第34話 よくある喧嘩

正義(B)「あれー? ぼく、なんかやってもぉた?」

ドワーフ(GM)「どおおおおおおおおおおおいうふうに落とし前付けてくれるんだおまえええええええええ!」

正義「うーん。なんか重要アイテムっぽかったけど。ま、そういうこともあるわな!!」


――ちなみにいまの、プレイヤーとしてのセリフですか? 正義としてのセリフですか?


B「もちろん、正義です!」


――ではドワーフくん、みるみる顔が赤くなっていきますね。


正義「まあまあ、おっちゃん。こういう日もあるって。しゃーないしゃーない!」

ドワーフ「俺は……まだ”おっちゃん”って歳じゃない!」


――ではドワーフは、多少酒が入っていたこともあるでしょう。

 怒り狂いながら、殴りかかってくるでしょうね。


A「マジか。……えっ、マジですかあっ!?」

B「うふふふふ」


――……えっと、どうします?

 まだギリギリ、会話で戦闘を回避できるかもしれませんが。


B「いいえ。やりましょ」

A「わおわお、やるの!? Bちゃんひょっとしてゲームの時、性格変わるタイプ?」

B「こういう時は、しっかり話し合いに持ち込まれて損害賠償を請求される方がマズい。たぶん一度の戦闘で支払うコストより、タブレット端末一つの方が高いと思うから」

A「あー……。なるほどぉ」


――(犯罪者の発想だ……)

 で、では、ドワーフはまんまとあなたたちに殴りかかります。

 戦闘開始ですね。


B「とは、いえ。……装甲の低い正義がダメージを受けるのは避けたい、かも」

A「ですね。シュリヒトが盾になることはできますか?」


――では、それができるかどうか行動順を決定しましょう。

 【シークレットダイス:??】 ……ふむ。

 正義⇒シュリヒト⇒ドワーフの順番ですね。


B「ちなみに、お店の人はこっちに気づいてるん?」


――話の内容まではわからないまでも、店内のことには意識を向けているでしょう。


B「ほな、あえて先制攻撃を許そっか。襲ってきたのは向こうっちゅうことにしよ」

A「わかりました」

B「まったく、短気は損気。……暴力に頼らん方が、正当に弁償を要求できたっちゅーのに。阿呆な人ですこと。うふふふふ」


――(おや? この娘、ちょっと目つきが怖いぞ?)


A「あ、ちなみにBちゃん、戦闘ルールは予習してきてくれました?」

B「ばっちり。そんな難しくなかったし」


――では、基本的なルール説明は省略します。

 まず、正義のターン。どうしますか?


B「向こうの狙いは正義、ですよね? ほな、それとなくシュリヒトの後ろに隠れます」

A「もちろんシュリヒトは、阿吽の呼吸でその盾になるでしょう。」


――攻撃はしない、と。


正義「いやあ、失敗失敗。でも悪気があったことやないしな。誰も悪くない! それでは失敬!」


――では、シュリヒトのターン。


シュリヒト(A)「……じゃ、さよーなら!」


――そして、ドワーフの冒険者のターン。


ドワーフ「てめえええええええええええええええええ、ぶっころっしゃあ!」


――彼が攻撃したいのは正義の方ですが、シュリヒトに遮られていますね。

 ドワーフは、シュリヒトを無視して正義へと向かいます。

 その際、一ラウンドに一回だけ、”機会攻撃”を行うことが可能です。


A「おや新ルール。”機会攻撃”というのは?」


――手の届く範囲内から逃げ出そうとする敵に、追い打ちすることができるルールです。

 自分に注意が向いていない相手に一度だけ、追加で攻撃のチャンスがある、ということですね。

 ちなみにこのルールは今後、プレイヤーが宣言することで初めて発動します。ターンが終わるまでに宣言しなければキャラも見逃した判定になるので、「さっき言い忘れた」は通用しないことをご注意ください。


A「にゃるほど。ではシュリヒトはその、”機会攻撃”を宣言します。ロングソードで斬り殺す……訳にはいかないので、ドワーフくんの背中に組み付いて、投げ飛ばしたいのですが」


――いいでしょう。格闘攻撃の判定です。ファンブル以外で成功です。


A「【ダイスロール:6+7】 まあ、ここまでは当然成功、と。さらに、攻撃判定……【ダイスロール:2-3】 ……ありゃー。ノーダメージ」


――では、ドワーフは怒り狂って、殴ってきたシュリヒトに向き直るでしょう。


ドワーフ「くっそお! くそくそくそ! じゃまだ、女ぁ!」

シュリヒト「だめ。喧嘩、いけない」

ドワーフ「喧嘩売ってきたのは、きさまらだろおおおおおおおがあああああああああああ!?」


――では、ターン巡って正義です。


B「ねえ、GM。一つ聞いてよろしい?」


――なんですか?


B「もし、このドワーフの装甲が3以上あった場合って、ひょっとしてお互いダメージを与えられないまま、千日手になってしまうんとちゃいます?」


――そうですね。

 この世界の冒険者たちがケンカっ早いのは、殴っても相手が簡単に倒れないから、なのかも。


B「いやそんな、他人事みたいに……!? うち、装甲1しかないんですけども! ふつーに殴り合ったら、負けちゃう!」


――別に構いませんよ、魔法を使って倒してしまっても。

 そもそも、この世界の住人は頑丈なので、そう簡単には死なないのです。


B「あ、そっか。たしかこのゲームの戦闘、トドメ刺さないと死なないんでしたっけ」


――はい。あくまで”体力”は、「問題なく行動できる体力の限界」を示していますので。


B「ふむ。……では、武器を使ってしまっても……大した問題にはならん、と?」


――問題は問題ですが、酒場ではときどき見られる光景でしょう。

 怪我に後遺症のない世界というのは、そういうものです。


B「ふふふ。なるほど、さすが異世界人。うちらみたいな現代人とは、根本的に考え方が違うわけや」


――ではラウンド巡って、正義のターン。


正義「そんならこの世界流のやり方で、反撃させてもらう……! ”アイスの巻物”を使用するッ!」


――では”アイスの巻物”を一つと、精神力を1消耗させてください。

 その後の処理はこちらで行います。


B「あい」


――正義が巻物を広げると、氷の飛礫がドワーフに襲いかかります!

 【シークレットダイス:??】……おや。

 ドワーフの男は、いまの一撃であっさりと昏倒してしまったようですね。


B「弱っ!」

A「……と、いうより、”アイスの巻物”のダメージがよっぽど深刻だったんでしょう」


――戦闘終了です。

 あなたたちの前には、目を回したドワーフが一人と、迷惑そうな顔つきの店主がいるだけ、という感じですね。


正義「……ふう。やっつけたやっつけた」

シュリヒト「迷惑なやつ」

正義「迷惑料代わりに、武器を奪っとく?」


――正義がそういうと、さすがに店主が止めに入ります。


店主(GM)「ちょ、ちょっとちょっと! さすがにこれ以上のもめ事はごめんだよ! 酔っ払いの喧嘩ぐらいなら許すけど、持ち物に手を出したら、さすがに通報しないわけにはいかないからね!」

正義「ふーん。喧嘩はええんや。ふつー逆やと思うけど」


――どうもこの世界では、怪我よりも盗難の方が、罪が重いようですね。


B「……文明が未発達の時代では、人命よりも物品の方が価値が高かったりするって、世界史で習ったけど」


――そうですね。だいたいそういう解釈でいいでしょう。


正義「ほな、次いこっか! この調子で、雑貨屋の店主もぶちのめそう!」

シュリヒト「おっけー、にゃん」


――きみら、もめごとを解決しに来たのに、さらなるもめごと起こしてない?


【To Be Continued】

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