第41話 三期生集合公式生配信⑤ーミワちゃんは頑張ったー

 唐突に決まった一期生三期生全員集合の公式生配信。

 それはチャンネル史上最大級の危機を招いていた。


 告知したメンバーが揃わない。

 一期生の四人と三期生の四人勢ぞろいの合計八人大規模オフコラボ企画を告知していたのだ。

 急なサプライズ告知にも関わらず待機所には十万人以上のリスナーが待っていた。

 それなのに始まってみると、一期生の二人しか登場しない。

 本来ならこの時点で炎上モノだ。


 けれどさすがは経験豊富な一期生。白詰ミワと花薄雪レナの二人は炎上させずに乗り切った。

 トラブルの発生を告げて、告知通りにスタートできなかったことを謝罪。

 息の合ったかけあいを挟み、臨場感ある語りでメンバーが揃っていない理由を面白おかしく説明した。

 トラブルさえ利用してリスナーが楽しめる空気を醸成したのだ。

 その手腕に炎上どころか笑える事故配信として話題を呼んでいた。

 チャンネル史上最大級の危機を回避した功績は讃えられるものだろう。


 だが状況の説明を終えても、誰もスタジオに現れなかった。

 二人は真宵アリスの説得がこんなに長引くとは想定していない。

 説得ができなくても誰かスタジオに来てくれるはず。そう期待していたのに音沙汰なし。

 スタジオに新しい情報が入ってこないまま、時間がすぎる。このままではすぐに話題も尽きる。いくらトラブルが起きていることで理解が得られても、生配信で停滞することはあり得ない。

 ついに白詰ミワは竜胆スズカに電話で連絡を取ることにした。


 電話の向こうから聞こえるのは大歓声。

 謎のゲームを盛り上げる一期生竜胆スズカと胡蝶ユイの迷実況。

 しっかり者で安定感に定評のあった白詰ミワが『マルセイユルーレットってなに!?』『黒猫メイドロボ伝説!?』と困惑のツッコミを叫ぶのも無理はない。

 頼れる相方のはずの花薄雪レナに至っては『黒猫メイドロボを生で見たい!』と生配信を放棄して、すぐにもスタジオを飛び出そうとする。

 圧倒的な情報不足。

 頼りにならない相方。

 実況から繰り出される謎のパワーワードの数々。

 とにかく白詰ミワは頑張っていた。


白詰ミワ:「跳んで肩の上で逆立ちってどういう状況!?」


花薄雪レナ:「忍者! 黒猫メイドロボが伝説を乗り超えてアリス疾風伝の開幕! 見たい見たい見たい!」


 映像のない音声だけの情報は人間の想像力を掻き立てる。

 追いつかないツッコミ。

 もちろん理解も追いつかない。

 スタジオでも真宵アリスの疾走に追いつけなかった。

 理解できないけどリスナーも大盛り上がりだ。


:大人の身長を跳び超えるジャンプってw

:肩の上で逆立ち

:アリスすげー(呆然)

:とうとうアリス疾風伝の開幕か

:黒猫メイドロボ伝説が意味不明なまま乗り越えられたwww

:本当にこいつらなにやってんだよwww

:これはリスナーに仕掛けられたドッキリの可能性も

:疑いたくなるのもわかるがなに一つドッキリはないんだぜ

:ドッキリがないことが一番のドッキリ


竜胆スズカ:『先行する真宵アリス! その背中を追う桜色セツナ! 両者一歩も引かないデッドヒートが始まったぁーーー!!!』


白詰ミワ:「行け! セツナちゃん行け! よくわからないけど追いついて!」


花薄雪レナ:「負けるな黒猫メイドロボ伝説アリス疾風伝!」


白詰ミワ:「アリスちゃんを応援するの!? あと長い!」


花薄雪レナ:「妹を応援するのは姉の義務」


白詰ミワ:「……まだ姉の座を諦めてなかったのか」


:競馬実況w

:黒猫メイドロボ伝説アリス疾風伝は馬名として長いな

:マヨイアリスとサクライロセツナの争いか

:どちらにかければいいんだw

:ミワちゃんはツッコミを忘れない


竜胆スズカ:『先頭は真宵アリス! 後ろから桜色セツナ! 逃げるアリス! 追うセツナ! 意地と意地のぶつかり合い!』


胡蝶ユイ:『行け! そこだ! 差せ! もう次はない! 捕縛要員はもう五人しかいないの! 正直もうラストチャンス! ここが最後の大一番!』


竜胆スズカ:『ここまで素晴らしい逃げを見せてきた真宵アリス! だが疲れが出たか! 後ろから伸びる! 伸びる! 伸びる! 一気に伸びてきた桜色セツナ!』


胡蝶ユイ:『その勢いのままアリスちゃんの背中に手を伸ばして! 届け! 届け! 届いた!』


竜胆スズカ:『ついにタッチ! セツナちゃんがアリスちゃんお背中にタッチしたぁーーー! 二人して床に倒れ込む! デビューしてからずっと追ってきた! ついに桜色セツナが真宵アリスの背中に追いつきました! この感動を私はどう表現すればいいのでしょう?』


胡蝶ユイ:『うん……とりあえず背中を追うの意味が違うんじゃないかな』


白詰ミワ:「よかった……良かったよ。なにがよかったのか、よくわからないけど終わってくれて本当に良かった」


花薄雪レナ:「あーーー! 私の妹が負けた……がっくし」


:完全に競馬の実況じゃねーかwww

:謎の感動w

:一期生全員言っていることもテンションもバラバラで草

:セツにゃん良かったね……ずっと追っていたアリスの背中についに届いた

:ランランも言っているけど絶対に意味が違う

:……今日の配信ってなんだったっけ?

:事務所総出のドッキリ企画

:迷い猫アリス捕獲大作戦

:第一回虹色ボイス杯だよお前ら誰に賭けてた?

:一期生三期生全員集合の大規模オフコラボだろ

:全員集合してないからそれだけはない

:あれ?


竜胆スズカ:『ここで勝利者インタビューなどに移りたいところですが』


胡蝶ユイ『残念ながら終わりの時間が迫ってきました。すでに公式チャンネルが始まっているので実況はここまでです』


竜胆スズカ:『本日の実況は一期生竜胆スズカと』


胡蝶ユイ『解説の一期生胡蝶ユイでお送りいたしました』


竜胆スズカ:『そんなわけでミワちゃんレナ様リスナーの皆さん。今から私たちもスタジオに参加しますね』


胡蝶ユイ『アリスちゃんとセツナちゃんは疲労困憊みたいだから少し休憩を挟むかも』


 ――ブチッ


白詰ミワ:「えっ? ちょっと待って。戻ってくるのは嬉しいけど、少しは状況説明して。そんな放送予定時間が終わった野球中継みたいに終わらないで!」


花薄雪レナ:「待って! ハイライト! 本日のハイライトで振り返らせて! 見逃したところがみたい!」


白詰ミワ:「ないよ! ハイライトあったら私も見たいよ! 状況把握するために!」


:よくわからないまま謎のイベントが終わったw

:ハイライトwww

:映像化はよ!

:競馬から野球のぶつ切り中継風で終わったw

:一体なんだったんだ?

:たぶん盛大なドッキリだな

:お願いだからリスナーにまでドッキリ仕掛けないでくれ

:誰も状況把握できてないのは笑える

:……公式配信は魔境

:主に真宵アリスのせいだと思うがw

:こいつら全員これを台本なしの即興でやっているんだぜ

:虹色ボイスヤバいな


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