19 闇夜の襲撃者
「ゼェ、ゼェ……どこ行ったんだ?」
あれから数分――ずっと反応を追いかけているが、一向に追いつかない。
複雑に入り組んだ地形が、最短ルートの邪魔をするためだ。
そんな中、再びマップを見る。
相手を示す赤い点はあるところで止まっているーー今こそチャンスだ。
急げよ、俺!そう思った時。
「うわーっ!」
闇夜を裂いて、老人の悲鳴が轟いた。
慌てて倒木を乗り越え、走る。
するとその先にはーー
「何だよアレ!?」
どこか猫のようなシルエットの機械の装甲に身を包んだ集団が、老人を囲んでいた!
その手にはマシンガンやアーミーナイフを持っており、この世界の装備としては明らかに異質なものだった。
俺はマリスへ《解析》を頼みつつ、集団目掛けて叫ぶ。
「やめろーっ!」
その声に反応して一斉に振り向く集団。
彼らは銃口を俺へと向け、警戒体制を取る。
そして同時に、解析が終了。マリスは結果を俺へと伝えた。
『名称不明、しかし《レイヴンテクター》と同様のシステムを使用しているようです』
レイヴンテクター……キュリオさんにラボで聞かされたことがあるな。
確か、アロガの事件の時にスクトさんが着けていた装備の名前だ。
けど、それと同様のシステムがなぜ?
『攻撃、来ます』
そんな俺の思考を邪魔するように、銃口が輝いた!
瞬間、炸裂音と共に銃弾が発射される。
狙いが正確でなかったためか弾は俺の足元に着弾し当たらなかったが、この威力を喰らえば生身だとひとたまりも無い。
ならばーー
「ヘイ、マリス!《融合》だ!」
『かしこまりました。《融合》を発動します』
俺は前進しつつスキル《融合》を起動。
「エンゲージ!」
《Malice,awaking……!》
その姿を戦士へと変えつつ、銃弾の中を駆け抜けてーー奴らの頭上を飛び越した。
「I will destroy you all……」
全てを破壊するーーそう告げて、戦闘を開始する。
以前初めてなった時は消耗が激しく倒れてしまったが、何度か訓練し、なんとか制御下に置くことができた。
そして、分かったこともある。
この姿になった時、俺の意識は完全に切り離されると言うことだ。
俺の体自体がデータ状に分解され、スマートフォンの中へ取り込まれているせいだろうか。
俺の視点は第三者から見たような形となっている。
故にーー
「隙ありぃ!……何っ!?」
真後ろという死角より攻撃を仕掛けてきた相手にも対応できる。
その上、戦いを見ているのは俺だけでない。
『前方より飛来する物体あり、手榴弾と考えられます』
マリスの声が俺の耳に届く。
そう。マリスと俺の2人で、この戦いを見ているのだ。
そして、それぞれの意思で体を動かすことができる。
時には俺、時にはマリス。それぞれがその時々で最適な行動を導き出し、対応する。
変身ヒーローというよりは、ロボットをイメージした方が近いのが、この姿だ。
俺は頭部右から伸びる髪の毛状のケーブルを触手のように操って放ち、手榴弾へそれぞれ突き刺した。
そのまま《分解》により分子構造を崩壊させ、跡形も無く消し去る。
「怯むな、打て、打て!」
しかし依然として攻撃を仕掛ける兵士達。
攻撃そのものは効きはしないが、このままでは老人が危険だ。
実際、今まさに奴らの一部が老人の腕を掴み、引っ張っている。
俺は再びケーブルを伸ばし、そいつらへ巻きつける。
動きを止めると同時に《解析》を行い、内部構造やシステムをスキャン。
そしてシステムをハッキングし、装備を強制解除させる。
その中から現れたのは、なんとーー
(あれって!?)
今朝俺たちを襲撃した山賊であったのだ!
あの時確かにレイヴンズへ引き渡したはず。
なのに、何故ここに!?
一瞬困惑するも、すぐに切り替え。
今はこの場を収めなければーーそう考えた時だった。
「そこまでだ!」
聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえてきた。
スクトさんだ!
既に正式採用版のレイヴンテクターに身を包んだ状態の彼は、銃を構えて俺たちを見据えていた。
レイヴンズの登場に、思わず気が取られた奴ら。
その隙を逃さず、俺は全員をケーブルで拘束、装甲を強制解除させた上で装備を没収する。
こうして、なんとかこの場は収められた。
「大丈夫ですか!?」
俺はすぐに融合を解き、老人へ駆け寄る。
服が汚れているものの、目立った怪我はないようだ。
「あ、ああ……すまない」
困惑しつつも、謝る老人。
俺は足がすくんで立ち辛そうにする彼へ肩を貸し、支える。
見ると、既に奴らはスクトさんによって一箇所に固められていた。
恨めしそうにこちらを見つめる彼らから老人を離そうと移動を始める俺。
奴らの着けていた装備は気になるが、仕方ない。今は保護が最優先だ。
「この場はお願いします!」
「ああ、任せろ」
『マスター、この奥に小屋を確認しました。そこへ行きましょう』
「わかった」
マリスの案内に従い、歩き出したその時――老人がボソリと、呟いた。
「それは……スマートフォン!まさか、君は……!?」
思わず俺の足は一瞬止まってしまう。
果たしてこの老人は、一体何者なのかーー?
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