第25話 結末へ向かって

――では黒男は待合室を通って、エレベーター方向へ向かいます。

 これはわざわざ調べるまでもわかることですが、すでにエレベーターはこの階に到着していて、あなたを待ち受けているかのように、開いていました。


黒男「きっと、この後がクライマックスになるな。たぶん」


――そうかもしれませんね。


A「ではまず、《応急手当》を使いますか」


――では、【1D6-1】を。


A「【ダイスロール:4】 ほい、全快、と」


――あなたは自身の怪我に適切な処置を施すことができました。


黒男「よおし。……じゃ、この物語を終わらせにいくとするか」


――エレベーターに入る、と?


A「はい」


――では、エレベーターは特に問題なく閉まることでしょう。


A「エレベーター内に、気になるものはありませんか?」


――あります。


A「待ってました!」


――エレベーターの中には一枚の羊皮紙が貼り付けられています。

 そこには、今日の日付と共に、以下の内容の掲示物が貼り出されていました。




『院内患者リスト』

 魔術師:裏切り

 恋人:コミュニケーション不全

 吊された男:意味のない努力

 死神:覚醒

 節制:浪費

 悪魔:生真面目

 塔:破壊

 星:無気力

 月:希望

 太陽:意味のない時間

 世界:未完成




A「手厚いヒント、ありがたいですね!」


――(現代編のチュートリアルシナリオだからね)。

 それでは、一階のボタンを押しますか?


A「いいえ。その前に、いったんここで、これまでの情報をまとめておきましょうか。最初の羊皮紙に書かれていた問題。……『おまえはだれだ?』について」


――いいでしょう。存分にどうぞ。


A「まず、これまでの情報をざっくり整理しておきましょう。……この病院の中には、タロットカード表に基づいた、様々な人たちが入院しています。

 情報によると、


『0 愚者/I 魔術師/II 女教皇/III 女帝/IV 皇帝/V 教皇/VI 恋人/VII 戦車/VIII 正義/IX 隠者/X 運命の輪/XI 力/XII 吊された男/XIII 死神/XIV 節制/XV 悪魔/XVI 塔/XVII 星/XVIII 月/XIX 太陽/XX 審判/XXI 世界』


 こんな感じでしたね」


――ふむ。


A「この病院にはこれまで、自分の顔を映すものが登場しませんでした。これはつまり、私の付けている仮面を推理することこそが、このシナリオ、『おまえはだれだ?』の主題であると思われます」


――ふむふむ。


A「と、なると……答えは……」


――答えは……?


A「……これまで……登場していないやつ……ってコト?」


――さて。どうでしょう。


A「っていうかこの推理、情報を見逃していないことが前提なんですけど!」


――そうですね。TRPGにおいては、全ての情報が揃った状態で前へ進めるとは限りません。我々の人生と同様にね。


A「ウムムムムムム……。それに、まだよくわかっていないこともあるしなあ……」


――もちろん、進むも戻るも、あなたの自由です。


A「……ところで恋人ちゃんは、いまどうしてますか?」


――突如として黒男が自分の世界に入り込んでしまったので、退屈そうにしているでしょうね。


A「では、彼女をぎゅっと抱きしめます」


――ではあなたたちは、エレベーターの中でたっぷりイチャイチャするでしょう。


黒男「ここを出たら、仮面ごしじゃない、本当のキスをしよう」


――……キャッ。カッコいいセリフ。


A「……じーえむぅ。いい歳して『キャッ』とか言わないでくださいよお」


――はっはっは。

 ちなみにそのセリフ、Aちゃんがいつか言われたい感じのやつ?


A「からかわないでください。ちょっぴり役に入り込んじゃっただけです!」


――なるほど。素晴らしいことです。

 いずれにせよ恋人ちゃんの好感度はもう、最高潮です。あなたのためなら、命を投げ出すことだって厭わないでしょう。


黒男「それはいかん。死んではいけない。長生きせねば。ぼくも、きみも」


――すると彼女は、何も言わずに首を横に振ります。


黒男「こうなったからには、幸福な結末であることを願いたいものだ。……さもなければぼくは、この世界の神を憎むね」


――黒男が、GMに向かって暴言を吐いたところで、……さて。

 その後結局、あなたはどうしますか?


A「……それは……そうですね。迷っていてもしかたない。この場で足踏みしていることによって、事態が悪化することも考えられます」


――(本当に鋭いな、この娘は)


A「1Fを目指します! 全ての決着を付けるために!」


――いいでしょう。

 エレベーターは通常通りに稼働し、あなたの身体をゆっくりと、だが確かに、下へ下へと運んでいきます。

 永遠とも思える時間が過ぎた後、ちん、と音を立てて扉が開きました。

 その先にあったのは、一面の暗闇。

 その中にぽつんと、カンテラの淡い光に照らされたテーブルがあり、そばには一人の男が佇んでいました。


A「……一歩、エレベーターの外へ踏み出します」


――それではまず、”五感”判定をお願いします。

 難易度は”難しい”、出目5以上で成功ですね。


A「……【ダイスロール:7】」


――ではあなたは暗闇の中に、とてつもなく広い空間を見いだすでしょう。

 そして、直感的に気づきます。

 このような構造の建物が、この世に存在して良いはずがない、と。

 言いようのない不安に囚われたあなたは、狂気値を加算してください。【1d6-2】です。


A「ほいほい。【ダイスロール:2】。はい、減少なし」


――……ちっ。


A「おや? いま舌打ちが聞こえた気がしましたが」


――ああいや、あと2点追加でちょうど、長期的狂気が発現していたのですが。


A「マジですか、あぶなっ。最後の戦いを前にして、それは……」


――たいへん面白い展開になると思ったのですが、残念です。


A「ひどーっ」


――まあ、いいでしょう。長期的狂気のロールプレイは次の機会に譲るとしましょう。


黒男「……。あんたが”世界”かい?」


――すると彼は、こくりと首を盾に振ります。

 そして、男とも女ともつかない中性的な声で、こう語りかけてきました。


世界「やあ。”選ばれし者”よ。よくここまで来たね」

黒男「悪いが、そろそろこのゲームを終わらせる時が来たようだ」

世界「ふむ……。覚悟は固まっているようだな。――いいだろう」


――それでは……、


A「先手必勝! 目の前のあいつに、ナイフ攻撃をぶちかまします!」


――ちょっと待ってください。話を最後まで聞いて下さい。

 少なくとも”世界”は、争う気はないようです。


A「なぬっ。あたしの想定していた展開とちがうっ。こういうときって、なんだかんだで暴力で解決するものかと!」


――きみ、修羅の国出身の人?


A「ってことは、バトルはなし?」


――あなたが手を出さない限りは。


A「あぶなっ。さっさと殺してしまうところでした」


――えーっと。

 すでにお気づきかもしれませんが、現代編のシナリオは、防具を与えられません。現代人にとっての衣服は、身を守るためというよりは、オシャレのためだったり防寒のためだったりするためです。


A「まあ、そーいえばそーですね」


――防具がないということは、装甲の値が0だということです。

 従って現代編は基本的に、戦闘を主体としたシナリオが少ないのですよ。


A「ほえー。にゃるほどー。では黒男は、ナイフをいったんしまって、話を聞くことでしょう」


――ご理解いただけたようで、幸いです。


【To Be Continued】

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