第98話 アニメ特番公式生配信①-いつも通り?-

 いよいよ配信が始まる。

 本日の司会は虹色ボイス一期生の安定性のある竜胆スズカと胡蝶ユイのコンビだ。


竜胆スズカ:「さあ始まりました! 司会は虹色ボイスのティンカーベルことリンリンと」


胡蝶ユイ:「もう大人になりたくない……年齢が気になるお年頃。ピーターパンに憧れてしまうランランです。ってなに言わせるのよ!」


竜胆スズカ:「ランランの自爆だからね。そんな理由で憧れられてもピーターパン困惑だよ」


胡蝶ユイ:「うぅぅ……最近は若い子の活躍が著しいの」


竜胆スズカ:「わかる! 気持ちはわかるよ! 今日のゲストを聞いて同じことを思った。もうみんな若いの!」


胡蝶ユイ:「私たちよりも芸歴で長い。うちで最も芸歴の長い桜色セツナちゃんよりも一年長い。それなのに最年少のセツナちゃんと同い年だよ」


竜胆スズカ:「セツナちゃんやアリスちゃんのときも思ったけど、その年齢の頃は私たちまだデビューすらしてないね」


胡蝶ユイ:「ふふ……若い芽は摘む」


竜胆スズカ:「さてランランがいい感じにダークサイドに落ちたところで、本日一人目のゲストを呼びましょう。今季の新作アニメ『アームズ・ナイトギア』で主役のイリア役を務める雨宮ひかりさんです!」


雨宮ひかり:「この空気で呼ばれるんですか!」


 現れたのはかなり作りこまれた本格的なアバターだった。

 ゲスト用の本人に似せた現代人風ではない。

 雨を思わせる暗くて濃い青色の髪。前髪の一房が金色の輝きアクセントを加えている。イリアに合わせた紅い瞳と相まって、落ち着いた髪色なのに活発な印象だ。

 身にまとうのは学生服だが、白と緋の色合いや千早の胸紐など巫女服を連想させるデザインになっている。


:始まったぁーーー!

:リンリンランランの定番の名乗り

:定番?

:毎回変わる定番の名乗りボケ

:そして毎回傷つくランラン

:大人になりたくないな……

:いや……本当に……

:困惑するピーターパンw

:あーゲストが若いからか

:この空気でw

:若い芽は摘むw

:入りにくいwww

:さすがにツッコミいれた

:あ!

:い!

:う!

:おえっ!

:肝心なところで吐くなよ!

:すまん……さっきまで異次元チャンネルで紅カレンを見ながら酒呑んでた

:ならしゃーない映像で肝臓を壊しに来るからな

:紅カレンのいつまでもはしご酒か

:すでに三日目とか……

:吞んだくれのことより雨宮ひかりのアバター見ようぜ!


胡蝶ユイ:「雨宮ひかりさんあめピカぁー! アバター似合っているね。どうどう? アバターの動きとか配信の環境にはもう慣れた?」


雨宮ひかり:「え? え? あめピカぁー。えーと……始まる前は丁寧に指導してくださりありがとうございます。でも胡蝶ユイさんはさっき若い芽は摘むって言ってませんでした?」


胡蝶ユイ:「私は考えた。若い芽を摘むにはどうすればいいのか真剣に考えた。最近の若い子は凄い。なんでも出来てしまう。こちらから試練を与えても簡単に乗り越えられて成長するに違いない。ならば思いっきり優しくして伸び伸びできる環境で育てることで成長の機会を奪うのだ。ただでさえ無理難題を突き付けられる世の中だし、私ぐらい成長させないように優しく接してもいいよね!」


竜胆スズカ:「さすがランラン! 私たちにできない発想に平然とたどり着けるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!」


胡蝶ユイ:「ふっ……照れるぜ」


雨宮ひかり:「この人達ただの優しい先輩だ!」


:あめピカぁーーー!

:あめピカが混乱している

:若い芽を摘むための方法を真剣に考えるランラン

:まさに悪魔の発想だなw

:しかも配信前に色々配信のやり方を指導しているんだぜ

:ジョジョw

:この優しさが浸透してくれれば


竜胆スズカ:「さてすでに今季の覇権アニメか! とも話題になっている『アームズ・ナイトギア』だけど現場はどうなの? 石館監督の演技指導が厳しいとは噂で聞いているけど」


雨宮ひかり:「すっっっごく楽しませていただいています! 皆でいい作品作る! その熱量が凄くて。石館監督も『この場面の感情は』とか『こう思っているはずだよね』など具体的な指示もしてくれますし」


胡蝶ユイ:「おぅ……若い子の笑顔が眩しい」


竜胆スズカ:「いい雰囲気でよかった。うちの子達からも話は聞いているんだけどね。それで私達より長い付き合いだから余計なお世話かもしれないけど。セツナちゃんとはどうなの?」


雨宮ひかり:「セツナかぁ……うーん」


胡蝶ユイ:「あれ? 微妙な反応」


雨宮ひかり:「私は幼馴染で友達だと思っているんです。けど……」


竜胆スズカ:「けど?」


雨宮ひかり:「会話の八割がアリスさんに始まりアリスさんで終わります」


胡蝶ユイ:「それは――」


竜胆スズカ:「――いつも通りだね」


雨宮ひかり:「いつも通りなんですか!?」


:個人的には覇権

:マジで楽しそうにしているよな

:ラジオとかでも現場の雰囲気の良さが伝わってくる

:桜色セツナとの仲は微妙なのか?

:幼馴染で友達って言い切れるのが尊い

:……なるほど

:相変わらず繰り広げられるのはアリスさんトーク

:配信だけじゃなく日常会話でもそうなのか

:いつも通りw

:残り二割でなにを話しているのか気になる


竜胆スズカ:「よし! 切り替えていこう。真宵アリスちゃんとはどうなの? 共演しているよね」


胡蝶ユイ:「ちょっとリンリン!」


竜胆スズカ:「次回予告にあった四話のことだよ。アリスちゃんも『アニメオリジナルキャラでオリジナル回に出るとか叩かれないかな』って悩んでいたんだよね」


胡蝶ユイ:「あー……それか。戦場の歌姫役だよね。一切ひねりなく役名がそのままアリスだとか。軍の依頼で色々な都市でライブを開催して士気高揚と慰問を行っているアイドルなオリジナルキャラ」


竜胆スズカ:「そうそれ。ライブシーンにかなり力を入れた監督肝入り回だとか。現場でアリスちゃんはどうだったのかなと」


雨宮ひかり:「アリスさんですか。……レアキャラです」


胡蝶ユイ:「レアキャラ?」


雨宮ひかり:「一応最初の顔合わせで挨拶はしました。でもほとんど話したことはないですね。そのときもセツナの背中にじっと隠れてしまっていて。実はアリスさんのアフレコは全部別録りです。しかも全て一発録りで合格とか。だから全然会わないんです。……収録のときに会える石館監督がよくイラっとするドヤ顔を浮かべてます」


竜胆スズカ:「うん……アリスちゃんもいつも通りだ。人見知りだからね。虹色ボイス事務所内でも会えたら幸運が訪れるレアキャラ扱いだし。たまに事務所内で拝まれている姿を見る」


雨宮ひかり:「あっ! 現場でかなり慕われてますよ。主題歌が話題になってかなり助かってますし、キャスト全員が気分を盛り上げるためにヘビロテで聞いているくらいです。なによりセツナがいつもアリスさんトークをしているので、もう常に話題の中心にいるクラスメート感覚で友達です!」


胡蝶ユイ:「本当にアリスちゃんもセツナちゃんもいつも通りだね。アリスちゃんは本当に話題の事欠かないから。もうネタの宝庫。週一でなにか話題になっているし。この前も事務所内で虹色ボイス変人頂上決戦を繰り広げそうになっていたかな」


雨宮ひかり:「虹色ボイス変人頂上決戦!?」


胡蝶ユイ:「うーん説明しにくいというか説明できないんだよね。……出会ってはいけない二人が事務所内で遭遇して、互いに健闘を称え合ったみたいな? 私もなにが起こったのか理解してない。けれどあのときはもの凄いプレッシャーに呑まれた。事務所内の誰もが呼吸を忘れた。それだけは覚えている。あまり掘り下げないでくれると助かるかな」


雨宮ひかり:「えーと……わかりました。アリスさんとは最近もちんすこうやマンゴープリンや杏仁豆腐を差し入れにもらいましたし、関係は良好です」


竜胆スズカ:「アリスちゃんの沖縄台湾南国フェア開催中だからね」


:共演?

:そういえば次はオリ回か

:まさかの主題歌歌手がオリキャラに声を当てて登場するオリジナル回

:大丈夫なの?

:配信を見ている限り声優もできるだろ

:聞いてみないとわからないけど別録りで一発合格か

:本人は声優やりたそうだったからオリキャラでも役もらえてよかった

:レアキャラ扱いワロタ

:目撃したら幸せになれるレアキャラ

:主題歌ヒットでアニメ成功の立役者だし慕われるよな

:オリジナル回は期待してなかったけど真宵アリスのライブシーン流れるなら見るか

:最初はアリスも声優路線かと思っていたけど今や完全にアーティスト路線なのが少し悲しい

:主題歌の再生数がアジア人枠だけどアメリカのランキングに載るらしい

:こんなに歌手として成功したら声優の仕事入れないか……稼ぎが違うし

:ほとんど話したことないのに見知った友達を増やすセツにゃんの感染力

:ネタの宝庫すぎるwww

:虹色ボイス変人頂上決戦ってなんだよ!?

:アリスの沖縄台湾南国フェア開催中いいな


竜胆スズカ:「おっと! 準備できたようだから次のゲストも紹介しますね。実はもう一人のゲストは本番前に少しトラブルがあって遅れていました。アバターの調整も無事完了したみたいです。登場するのはこの方。今作デビューで話題沸騰中の期待の新人声優の天依スイさんです」


天依スイ:「お嬢様方。お呼びいただきありがとうございます。新人執事の天依スイと申します。約束の時間に遅れてしまったことを深くお詫びさせていただきます」


 透明感のある高音のイケメンボイス。

 現れたのは黒髪ロングに黒い執事服を着た女性だ。

 画面上で軽く一礼すると、隠れていた左目があらわになった。一瞬だけ見えたのは妖しく光る紫眼。顔を上げると前髪で隠れてしまった。

 右目はとても澄んだ碧眼をしており、色が異なっている。

 ロールプレイの演出も含めて、とても芸の細かいオッドアイの男装美少女執事だった。



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