第23話 狂人戦

――では、”吊された男”との戦闘です。

 ルールは覚えていますか?


A「ええっと……

 ①命中率は、使う武器ごとに”筋力”判定。

 ②命中したら、武器ごとに設定されているダイスを振ってダメージ算出。

 ③『算出されたダメージ-装甲』の値だけ体力を減らす。

 ④体力が0になったら気絶。

 ⑤気絶後、しばらく放置されるorトドメを刺されることで死亡。

  だったかな?」


――おお。びっくりするほど完璧ですね。


A「前に帰った後、ルールを復習しましたからね。

 それとあと、手番はメイン、サブの2アクションによって行われます。

 メインアクションは、攻撃に関するあらゆる行動、あるいは数秒以上かかる行動。

 サブアクションは、10メートルまでの移動と数秒以内で行われるあらゆる行動。

 ……でしたよね?」


――不思議なところで勤勉な娘だなぁ。

 でも、ありがとう。助かるよ。


A「えへへへ」


――……と。なんだかほんわかした雰囲気ですが……状況は深刻です。

 一対一の勝負。敵はメスを振り回す狂人、あなたは、体力3、筋力2の軟弱男ですからね。


A「……こちらの攻撃の性能は?」


――はい。では、あなたの攻撃手段、”格闘攻撃”と”投擲”に関するルールを解説します。

 格闘攻撃……両手武器/攻撃力1D6-3/命中率5/射程:接近

 投擲(ニンテンドースイッチ)……両手武器/攻撃力1D6-3/命中率:8/射程:6メートル


A「ちなみに、敵の装甲は?」


――お互いに0です。どちらも薄っぺらい病院服を着ているので。


A「わかりました……ではまず、行動の順番を」


――はい。【ダイスロール×3】……ふむ。

 では行動順はとりあえず、”吊された男”⇒円筆黒男です。


A「初手番を取られたかぁ。恋人ちゃんをやられて、動揺してたのかな?」


――かもしれませんね。ではまず、”吊された男”の攻撃を……。


A「あ! 戦闘開始前に、いったんロールプレイいいですか?」


――え?


A「”吊された男”に一言、カッコいい言葉を言いたくて」


――なるほど。いいでしょう。


黒男(A)「ぼくはこれまで……円筆家の次男として、何不自由なく暮らしてきた……いわゆる、世間知らずのぼんぼんと言って良いだろう。だが! そんなぼくにだって、許せないことくらいわかる! なんの罪もない人を傷つけるなんて……! ぜったいに許せない!」

吊された男(GM)「ふん。――甘ちゃんのお前に教えてやるよ。あんたが安穏と暮らしてきたその下ではなぁ……数多の、踏みつけられた幸福が、命があるってことを!」

黒男「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


――気合いの入った台詞の後で申し訳ありませんが、まず”吊された男”のターンです。

 【シークレットダイス:??】×2 命中しましたが……ダメージはなしですね。


A「……ほう。――命中率は低いが、攻撃力はない。そういうことですね?」


――まあ、メスですし。ぶっちゃけカッターを振り回してるようなものですから。

 ただし忘れないでください。もし”吊された男”がクリティカルを出した場合、高確率でダメージを受けてしまうでしょう。そうなると、黒男は即死してしまうかもしれない。


A「緊張感を持て、と。……では! 黒男は、サブアクションで敵から距離を離して、18号室の方へ向かい、そこでニンテンドースイッチを投擲します!」


――ほう。……そうするとあなたは、恋人ちゃんを置いていくことになりますが。


A「そのためのヘイト稼ぎですよ。……でももし、”吊された男”が恋人ちゃんの方に向かうなら、また考え直しますけど」


――ふむ。そうですね。先ほどのロールプレイの後のことですし、敵はあなたに対して憎悪を向けているでしょう。すでに無力化した恋人ちゃんのことは気にしなくて構いません。

 では、投擲の判定に移って下さい。


A「ほりゃあ! 【ダイスロール:5】 ……あっ!」


――それでは、ニンテンドースイッチは明後日の方向に飛んで行きましたね。


A「うーん。筋力2だと辛い!」


――尖った性能のキャラクターにした仇が出ましたね。黒男くん、探索は得意ですが喧嘩は苦手だ。


A「あちゃー」


――では、再び”吊された男”のターン。彼は歓喜の笑い声を上げながらあなたに接近し、メスを振り回します。【シークレットダイス:??】 ……あ! クリティカル。


A「げぇ。マジか。GMがさっき、変なフラグを立てるからですよ!」


――別に、そんなつもりは……。

 とはいえ、容赦なくダイスは振らせていただきましょう。攻撃を二回判定します。【シークレットダイス:??】×2 ……ほほう。


A「えっ、これひょっとして……?」


――では、”吊された男”の一撃は、あなたの頸動脈を切り裂きます。血が勢いよく噴き出し、あなたは体力以上のダメージを受けてしまうことでしょう。


A「お…………終わり?」


――……………………。


A「これで、バッドエンドってこと………………?」


――……………………。


A「おや。なんだかGMがキャラシートの方をちらちらみている気がするぞ?」


――……………………。


A「あ! そっか! 《根性》スキルを使います! 精神力を全て消費して、体力1で蘇生します!」


――はい。ではあなたは、ぎりぎり持ちこたえますね。


黒男「まだまだ! ぼくは死なない!」


――では、黒男のターン。


A「ではまず、18号室へ飛び込みます」


――えっ? 18号室に? ……18号室って、誰の部屋だっけ。


A「GMが忘れてどうするんですか! ”月”の仮面の女性の部屋です!」


――ああ、そうだっけ。

 では彼女は、目を白黒させて、あなたを見ていますね。


月(GM)「えっ。どうしたのあなた!? それに、その傷!」


――ちなみに、今のうちに明言させていただきますが、彼女には”吊された男”と戦う動機も、その能力もありません。うまく説得すれば味方してくれるかも知れませんが、先ほど大失敗ファンブルを起こしてしまったのでそれは難しいでしょう。


A「わかってますとも。あたしの目的は……この部屋にあるかもしれない、果物ナイフ! あるいは包丁! それに類する何か!」


――えっ。

 でも、そんなものが存在するなんて描写は、一度たりとも。


A「ノーノーノー! この部屋に前に来たとき、GMはフルーツの盛り合わせがあったと言っていましたよね! フルーツの盛り合わせがあるなら、それを切るための果物ナイフだって、あっておかしくないでしょう!?」


――言われてみれば、そうかもしれません。……いや、むしろそれは、ない方がおかしいくらいだ。

 では、この部屋にナイフが存在しても良いことにしましょう。

 ただし、この短い間にそれを見つけられたかどうかは、しっかりと判定を必要とします。

 ”五感”、難易度は”難しい”。出目5以上で成功とします。


A「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


【To Be Continued】


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