エピローグ - そして誰かの夢になる -

『私はなにになりたいのだろう?』


 ガタンゴトンと揺れる夜の電車に乗りながら考える。

 年頃の高校一年生女子らしい悩みかもしれない。

 夜の上り電車の車両はそれなりの混み具合だが、私の周りに人はあまりいなかった。

 金髪碧眼の容姿はこういうときに役に立つ。

 周りと違う。それだけで避けられる。

 中身が日本生まれ日本育ちの日本人だとしても。


 忍・キング・御剣。

 我ながら凄まじい本名だ。

 名乗りがすでに自己紹介時の一発芸。

 一発芸としてはいいが、普段は御剣シノブと名乗っている。名乗るたびに空気が変になるのがなんかヤダった。


 父はアメリカ人で母親が日本人。

 周囲が英語を話せる前提で私に接してくるので、必死に英語をお父さんに教えてもらった。

 今では洋楽を歌うときに友達の受けがいいので重宝している。

 アメリカを含め海外に行ったこともないのに。


 容姿、名前、言語、歌。

 異なることで周りからチヤホヤされる。

 今も皆が塾に行く時間にボイストレーニングに向かっている。

 洋楽は日本人の先生に習っている。

 私を形成する部品はどこかチグハグで歪だ。


 幼い頃は日本オタクのお父さんと一緒に座禅や空手などを習っていた。

 今はそういう日本文化とは距離を置いている。

 小学校でからかわれたからだ。

 お父さんの影響で癖になっていた「ござる」口調。当時の変な子扱いは割とトラウマになっている。

 そこから周囲の評価ばかりを気にするようになった。


 外面に合うように詰められた空っぽのアイデンティティ。

 虚しさが去来する。


「……本当に私はなにがしたいんだろ」


 車窓の向こう側で流れる夜の街並みをぼんやりと眺める。

 細やかな汚れは夜の闇に覆い隠されて、電灯だけ煌びやかに光り輝いている。美しいのにどこか空虚だ。

 そんな夜景が私のあり方と似ていて気持ち悪い。綺麗に見えることがなおさら。

 ボイトレもやめようかな。通うの面倒だし。

 何気なくそう思ったときだった。

 電車の中で魂の叫びが鳴り響いた。


『サンニイチ・げ・こ・く・じょおぉぉぉぉおぉぉぉーーーーーーーーーーーー!』


「えっ!?」


 車両の中が妙な沈黙に包まれる。

 私の向かいの席で放たれた誤爆による音響爆弾。


「……下剋上でござる」


 幼い頃の口癖そのままに小声でそっと呟く。

 電車内の音漏れはたまにある。……あることなのだが妙に頭に残った。

 向かいのお姉さんは何事もなかったようにイヤホンの設定を直している。

 すまし顔だ。気にしていないのだろうか。

 いや耳が赤くなっていた。


 これが私の運命の出会い。

 空虚だった私の日常に薄っすらとした虹がかかり始めた。


 ♢     ♢     ♢


「VTuberの配信をちゃんと見たことないかも」


 音漏れ内容から虹色ボイスの真宵アリスさんにたどり着くのは簡単だった。

 この手の内容はすぐにネットで話題になるから。

 旬の話題ならすぐにたどり着く。


 アニメやゲームは家に大量にある。

 ほとんどお父さんの私物だが私も楽しんでいた。

 けれどVTuberは数回。

 切り抜きや歌ってみた動画しか見たことがなかった。


「えっ……氷室さくらちゃんがVTuberやっているの!?」


 私が興味を抱いたのは、調べていた真宵アリスさんではなく桜色セツナさん。

 同い年なのに芸能人。テレビの人。思い入れもあまりない。凄すぎて同い年の実感がないのだ。もしかすると大人の役者よりも遠い存在だったかもしれない。

 最近はメディアへの露出が減っていたけど、まさかVTuberになっていたなんて。


「見てみようかな」


 それが最初の一歩。

 桜色セツナさんのデビュー配信を見た感想は「こんなものか」だった。

 面白いけれど熱中するほどではない。流し見するにはいい。

 特別な要素は見いだせない。


 このときはまだ私はわかっていなかった。

 アイドルやVTuberのコンテンツは単発で見るものではない。

 応援して共感する。

 成長した姿に感動する。

 数字で表される躍進を共に喜ぶ。

 見続けることで沼にハマっていくのだ。底なしの沼に。


 推しが生活の一部になる。

 推しのことを家族のことのように喜ぶ。

 だから推し活と呼ばれるのだ。

 そのことに気づくのにあまり時間は必要なかった。

 桜色セツナさんの成長と変化が顕著だったからだ。

 一か月も経たずに子役時代の印象も、デビュー配信のぎこちなさも塗り替えていく。特に真宵アリスさんのことを語り出すと止まらない。

 ただただ凄いと、面白いと圧倒されていた。

 こんなひとだったのかと驚くとともに、画面で笑っている桜色セツナさんが本当に楽しそうで羨ましくなった。

 桜色セツナさんの収益化配信はいつものように感動と混沌に包まれていた。


『皆様は私の同期である真宵アリスさんの収益化記念配信を見ましたでしょうか。当然見たはずです。見てない方は私の配信を抜けていいので見てきてください。感動しますから』


「……これは見なきゃだめだよね」


 私がVTuberに興味を持ったきっかけだ。

 気にはなっていた。ならないはずがない。

 だがしかし! 時間泥棒なVTuber配信だ。今までは推しの数を増やす勇気がなかった。

 ついに登録だけはしていたアリス劇場のチャンネルを開く。

 だって推しが言っているから。


 そして私は祈ることになる。

 神様お願いします。

 一日に二十四時間では足りないのでどうにかして。

 ……とても切実に祈った。


 ♢     ♢     ♢


『今回は音漏れないのに電車内でまさかの展開に驚いて「えぇえぇぇぇっーーー!」と叫んでしまって周りから滅茶苦茶見られたんだが俺は気にしない……だから向かいの席の奴も気にしなくていいぞ』


『……押忍』


 初コメ。

 たったこれだけのやり取り。

 本来、リスナー間のやり取りはマナー違反だが、真宵アリスさんの絶叫時の名物になっている相手だから許されている。

 絶叫時以外のマナー違反も荒らしも長文もしない。空気が読める人なのだろう。

 普段の行いがいいから、恒例行事として期待されている。


 車両の反対側に座る女性と笑顔に交換をする。

 高校生と会社員。

 年代も違う。

 立場も違う。

 名前も知らない。

 ただ同じ人を推しているだけの赤の他人。

 それだけなのに特別な仲間意識があった。

 あの人にとっても同じだろう。

 同じ推しのリスナー間には、金髪碧眼という私の容姿は関係ない。

 この関係がくすぐったくて嬉しかった。


「シノブさんがこんなに面白い人だと思わなかった」


「そうかな。ニンニンでござるよ。なんちゃって」


 孤高気味だった高校生活も色鮮やかに咲いた。

 私が色々と気にしすぎていただけだったのだろう。

 昔のようにお父さんと一緒に禅寺修行も受けてみた。久しぶり過ぎて新鮮だ。

 幼い頃には見えなかった風景が広がっていた。


『Be yourself, Everyone else is already taken.』


『誰もが自分以外にはなれません。だから自分を否定しないで。誰かの真似でもいい。あなたの心のままに理想の自分を目指してください』


 推しの言葉に背中を押される。

 そのあり方に憧れを抱く。

 同時に『この人は特別なんだ』と自分に言い聞かせる。

 同世代だが、真宵アリスさんと桜色セツナさんはすでに活躍している。私とは大違い。

 子役をやっていた桜色セツナさんとは違って、真宵アリスさんは私と同じ歳の今頃は色々あり過ぎて引きこもっていたはずだ。

 それなのに今では憧れの空の彼方の存在だ。。

 自分も真宵アリスさんのようになれるかもとは思わない。……思えない。そんな幻想を抱けるはずがない。歌声を聞けばわかる。単純な歌の上手さだけじゃない。表現の幅が広くて深い。


 私にも得意な洋楽ぐらいあった。今はもう得意だなんて言えない。

 真宵アリスさんが歌ってみたで配信していたからだ。

 アリスさんはどう歌うんだろ?

 どこか上から目線で動画を再生した。そしてただ打ちのめされた。涙腺が崩壊するほど。

 私の方が歌いこんでいるはずだ。それなのに私の歌にはない色があった。原曲よりも切なかった。原曲よりも聞き取りやすくて好みだった。ただ真似をするだけではない。ちゃんと自分で表現する。これがプロの歌なのだと納得させられた。

 心のどこかにあった謎の自信が砕かれたのだ。

 憧れを封じ込めるのに十分。

 今が充実しているからいいではないかと。

 ……それなのに。


『Be ambitious』


『あなたの夢に向かって今すぐ走り出せ』

『足掻け。心の渇望のままに』


 弱い心を見透かされた気がした。

 配信で語られている過去。

 真宵アリスさんは私よりも必死でもがき苦しんだ。悩みながら立ち上がった。仲間の助けを得ている。はるかに努力をしている。

 ただ漫然とボイトレを受けていただけの私よりも凄くて当たり前だ。

 私はなにもかもが足りない。

 足りない過ぎてつらい。

 至らない自分に苦悩する。


 そんな苦悩の中で絞り出した私の歌が、初めてボイトレの先生から絶賛された。

 今までも褒めてもらえたことはある。

 けれど違うのだ。

 本当に驚いている。

 心から誉めてくれている。


「急に上手くなったけどなにかあったの?」


 そう聞かれたがわからない。

 どう変わったのか。自分でなにも変わっていない。成長できていない。未熟な歌だ。目指すべきところには程遠い。

 ただ心の入り方は変わった自覚がある。

 私の心の中にはドロドロと重い渇望がうねっていた。


 ♢     ♢     ♢


 幼い頃の私はなにになりたかったのだろう。

 日本オタクのお父さんに喜んでニンニンござると遊んでいた。

 真宵アリスさんと桜色セツナさんのコラボ配信を見てそんなことを考える。

 そして真宵アリスさんの個人配信に答えの一つを見た気がした。


『This is my life, This is my story.』


 トクンと胸が高鳴った。

 自分がなにになりたいかはわからない。

 でも自分の人生の主人公にはなりたい。

 具体性なんてなくていい。未来のこともわからない。

 ただ空っぽのアイデンティティを自分の存在で満たしたい。

 その願いはずっと私の中で燻っていたのだ。


 もしもVTuberになることで主人公になれるのであれば、もうそこを目指すしかないではないか。

 足掻かないより足掻いた方がいい。

 衝動が私を突き動かした。


『虹色ボイス四期生募集』


 その告知を見る前から私の習い事は増えていた。

 演技もダンスもナレーションもやった。

 家ではお父さんと英語で話し続けた。

 経験者の方が有利になると信じて個人勢として配信活動も始めた。成果はさっぱりだったが褒めてもらえた。


 そして現在、虹色ボイス事務所にて最終選考会に残っている。

 残すは個人面接なのだが。


「……ヤバい。吐きそう」


 緊張と重圧に打ちのめされていた。

 非公式発表だが虹色ボイス事務所四期生の倍率は凄まじかったらしい。

 人数も凄ければ応募者の経歴も宝石箱だ。

 現役の声優にアイドル。チャンネル登録者が一万人を超えている個人勢VTuberもいたらしい。

 どうして私が最終選考まで残れているのかが理解できない。

 努力も実績も実力も上の人がたくさんいる。


 応募が殺到した理由は虹色ボイス事務所の人気と勢いだけではない。

 演者のしたい活動を支える方針と待遇が良さが業界内で評判になっていたらしい。

 配信活動以外の活動にも強い。

 現役で仕事している人の応募者が多いのもそのせいだ。自分の前世の経験を隠すことなく活かせるのだから。

 本当に凄い人ばかりで圧倒される。

 受かるはずがない。


「……どうせ私なんて……あ……」


 もう言わないと心に決めたはずの言葉が口から漏れた。

 これは自分を否定する言葉。自分を縛る言葉。呪縛の言葉。

 それなのに言ってしまった。

 呪いまでが私を蝕み、心がポキリと折れた気がした。このままでは、床にへたり込んで立ち上がれなくなる。

 私はもうダメだ。

 そう諦めかけたとき、彼女は現れた。


「大丈夫?」


「……はい……え? えっ!?」


 心が折れる前に、私の心なんてどうでもよくなった。

 すでに折れていたかもしれないけど放置だ。

 それどころではない。

 目の前にメイド服の少女が立っていた。

 誰かが近づいてくる気配なんて微塵もなかったのに急に表れた!?


「真宵アリスさ――」


「――叫んじゃダメ。本当は候補者と接触しちゃいけないから」


「は……はい」


 目の前のアリスさんが人差し指を唇に当てて「シィー」とやった。可愛い。

 そんなことをしなくても私の声以外の音は聞こえてこない。

 まるでアリスさんの人の周りだけ音がないみたいだ。

 実物を見て桜色セツナさんが言っていた『魔法使いの女の子』という意味がわかった気がする。

 どこか浮世離れした独特な雰囲気を漂わせている。可愛い。


「面接。あなたの名前もう呼ばれているよ」


「えっ……ええっ!? 行かないと!?」


 緊張しすぎて気づかなかった。

 廊下の奥に来ていたので気づかれなかったのだろう。

 時計を見ると入室予定時間をもう三分も過ぎている。

 面接開始時間はそこから五分。つまり二分ある。まだギリギリ間に合うがすでに心象が悪くなっただろう。

 胃がキュッとなる。

 心臓がバクバク鳴る。

 頭もガンガンしてきた。

 でもここで逃げ出してしまうと一生後悔する。


「教えてくださりありがとうございま……え?」


 目の前にいたはずのアリスさんの姿はすでになかった。

 代わりに耳元にで囁かれる。


「あなたのショーを頑張って」


「は……はい!」


 たったそれだけ。

 それだけの言葉で私の弱い心が呪いとともに一刀両断された。

 私は面接に合格できるのか。

 それしか見えてなかった。

 緊張で頭がいっぱい。

 ちゃんと受け答えできるのか不安。

 そんな人間が合格できるはずがない。


 私はVTuberになるんだ。

 ならば見てくれる人を楽しませないといけない。

 応援してもらえるように笑顔で精いっぱいの自分を表現する。

 面接で自分のショーを披露しないといけなかったのだ。

 さっきまでの緊張と不安が嘘のように消え失せていた。


 大丈夫。

 今日の私は幸運だ。

 なぜなら虹色ボイスの座敷童に会えたんだから。

 まだ近くにいるかもしれないので口に出さないけど。


 大丈夫。

 まだ入室時間を過ぎただけ。

 面接開始時間には遅刻してない。


 大丈夫。

 ショーの幕は下ろさない。

 落ちても次につながる。

 ここで終わりじゃない。

 だから精いっぱいの私のショーを見せるだけ。


 魔法の言葉を口に出す。

 私が私のために決めたルーティーンだ。


『The Show Must Go On』

(さあ終わらないショーの始まりだ)


『This is my life, This is my story』

(これは私の人生。これは私の物語)


『Let's play my story』

(さあ私の物語の主人公になろう)


 足は面接の会場に動いている。

 早足だ。

 緊張からではない。楽しむために早足になる。

 ルーティーンの最後に今日だけはそっと言葉を付け足す。


『Thank god for the miracle that I met you』

(あなたと出会えたこの奇跡に感謝します。座敷童様)


 さあ面接会場の扉を開けて。

 開口一番ぶちかます。


「遅れて申し訳ありません! さっきまで緊張で吐きそうになってました! 忍・キング・御剣! ただいま参上でござる! 本日は下剋上しに来ました。本当にごめんなさい。まだ面接開始時間じゃないですよね!? 土下座必要ですか!?」


〇-------------------------------------------------〇

 作者からの連絡。


 読んでいただきありがとうございました!


 今度こそ完結です。

 完全に新キャラ他視点のエピローグで締めるという暴挙。

 最後は虹色ボイス事務所や演者と関わりのない一人の視聴者の物語で締める。

 そんな狙いもあります。

 この作品は名前のないコメント欄だけの視聴者も重要な登場人物だった。

 全員にドラマがあり、あなたも物語の主人公なのですよ。みたいなエピローグです。


 さて……書き切った!

 初期プロットからやりたいことは全部やった。

 しかもちゃんと完結させました!

 本当に幸せな作品と作者です。

 読んでいただきありがとうございます。


 少しでも面白いと思っていただけたならば応援や評価★をお待ちしてます!

 レビューもあれば嬉しいです。

【完結ブースト】があるのであればお願いします。

 ムリなのはわかっていますけど総合ランキングに載ってみたい。


 目指せ書籍化です!


 お願いします。


 さてお願いもしたので毎回のことですが、ここから長いあとがきです。




【長いあとがき】

 まず他の作家さんを貶す意図はないと前置きさせていただきます。


 VTuberを題材にしてちゃんと完結する作品は珍しくないですか!?

 ここは自画自賛させてください!


 本当に他の作家さんを貶す意図はないので説明すると。

 恋愛や魔法などVTuber以外の話の軸を持つならばともかく、VTuberを軸に物語を展開すると完結は非常に難しいです。他の題材よりも本当に難しいんです。


 現実のVTuberにも引退以外の終わりがないですよね。

 ずっと活動を継続していくものです。

 そしてスポーツのように全国大会優勝など目指すべき目標もないですよね?

 倒すべき相手もいない。

 救うべき世界もない。

 誰かと付き合うなどもない。


 終わりがないんです。


 最初の十万文字でエピソードで大きな問題を解決しました。

 続きを書きます。

 すると完結させるには最初のエピソードよりもはるか大きな問題を解決させないと、作者が完結を主張しても読者が消化不良を起こします。

 どうやって終わらせればいい?


 VTuberモノを書くに当たって私が最初にぶち当たった壁です。

 本当に難しいんです。

 だから完結させずともVTuberモノを書き続けている作家さんをリスペクトしています。


 私は最初から物語を終わらせるためにプロットを作りました。

 何通りもの終わらせ方を検討しました。

 最終的にその全てをやって完結しました。


 第一章で主人公の障害克服(同時に本当の意味でVTuberになりたいと願うようになる)

 第二章で仲間の輪に入る。(ボッチが仲間を得る)

 第五章で仲間と大きなイベントを成功に導く(スポーツの全国大会みたいなもの)


 特に第六章はいくつもの終わりを含んでいます。


 第一章(トラウマになった原因)と同系統の問題を解決することで成長した姿をみせる。

 真宵アリスと桜色セツナの幼い頃の夢が叶っていた。

 VTuberそのもの存在意義を説く(主人公になるため)

 エピローグ、主人公の活躍により誰かが同じ夢を見る。


 私は私が思うVTuber作品を書きました。

 書き切りました。

 自画自賛です。


 構成も練りました。

 全ての登場人物に見せ場を作りましたし。

 一応章ごとのエピソードになっていますが、伏線は章またぎで絡み合ってます。

 一期生のエピソードが少ないのは、完成した存在として書いているからです。

 師匠ポジですね。

 掘り下げると弱い部分も書くことになる。

 すると虹色ボイス事務所の土台が崩れてしまう。


 でも一期生はかなり活躍していますよ。

 一期生がいないと本当に虹色ボイス事務所という土台が崩れる。

 かなり重要な役割を担っています。

 主人公も三期生も二期生も虹色ボイス事務所自体も皆成長しました。

 その成長を支えるために奮闘する役割なのでブレることがない一期生。

 個々のエピソードがないのは弱さを見せることができないせいです。


 実は構成よりも各話のノルマが大変でした。

 私は説明会が嫌いです。

 だから一話で必ず一つは読者様に笑えるところか驚くところを提供する。

 そう決めて書いていました。

 そのせいで一話の分量が軒並み四千字を超えているのですが。


 あと演出。

 読者様の視点と、作品内のリスナーの視点を限りなく近くなるように書いてます。

 この作品を初期から読んでいただいている読者様は覚えているかもしれませんが。

 VTuber配信視聴感覚コメディ。

 そんなわかりにくいキャッチコピーを使っていたこともあります。


 本当にVTuberの配信を見ていただいているかのような臨場感のある作品。

 推しの成長と活躍を喜べる。

 そんな推し活をしているような作品を目指していた。

 エピローグは作品内リスナーも重要な登場人物だったと見せるために書きました。


 そのために毎回見えもしない視聴者の感情を想定しながら書いていました。

 主人公が言葉を発するたびに「このシーンでは視聴者はこう思う」「笑っている」「重い気分になる」「同じ感情が続いているから変化を加えて」「驚きが連発しているからちょっと落ち着けて」「ここで一気に畳みかける」

 配信回はストーリーそっちのけ。

 本当に視聴感覚重視で演出を考えていました。

 全ては真宵アリスの発言を生きた言葉として伝えるために。


 この『引きこもりVTuberは伝えたい』という作品のストーリー軸は非常に単純です。


 第一章こそ起承転結をなぞりましたが、他の章は起伏がなかったりします。

 配信回が濃いので転の必要がない。

 位置づけとして配信回にリアル回を持ち込まないようにしてました。

 配信回とリアル回でぶつ切りなんです。

 だから章全体のストーリーを練ると物語のテンポが悪くなる。

 読んでいてもくどくて疲れてしまう。

 だからあえてシンプルなストーリーになっています。

 そんな作りなので個々の配信回は記憶に残るが、全体のストーリーが記憶に残らない作品だと思います。でもそれでいい。

 VTuberの活動内容さえ覚えていただけたら本望です。


 でもストーリー構成は適当ではないですよ?

 第二章では外に出る。一期生と三期生の仲間登場させて、物語にアクションを加える。

 第三章では二期生を登場させて、料理などの表現を加えて、歌の要素を加える。

 第四章では三期生中心で外部からの視点を加え、真宵アリスの活動内容をハッキリとさせる。


 特に第三章以降は読者様を飽きさせないために、構成も情報の出し方も全て章ごとに変えています。

 第一話で問題提起、最後は主人公の個人配信の語りで締める。

 この構成だけを守って、様々なストーリーパターンを試していました。全部変えていたんです。

 主人公は真宵アリス。その軸だけはしっかりと守りながら。


 書いていて非常に楽しい作品でした。

 書籍化したいですね。

 そのためにも完結ブーストがあれば本当に嬉しいです。


 ちなみにエピローグで新キャラを出して続きそうな終わりですけど。

 今のところは新章開幕の予定はありません。

 書籍化に関わらずです。

 すでに散々書いたようにVTuberモノは終わらせるのが難しい。

 個人的にも書くべきテーマも書き切ったからです。


 新たに書きたいテーマを見つけたら書くかもしれませんが。

 そのときは四期生を加えて、また虹色ボイスという箱を動かします。

 今のところ構想が真っ白なので書く予定はありませんが。


 最後に改めて、書きたいことを書き切れた。悔いなく完結できた。読んでもらえた。応援された。メッセージも受け取ってもらえた。創作者としてもらってみたかった感想ももらえた。

 とても幸せな作品です。

 本当にありがとうございます。

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