第64話 相席できない公式生配信⑦-アリスのパルフェ-
酒呑みは甘いモノをあまり食べない。
辛党だ。
確かにそういう人もいるだろう。
けれどこの呑み会の参加者は全員女性。
約一名を除いてお酒よりもスイーツの方が好きだ。
もちろん除かれた一名もスイーツよりもお酒を愛しているだけでスイーツと聞けば盛り上がる。
碧衣リン:「私はジャンボパフェを甘く考えていた。アイスクリームと生クリームを載せてコーンフレークでかさ増ししたもの。ううんパフェ自体を甘く考えていた」
白詰ミワ:「パフェだけ――」
翠仙キツネ:「――やめとこな。滑り芸というのもあるけど寒くなるだけやから。全員が同じことを思っても踏みとどまってん。ミワ先輩が『ここは私が犠牲になろう』みたいな覚悟せんでいいから」
白詰ミワ:「ボケ発言がつまらないと判断されて遮られた!? 二期生笑いに対して厳しいよ!」
碧衣リン:「最初はただの好奇心。ジャンボパフェの製作工程ってどんな感じか知りたかっただけ。だって高さ七十五センチ。アイスと生クリームをどんなバランスで積み上げられていくか興味があって厨房を訪れた」
白詰ミワ:「……そしてリンちゃんも何事もなく語りだす。つまらないことを言ったら必死にフォローするか、バッサリ切り捨ててくれる一期生の仲間が恋しい」
碧衣リン:「現物は見てのお楽しみ。食べ進めていく楽しみを奪わないためにネタバレはしない。でもアリスちゃんのパフェは最初の工程から違った。細長いパフェの容器にコーンフレークを詰めるのを想定していた私は一目で『これはただ事じゃないぞ』と悟る。なぜならアリスちゃんは半球型の大きなガラスの器を取り出して、美味しそうなスイーツで堅牢な土台を構築し始めたから」
紅カレン:「さすがはアリスちゃん。七十五センチを一分の隙もなく積み上げるつもりなのね。雑に量と高さだけを積み上げる。そんなジャンボパフェを出すつもりなんて最初からない」
碧衣リン:「そうアリスちゃんは完璧な仕事した。パフェの語源はフランス語のパルフェ。英語だとパーフェクト。完璧なスイーツの名を冠している。その名に恥じない七十五センチを作り上げようとしていた」
翠仙キツネ:「……完璧なスイーツ。七十五センチ一切の妥協なしか」
碧衣リン:「アリスちゃんは語った『日本のパルフェは色々な味を楽しめるように細長く何層にもなっています。でもこれは日本独自の進化らしいです。海外ではアイスクリームを生クリームでデコレーションしただけのシンプルなものが主流。つまりパルフェは時代や土地で変化するものだと思うんです。ならば自分が思う完璧を形にすることがパルフェなのかなと』」
紅カレン:「職人の意地と信念だね」
白詰ミワ:「……もうアリスちゃんがなにを目指しているのかわからないよ」
碧衣リン:「私はジャンボパフェ製作工程に魅了された。食い入るように見ていた。実際ちょっと生クリームなどを少し貰って食べた。美味しかった。そしてその完成した姿を見たときようやく我に返った。この感動を早く皆に伝えなければいけない。凄いものが来ると」
黄楓ヴァニラ:「事前連絡が必要なほどの出来なのね。それはそうと厨房まで行ってフライングでつまみ食いするのは厳罰だからあとで正座ね」
碧衣リン:「うぐ……了解」
碧衣リンの報告が終わるのを見計らっていたのだろう。
厨房からガラガラという台車をひく音が聞こえてきた
それとともに少しひんやりした空気が流れる。
部屋の様子は配信には映らないはずだがスタッフからのカンニングペーパーで『電気消します』と告知された。
すべてはジャンボパフェ登場のための演出だ。
期待値が極限まで上がる。
そして出現したジャンボパフェはその期待値すら凌駕した。
紅カレン:「……すご」
翠仙キツネ:「これは……また」
白詰ミワ:「綺麗……今日は誰かの誕生日お祝い企画だった……かな?」
黄楓ヴァニラ:「さすがマジカルパティシエールアリスちゃん。想像を超えるジャンボパフェ。そもそもこれはパフェなのかな。もうちゃんとした店のお祝い用特注スイーツにしか見えない。しかもクリスマスパーティー仕様豪華版」
暗い室内。
ライトアップされたのは色とりどりのマカロンで飾り付けされた純白のクリスマスツリーだった。
表面を覆うのは生クリームだ。
高さはメニューの記載通り七十五センチ。
手で持ち運ぶことは難しいので専用の台車に乗せらえていた。
ドライアイスの白い煙で雪原を表現。
下から照らす静謐なブルーライト。
少し背伸びしたリズ姉が上から粉砂糖を降らせる。
青い光に反射した粉砂糖はキラキラと輝く雪となりクリスマスツリーに降り積もっていく。
一時の幻想の終わり。
登場演出が終了し、クリスマスツリーのライトアップも消えて部屋が真っ暗になる。
もちろんすぐに部屋は明るくなった。
クリスマスツリーを模したジャンボパフェも健在だ。その存在感は凄まじい。
なに事もなかったかのようにリズ姉が告げる。
リズベット:「はい。ご注文のジャンボパフェ二分の一アリスサイズ高さ七十五センチをお届けにまいりました」
翠仙キツネ:「演出過剰すぎるやろ! それ本当にパフェなん!? あの演出なんや!? 色々とツッコミどころが多すぎてなに言ったいいのかわからへん。念のために聞くけど今日は誰かの誕生日でそのための大規模なドッキリってことは? これ呑み屋企画やんな?」
リズベット:「ご安心ください。うちの厨房担当がノリと勢いで作り上げてしまったただの力作です。中身も凄いですよ。裏で女性スタッフが大興奮です。あまりの出来の良さに急遽結婚式風の演出を用意させていただきました」
翠仙キツネ:「安心できる要素が皆無!」
―――――STOP―――――
桜色セツナ:「え? え? え? アリスさんあれを作ったんですか!?」
真宵アリス:「うん。たぶん人によってはパフェじゃなくてアイスケーキだろとツッコミが入る」
桜色セツナ:「どうして作れるんですか?」
真宵アリス:「引きこもっているときに興味あるものに片っ端から挑戦していたから。お酒に合う料理は普段からの積み重ねだけど、カレーや握り寿司やジャンボパフェは引きこもり期間に習得した」
桜色セツナ:「引きこもり期間の充実ぶりが凄い!」
真宵アリス:「今回は作らなかったけどうどん蕎麦ラーメンなども一通り粉から作れる。もちろんスープも」
桜色セツナ:「一体なにを目指していたらそんなことに!?」
真宵アリス:「当時の私はネット冤罪とか色々あって荒れていた。……恥ずかしいことにただの逃避行だよ。なにか夢中になれるものを探して本当に無軌道で乱高下に色々やった。本気でプロの引きこもりを目指してね」
桜色セツナ:「……プロの引きこもりとは何者なのでしょう?」
:甘く考えていたパフェだけに
:言うな
:せっかくキツネが止めたのに
:二期生の方が笑いに厳しくて一期生の方が優しいのか
:専用の容器にスイーツの土台
:アリスがまたヤバいモノを生み出そうとしている
:七十五センチ一部の隙のない完璧なスイーツ
:それはもうジャンボパフェじゃないな
:……どうして動画に出演せず料理作っているだけでアリス劇場開幕できるんだよ
:え? 実写?
:なんかクリスマスツリーみたいに飾りつけされた白い円錐が登場した
:真っ暗でスモーク焚かれて青い光でライトアップされて雪降らされて
:このうっすら映っているの雪を降らせる手はリズ姉かな
:これがアリスの作りだしたジャンボパフェ二分の一アリスサイズ高さ七十五センチか……本気で凄いな
:俺たちの想像しているジャンボパフェじゃなかった
:そりゃあ誰かの誕生日かドッキリ疑われるわ
:本気で祝いもの過ぎる
:呑み屋企画で出されるモノじゃない
:角度別で詳細な写真もアップされたw
:普通にデカい
:この飾り付けマカロンだ
:パフェじゃなくてアイスケーキかなら納得……じゃねーよ!
:アリスは引きこもり期間中もアリスだった件
:いや時間が有り余っていても習得できる技術じゃないだろ
:今回は麺類見てないけど作れるのか
:プロの引きこもり
:壁ドンではなく家でジャンボパフェを作り出すのがプロの引きこもりなのか
:引きこもりのハードル上がり過ぎ
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