チートスキル『学習（ラーニング）』で異世界最強 ～Malice・Awaking～

29 イ セ カ イ サ イ キ ョ ウ

「……何？」

不気味に呟かれた予想外の返答に尋ね返すタダシ。

だが、そんな彼の疑問をよそに事態は動いた。

「ぐあ！？」

突如立ち上がったマリスは、その拳を素早く彼へと叩き込む。

ふいに貰った一撃に怯み、後ずさるタダシ。

「くく、少し油断しすぎたか。まぁいいだろう。何をどう学習しようと、結果は変わらぬさ！」

それでも尚気を持ち直し、剣を振りかぶる。しかし――

「っ！？」

それは振り下ろされるよりも先に手元から離れてしまった。マリスが伸ばした触手によって弾き飛ばされたのだ。

「くっ！」

彼の攻撃をことごとく封じ、迫りくるマリス。苦し紛れにタダシは打撃での反撃を試みるも、彼の右腕は突き出した瞬間に叩き落とされて勢いを失ってしまう。

体勢が崩れた一瞬の隙に、マリスは左手による裏拳を彼の顎へと叩き込む。

そして怯む彼へ追撃の蹴りを鳩尾付近に入れ、大きく吹き飛ばす。

「うっ、ぶ……！はぁっ、はぁ……」

的確に打ち込まれた攻撃に為す術もなく、呻き声を上げて地面を舐めるタダシ。

彼は息を荒げつつ立ち上がり、思考した。

――何故、自分の攻撃がことごとく潰されているのか？

そして彼は、一つの答えに辿り着く。

「ラーニング完了……まさか」

銃を生成し、構えるタダシ。

「！」

触手により、弾丸が打ち出される前に銃はその手から叩き落された。地面を滑り消滅していく銃を見つめつつ、自身の答えが間違っていなかったことを確信する。

(やはり奴は私の動きを学習し、予測するようになったのか……！)

それが、彼のたどり着いた結論であった。

実際、これは正解だ。マリスはタダシの攻撃を受けつつ、学習（ラーニング）していたのだ。

そして先刻それが終わり、彼女は反撃へ動き出した。

得たデータを基に数万通りの予測を行い、相手の攻撃を的確に潰していく。

そうして相手の隙を誘発し、確実な一撃を叩き込む――それが、今のマリスの戦法である。

「！」

彼がそれを理解した瞬間。タダシの眼前にマリスの足裏が飛び込んできた。

何とか身をかわすタダシであったが、彼女はすぐに体を回転させ回し蹴りに移行。

勢いこそ殆ど無くなっていたものの、ガードが間に合わず側頭部へと直撃した。

彼女は躱されることすらその予測の内に入れていたのだ。

「がっ……」

頭を押さえ、ふらつくタダシ。だがマリスは攻撃の手を緩めない。

顎。こめかみ。鳩尾。人体の急所を的確に狙い、重々しい拳を打ち込み続ける彼女。

もはや反撃もままならずただそれを受けるばかりとなってしまったタダシ。

彼は幾度か地面を転がった後、思う。

――《転生者》、アヤツジ・ケイト。最初は彼の力を利用しようと、タダシは目論んでいた。

だが彼はレイヴンズに入ることを悩んだ。あのままであれば、おそらく断っていたに違いない。

しかし《転生者》の持つ力は強大である。それが知識であれ、能力であれ、放っておけばこの世界が侵食されるのは時間の問題――それを、彼はよく理解していた。

シラベ・サクヤやアロガ等の例を考えれば、当然の結論だ。

そこで、タダシは考えた。そうなるのなら、いっそ《転生者》そのものを悪として仕立て上げてしまえばいい、と。

世界そのものを敵に回せば、いくら強大な力を持つ彼等であっても生き延びることは難しい――故に、タダシは策を講じたのだ。

ケイトの持つ道具が《怒り》によって持ち主にすら未知なる力を発揮することは、アロガが起こした事件の際の一幕を監視していた時に知っていた。

それを誘発すれば、アヤツジ・ケイトにその気が無くとも必ずその牙をこちらへ向けるだろう――そう考えた彼は、ただひたすらに彼女を怒らせることに終始した。

あの時ケイトを捕まえずにおき、さらに《ジャスティマギア計画》を彼へと知らせたのはそのためだ。

あれを見れば、彼は必ずマリスを取り戻そうと躍起になり、行動するだろう。

そして自身を助けに来てくれた思い人が悲惨な目に遭っていると知れば、怒りや憎しみを覚えない者は無い――そこまで考えて、タダシは彼を拷問にかけるよう指示したのだ。

その光景をマリスへ見せつけ、暴走させるために。

そしてそれを彼女と同等以上の力を――ジャスティマギアでもって叩き潰し、世界へ自分たちが《正義》であることを見せつける。それが――彼の計画であった。

しかし、その目論見はいともたやすく崩れ去ることとなった。

マリスは彼が考えているよりも遥かに、強大な力を持ってしまったのだ。

負の感情を蓄積、爆発させた彼女は、自律行動すら可能になった。主の――ケイトの死が、そうさせたのだ。

タダシは、それをまだ知らずにいた。目の前の相手は暴走した自身の力に呑みこまれた《人間》、アヤツジ・ケイトであると思い込んでいた。

しかし、実態は違う。

剥き出しの殺意と憎悪のまま動く《殺戮兵器》。それが――今のマリスである。

《悪意（マリス）》は学習の果てに、この世界――異世界において最強の存在となったのだ。

「こんな……こんな、はず、では……っ！」

自身のしでかした行為に悔やみ、呻くタダシ。もはやまともに立ち上がる気力すら、彼には残っていない。

そしてそんな彼を見据え、マリスは走り出し、跳躍。

禍々しいエネルギーを纏った飛び回し蹴りを、タダシの腹へと叩き込んだ。

《ヘイトレッド・デストラクション》。そう名付けられた必殺の攻撃が、彼を襲う。

タダシは大きく吹き飛び――レイヴンズ本部へと叩きつけられた。

そして――

「死ね」

マリスは光球を掌から発射。その一撃により、レイヴンズ本部が爆発を起こす。

「ぐぅ、ぬわあぁぁぁぁ――――――っ！」

もはや変身も解除され、生身となった彼は足掻くすべもなく断末魔を上げ――瓦礫の下敷きとなってしまった。

マリスはそれを一瞥すると、言う。

「対象の生命反応の消失を確認」

そして彼女はもはや何の興味も無くしたように振り返ると、

「人類殲滅へ移行する」

銃を構えて彼女を取り囲む隊員達を指さし、告げた。

その瞬間、ある者は地面から突き出た触手に貫かれ、ある者は光球で塵となった。

そうして瞬く間に隊員達を全滅させ、彼女は歩き出す。

その一部始終を中継により目にしていた人々は、一時静まり返ると――

「この世の、終わりだ……」

皆、口を揃えて絶望した。

彼女を止められる者は、もはやいないのだろうか――