第44話 勝利と戦利品

B「ほな、正義はアイスの巻物を使います! これで終わるかな……?」


――では、巻物から氷の飛礫が飛び出して、黒装束の隊長に襲いかかりました。

 【シークレットダイス:??】 ダメージは7。

 隊長は全身を硬直させて、苦しそうに咳き込みます。


A「二連続で7。やっぱりこいつ、アイス系の魔法が弱点ですね」

B「ついてたな。ってかこいつ、体力多すぎひん? まだ死なんのかいな」

A「何かのスキルの力かも。……ねえGM、隊長さんの様子はどうですか?」


――かなり追い詰められていますが、まだ動けそうですね。


A「この感じ、あと一押しっぽいけど、『体力1でギリギリ』って感じじゃない気がする」

B「せやね」


――では、シュリヒトのターンをお願いします。


A「もちろん、《必殺剣》を隊長に! 【ダイスロール:12】 うおおおおおお! 超獣王・強烈渾身瞬殺斬り! 装甲無視の8ダメージ! どおだ!」


――はい。シュリヒトが、渾身の力を込めた必殺剣を振るった、その時です。


隊長(GM)「ふん!」


――と、鼻息荒く、何らかの術を使って黒装束Bを自分の手元に引き寄せます。

 シュリヒトの放った超獣王・強烈渾身瞬殺斬りは、彼の身体に突き刺さるでしょう。


シュリヒト「な……っ。こいつ、仲間を盾に……!」

正義「腐れ外道が」

隊長「勝てば良いのだ、勝つことこそが正義なのだ! フォルターは俺に、その事を教えてくれた!」

正義「アホ言え。その理屈で言うなら、やっぱりお前が悪やないか。……これから、負けんのはお前なんやから」

隊長「ふんっ。言ってろ……!」


――残った一人。黒装束(隊長)のターンです。彼はまず、口元を覆う面頬を外して、その口元を露出させます。幅広で短めの鼻先、出っ張って彫りの深い尾骨。なにより、赤錆色の鱗で覆われたその顔面は、ドラゴンを思わせました。

 ”知力”判定、難易度は”普通”12以上で成功です。


B「人型のドラゴン。……そういうことか。【ダイスロール:6(+8)】」

A「爬虫類だから、氷系の魔法に弱かったのかな? 【ダイスロール:5(+5)】」


――では、勤勉な正義だけが、彼の正体に気づきます。

 彼の正体は、太古より竜神により産み出された存在。誇り高き流浪の戦士。ドラゴンボーン、……あるいは単純に、”竜人”と呼ばれる種族のようでした。


B「りゅうじん。……ふーむ。なるほど……」


――男は、口の中でぶつぶつと何かの呪文を呟き、……そして、最後に、ナイフの切っ先をシュリヒトに向けます。

 同時に、彼女の全身を不可視の斬撃が切り裂くことでしょう。

 魔法なので、攻撃は必中。ダメージは……【シークレットダイス:??】 ……うーん。7点ですね。


A「そんだけ大口叩いて、1点ダメージとは」

B「正直笑った」


――あ、でも一応、毒は付与されるので、次のターンでシュリヒトは倒れますよ。


A「でもそれって、回復しなければ……でしょ?」


――……はい。まあ、それはそうですけど。


B「このレベルの技、なんども使えるとは思えん。部下も失ったしこいつ、これで詰みやな」

A「普通なら、そろそろ降参するか逃げるかしそうなものですが」


――少なくとも、彼にその気はないようです。


A「やられ役の鏡」

B「ほな、念のため”毒消し”だけシュリヒトに投げ渡します」

A「さんきゅー」

B「ほんで、最後の一枚。アイスの巻物で……死んでもらおか」


――では、氷の飛礫が隊長に襲いかかります。

 ダメージは……10点です。


A「これは……」

B「いくら元気っちゅうても、これだけ喰らったら……」


――はい。

 では彼はついに、泡を吹いて気を失ってしまうでしょう。


正義「仲間を盾にした時点で、お前の因果は定まっとったんや。――この世になんの爪痕も遺せず、退場するってな」

シュリヒト「だいしょーり!」


――などと、勝ち台詞を二人が言っていると、田中一郎が現れるでしょう。

 彼の手には、梱包用の紐が握られています。


一郎「おおおおい! 二人とも! これを使ってくれ!」

シュリヒト「ないす。気が利くじゃん」


――ではあなたたちは、手持ちの道具を消費することなく、彼らを拘束することができました。


A「では、たのしいたのしい、持ち物漁りタイム」


――はい。では二人は、連中の武器と防具を剥ぎ取ります。

 手に入ったのは、以下の内容ですね。


 邪教徒の隠密服×4

 ナイフ×3

 サボターズ・ナイフ×1

 毒消し×1

 他、500G相当の換金アイテム。


A「……ふむ。サボターズ・ナイフ、ですか」


――はい。


B「? Aちゃん、なにか知ってるん?」

A「ええ。このサボターって男の名前、知ってるんですよ。魔神フォルターをこの世に生み出したダークエルフです」

B「まじか。元凶そのものやん」

A「ただ、彼は死んだはずですけれど。うーむ」

B「こいつらに少し、話を聞いた方が良さげやね」


――とはいえ、シュバルツとシュリヒトは別人です。

 サボターのことは知らないはずですので、ご注意を。


A「りょーかい。……あ、ところであたし、いちおう”毒消し”を飲んでおいた方がいいかしらん」

B「必要ないんちゃう? ちなみにGM、戦闘終了後の毒のダメージって……」


――戦闘が終了したことですし、今回の場合は考えなくても大丈夫です。


A「それじゃ、節約しときましょう! お金は実質、キャラの戦闘力に直結してますから」

B「せやね」


――現状、二人は下着姿の邪教徒たちのそばで立っている、って感じです。


A「この人たち、みんな気絶してるだけ?」


――はい。そうですね。


A「まだ生きてるって、……わりと強いな、黒装束Bさん」


――とはいえ、適切な処置をしなければこのまま死ぬでしょう。


A「ではまず、黒装束Bだけを起こして、話を聞いてみましょう」


――承知しました。


シュリヒト「起きろ」

黒装束B(GM)「ぐ……ぐうう……。あれ? こ、ここはいったい」

シュリヒト「話、聞かせろ」

黒装束B「なに。……お、俺たちは負けたのか」

正義「自分でも、死にかけなんがわかるやろ? 生きて帰りたければ、事情をあらいざらい話せ」

黒装束B「事情、……と、言われてもな。俺たちはただ、雇われただけだ」

正義「雇われた? 誰に?」

黒装束B「エクシリオとかいうやつだ」

正義「エクシリオ……聞いたことのない名前やな」


――ではあなたは、”知力”で判定を。

 難易度は”普通”。12以上で成功です。


A「はい。【ダイスロール:11+5】 成功」

B「ほな、うちは振らんとこ」


――では、成功したシュリヒトは、エクシリオという名前が、この地方には馴染みのない発音であることに気づきます。


シュリヒト「外国人、ってことかにゃ」

黒装束B「ああ、……たぶんそうだ。あいつ、見たこともない金貨で支払ってきたから……」

シュリヒト「ふーん」

黒装束B「俺が知ってるのは、これだけだ。……なあ、頼むよ! し、死にたくねえ。ポーションを……!」

正義「でもきみ、いままで”転移者”たちが同じセリフ言うても、無視してきたやろ?」


――ヒェッ……。なんて冷たい目だ……。


B「せめて、楽に殺したる」


――しょ、承知しました。

 正義は、奪ったナイフでその心臓を一突きするでしょう。

 黒装束の彼は目を見開いたまま、息絶えました。


B「生かしておくメリットがない。メリットが」

A「正義キャラとは思えない冷酷な判断……しびれちゃうぜ……」


――黒装束Bの人生は、さんざんな幕引きになりましたね。

 ちなみに話を聞ける相手はまだ、AとCと隊長がいます。


A「じゃ、まだ残機が三つ残ってるってことだ」

B「あと三回まで拷問できるな」

A「いやー、楽しくなってきた!」


――TRPGあるある。……敵NPCに厳しい。


【To Be Continued】

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