第172話 真宵の桜色配信②-猫パメイド鍋-
冒頭でいきなり遺書の読み上げとシュレッダーの音が流れる事件はあった。
でも気にしてはいけない。
当事者の真宵アリスと桜色セツナの二人がいつも通り。
『こんなこともあるよね』
この二人の間ではこの一言で済まされる程度の出来事でしかない。
これが本当のオフ。
そう言わんばかりに淡々と配信の挨拶が始まった。
桜色セツナ:「改めて皆様おはようございます。桜色に輝く今を大切にしたい桜色セツナです。今日はなんとアリスさんの家に来ております! お泊りですよ! お泊り! いざというときのために、ちゃんと遺書も用意していましたがシュレッダーに行きになりました」
真宵アリス:「やる気の充電はそこそこ完了。本日のお仕事モードは少しオフ。皆様おはようございます。本日は部屋着メイド服でまったり気味のハウスメイド型駄メイドロボの真宵アリスです。いきなり遺書をシュレッダーにかけるお仕事をするとは思いませんでした」
桜色セツナ:「アリスさん本日は本当にまったり気味ですね」
真宵アリス:「うん……昨晩ちょっとひと悶着あってね」
桜色セツナ:「ひと悶着?」
真宵アリス:「あとで話すね。それでセツにゃんは晩御飯まだだよね?」
桜色セツナ:「はい! アリスさんの手料理が食べられると聞いていたので」
真宵アリス:「まともな手料理が食べたいならちゃんとリクエストしてほしいかも。『アリスさんが普段食べている好きなもので!』と言われると逆に困る」
桜色セツナ:「すみません。でも今日はアリスさんの日常を体験してみたかったので。力の入ったおもてなし料理ではなく、本当にいつもの家庭料理が食べたかったんです」
真宵アリス:「そういう意図なら仕方がないね」
桜色セツナ:「では早速私もメイド服に着替えましょう」
真宵アリス:「……どうして?」
桜色セツナ:「郷に入っては郷に従え。アリスさんの家の正装はメイド服。ちゃんと事前に準備してきました」
真宵アリス:「なる……ほど? そういうことならこっちの衣装室で着替えて。色々と揃えてあるし、持ってきたメイド服以外にもセツにゃんが着れるサイズがあると思う」
桜色セツナ:「えっ? 本当ですか!? まさかアリスさんお手製のメイド服が着れるなんて! もう持ってきたメイド服をアリスさんにあげます! 私と思って着てください」
真宵アリス:「じゃあ交換で。メイド服ならいっぱいある。セツにゃんに一着あげるね。サイズが違ったらその場で手直しするから。あとセツにゃんと思っては着ない」
:アリスがまったりしてる
:自分の家だからかダウナーに拍車がかかってる
:ひと悶着?
:アリスの手料理食べたい
:呑み屋料理以外の手料理か
:え?
:いきなりお着替えか
:セツにゃんまでメイド服w
:アリスの家の正装はメイド服……さすがセツにゃんわかっているな
:なる……ほど? じゃないだろw
:今日のアリス流され気味
:なぜアリスはセツにゃんのサイズのメイド服まで用意しているんだ?
:そりゃあアリスだからだろ
:メイド服マイスターがなぜ用意していないと思った?
:これはもしかするとサッカーの試合でよく見るユニフォーム交換?
:確かにアリスのユニフォームはメイド服かもしれないがw
:試合してないけど互いを認めあっているから間違いではない
:なるほどメイド服交換か
画面の中央に『セツにゃんメイド服にお着替え中』の文字。
着替えシーンは当然カット。
場面がキッチンダイニングに切り替わると、いつも以上にハイテンションな桜色セツナが顔を出した。
この日のために用意された桜色セツナのメイドバージョンアバター。
デザインは桜色セツナが熱望した真宵アリスとのペアルックメイドロボバージョンだ。
対する真宵アリスは疲労感を漂わせているが。
真宵アリス:「……はぁ」
桜色セツナ:「メイド服に着替えました! アリスさんとお揃いですよ! お揃い! ……少しドキッとしました。普通に着れたと思ったら、アリスさんの頭が目の前にあってに抱き着いてきたんです!」
真宵アリス:「変な言い方しない。サイズが微妙にあってなかったから確認しただけ」
桜色セツナ:「その場で待ち針を淡々と刺していくアリスさん。そして私にメイド服を脱げと! ……刺激的な体験でした」
真宵アリス:「刺激的? セツにゃんは針に刺さってないよね? サイズ調整しただけだよ。それにちゃんとパーカーも用意したし」
桜色セツナ:「そうなんです! 皆様聞いてください! アリスさんがメイド服だけじゃなく私に特別なパーカーをプレゼントしてくれたんですよ! もっとこの感激と興奮を分かち合いましょう! そう思ってさっきまでずっと衣裳部屋で喋ってたんです!」
真宵アリス:「うん……ずっと喋っていたね。でも残念ながら全面カットになりました。ついさっきマネージャーから連絡……と言っても同じ家にいるけど。着替え中の会話などはコンプライアンスの問題になりかねないとの判断です。まだ編集していないですけど流れていないはず」
桜色セツナ:「私はずっとハイテンションで喜び続けていました。なにを口にしていたのかも覚えていません!」
真宵アリス:「セツにゃんはいつものセツにゃんだったよ? パーカーしか着てないのに急に抱き着いてきたから背負い投げしたけど、ちゃんと受け身取れていたし」
桜色セツナ:「背負い投げ……なるほど。だから天井を眺めていた記憶があるんですね。では改めて! じゃーーーーーん! アリスさんがこの猫耳パーカーをプレゼントしてくれました! 映ってますか? 覚えていますか? 前に三期生全員でグランピングオフコラボをしたときにアリスさんが教えてくれた妖精の桜猫パーカーです!」
配信画面のワイプに満開の桜に埋め尽くされた猫耳パーカーが表示される。
リバーシブル迷彩になっていて表面はただの白猫パーカーだ。
残念ながらパーカーのみで本人たちは写っていない。
真宵アリス:「ん……似合っている」
桜色セツナ:「アバターではメイド服のみ。それでも十分に可愛いですが、私達二人は現在メイド服に猫耳パーカーを羽織って鍋を囲んでいます!」
真宵アリス:「今日の晩御飯は豆乳鍋です」
桜色セツナ:「猫耳パーカーメイド二人で囲む鍋。略して猫パメイド鍋。特別です」
真宵アリス:「変な略称を付けない。それにセツにゃんや。私は常にメイド服で食事を取っているんだけど?」
桜色セツナ:「アリスさんがいるだけで世界が花開きますね!」
真宵アリス:「これは誉められているの?」
:予告なしにアバター新衣装投下!?
:この衣装は……真宵アリスのメイド服?
:ちゃんとイヤーカフまでつけてる
:一気に姉妹感上がったな
:アリスのアンニュイな疲労感
:天真爛漫な妹に振り回される低身長の姉感が醸し出されている
:ドキドキ体験をハイテンションで告白するセツにゃんと淡々と訂正するアリスの温度差よ
:刺激的な体験!?
:アリスは冷静にいなしているけど普通にセツにゃんの反応の方が正解なのでは?
:傍目から見ると密着具合からてぇてぇ案件な気がする
:無自覚に無頓着に相手を堕とすのか
:もしかしてセツにゃんは被害者?
:これが本当に二人のオフならセツにゃんの言動も理解できる
桜色セツナ:「あっ! このお出汁美味しい」
真宵アリス:「本当? ちゃんと鰹節から出汁を取ってる」
桜色セツナ:「でも豆乳鍋から具材を取ってお出汁で食べるのは珍しいですね。お野菜も肉団子も美味しい。特にネギが甘いです」
真宵アリス:「ありがと。湯葉鍋がベースだからかも」
桜色セツナ:「湯葉?」
真宵アリス:「セツにゃん火を強くするから少し待ってね」
ワイプで映しだされる鍋の火力が少しだけ上がり、クツクツし出すと真宵アリスはすぐに火を消した。
そして数分待つ。
真宵アリス:「セツにゃんお箸で豆乳鍋の表面をすくってみて」
桜色セツナ:「はい。あっ! 湯葉です! 豆乳の膜ができてます!」
真宵アリス:「鍋の中をお箸でグルンと回して集まった湯葉をお出汁で食べるの」
桜色セツナ:「はふふはふ。少し熱いですけど美味しいです。豆乳の味が濃くって」
真宵アリス:「こういう楽しみ方をしたいから、お鍋に入っている豆乳はあまり加工してないし、余計な味も付けていない。素材本来の味重視。煮立たせたらダメだけどね。だから鍋の具材は事前にお出汁で煮込んでる。鍋に入れるのは豆乳で温めているだけだったりします」
桜色セツナ:「市販の豆乳鍋とは全く違うんですね」
真宵アリス:「みたいだね。湯葉として楽しむのもいいけど、最後はとろとろ豆腐を作るから」
桜色セツナ:「鍋の途中でお豆腐を作るんですか?」
真宵アリス:「鍋の締め。肉団子を作るときについでに作った肉そぼろとにがりを投入して固めるの。野菜のお出汁も出ていて、お出汁で食べると美味しいよ」
桜色セツナ:「アリスさん豆乳好きって言ってましたからね」
真宵アリス:「うん好き。背を伸ばすために牛乳や豆乳を摂取する習慣があったから自然と好みになってた。……背はあまり伸びなかったけどね」
桜色セツナ:「……ははは」
:……飯テロ
:美少女二人がはふはふと鍋を囲んでいる絵なのにてぇてぇより腹が減る
:これがアリスの家庭料理?
:家庭料理ではない
:本格的なかつお出汁にお鍋で作った自家製湯葉
:なんで料亭で出てきそうな湯葉鍋を自宅でやっているんだよ
:最後はやっぱりににがりで固めるのか
:肉そぼろでアクセントまで加えたトロトロ出来立て自家製豆腐
:ヘルシーなのに美味そう
:アリスは豆乳好きか
:背を伸ばすために色々やったんだな
:その結果背は伸びないけどスタイルよくなって料理の腕が上がったか
:つーか日本酒が欲しい
:だな……もう日本酒をちびちびやりながらずっとつまみ続ける鍋だろ
:呑み屋から料亭に変わっただけで酒呑み料理じゃねーか!
:美味い出汁と美味い豆乳と適切に調理された具材……料理人の腕の比重が大きくて材料揃えても再現できなさそう
:一家に一台メイドロボが欲しい
:これが猫パメイド鍋パーティーか
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作者からの連絡。
ダメな人はスルーしてください。読み飛ばし推奨です。
重要なことは書いていないですし、私も読専の頃は飛ばしていました。
第二章でやれなかったアリスの好物鍋回です。
セツにゃんとのコラボ回は最初に遺書を読み上げるなどの珍事がありましたが、普段の二人の日常風景がメインです。
アリスもお仕事モードじゃないのでまったりしてます。
次話はお姉ちゃんズのやらかし(完全にアリスの日常)とパーカー入手経路とデザート。
来週に絵本の話になるかと思います。
あと個人的に重度の花粉症で体調不良です。
そんな花粉症で免疫力が落ちているときに身内が濃厚接触者(今のところ発熱なし)になったので、コロナにかかって倒れたら投稿できないかもしれません。
そのときは申し訳ございません。
あとTwitter活動始めてみたが……創作者ばかりで作品の宣伝にならないのでは?
と気づき始めてます。
それでも色々とバカなこと呟いてますので、気が向いたらフォローをお願いします。
作者ページにリンクありますので。
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