か?」

 「安全ですとも。あそこには幾らか魔石も置かれているのですよ。彼女達であれば、それでその怪我も癒やせるかもしれませんな」

 「お前の部下は?」

 「いないですとも。元から立ち入りは私以外禁止なのでね」


 魅力的な提案だ。

 だが、一つ気になることがある。


 「それ、魔王を明らかに裏切ってるよな」

 「そう思われますか?」

 「お前、元からか」

 「ええ。人間の動乱が風の噂で流れて来た時、決心しました。自分の意思を尊重しようとね」


 もう落ちていたのか……

 そんなことを考えたなら、魔王が速攻でマールを殺しにかかるはずだ。

 断罪者を他領土から転移して。

 それがなく、今まで隠せたのだったら。


 「お前、ジャミングの能力があるのか」

 「当然でしょう。なければ私の企みが、グリードの全悪魔へ瞬く間に伝わってしまいますからな」


 本当だ。

 このマールから伝わってくる感じ。

 嘘は言っていない。

 つまり、今現在ジャミングを使用していないことになる。


 「魔王に聞かれてるぞ、きっと」

 「いいのです。これは宣言なのですから」

 「宣言?」

 「ラースの英雄……七十二柱、第四位のダゴラス・ガープを殺して、私が成り代わるということですよ」

 「そうかい」


 思わず溜息。

 そういえば、昔はこんな奴、沢山いたな。

 マリアが地獄中の悪魔達の意思を制御する前の話だ。

 人間であるアイツがこの世界に来たことで、前の時代にどんどん戻ってるな、こりゃ。


 「頭の切れる老人かと思ってたがな、とんだ思い上がりだったみたいだ」

 「誰しも自身の欲求には逆らい難いものでしょうに。せっかくの機会だ。使わなければ損でしょう。どっちみちグリード街はこんな惨状なのですからの」


 これはマールの言いわけだ。

 口実をそれっぽく作っただけだ。

 本当は戦いたいだけ。

 そんな気持ちがダイレクトに俺へ伝わってきた。


 油断は出来ない。

 溶岩は触れればそれだけで大ダメージ。

 簡単には殺させてくれないだろう。


 「ララ!」


 俺は振り向くことなく、背後の彼女に呼びかける。


 「これからお前達をゴーレムの中まで飛ばす。安全な場所だそうだ」

 「ダゴラス様……」

 「謝るな。お前なら、きっと……なんとか生き延びてくれ」

 「……はい」


 言いたいことを言い終えて、転移魔石を起動する。

 そのままララの方に置いて、数歩後ろへ下がる。

 眩しい赤色の光が周囲に拡散していく。


 しばらくして、転移の光が収束する。

 その中心に彼女達の姿はなかった。

 これで二人だ。

 思う存分戦える。


 「始めましょうかのぉ」


 マールが杖を振る。

 背後にマグマの巨人が現れた。

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