第5話 デビュー生配信④ー配慮してちゃんと面で叩きましたー
公表されていた予定時間になったのだ。
コメント欄にも「もう始まっているの?」という困惑している人も増えていたので仕切りなおす。
無理してテンションを上げた明るいキャラクターはもういらない。
お仕事モードの一部は終了して、二部スタートと印象付けるために改めて本来の結家詠に近いままで名乗りを上げる。
「改めて……皆様初めまして。世界に叛逆を目論む引きこもりの陰キャコミュ障な堕落型駄メイドロボ真宵アリスです」
:初めまして?
:すでに十分以上経っているが
:もう十分経っていたの?
:一瞬だった
:途中から見始めたけど暴走型だったな
:型番が変わってる
:世界に叛逆を目論む駄メイドロボは共通
「いよいよ私のデビュー配信が始まりました。ですがまだドラブレのショート缶を飲み切れていません。先に来ていただいていた皆様。今日の配信の内容を簡潔にどうぞ」
:はぁ?
:リスナーに状況説明投げるなw
:唐突な先行ゲリラデビュー配信
:声爆弾
:カーテシーで謝罪
:無断ゲリラ配信で事務所ブチ切れ
:ママを生贄にする
:チャンネル名の変更
:陰キャ告白
:一年間の引きこもり
:生配信でドラブレをキメる
:名乗りが変わる
:リスナーに丸投げ←New
:わずか十分でこれか
:改めてママを生贄にするってなんだよwww
:自由すぎる
空になった缶を置く。
コメント欄は増えたリスナー含めて盛り上がっていた。
「本当に説明してくれていたんですね。ありがとうございます。無茶振りしてごめんなさい」
:おう
:ええんやで
:謝罪とお礼はしっかりしているよね……謝罪とお礼は
:ねこグローブママw
:ママの言う通りなんだな
:いい子なのか?
:本当にいい子は暴走して問題起こさない
「もうお仕事モードが終わって暴走型ではありません。堕落型なので暴走はしませんよ。それで残り時間なにしましょう。先行で色々やったので私の会話デッキの枚数がもうわずかです」
:堕落型はリスナーに投げるのか
:暴走型でも堕落型でもヤバい
:ママのねこグローブ先生とは親しいの?
:なんか距離近かったな
:生贄に捧げるぐらいだからな
「需要があるようですね。私とねこ姉の出会いを語りましょうか。ちょっと待ってください。今捏造しますので。はい整いました」
:捏造www
:作り話するなw
:しかも早い
:なんだこいつ
「あれは台風の近づく荒れた河川敷。私は一人段ボールの中にいました」
:はじまったw
:捨て猫設定?
:いや捨てメイドロボ設定だろ
:やっぱり不良品か
:暴走型に堕落型だからな
「吹き荒れる強風。私は手に持つプラカードが飛ばされないよう必死にしがみつきながら声を張り上げます」
:プラカード?
:ちょっと待てなんか違う
:どういう状況だ?
「『野比家の横暴を許すな』『パイセンに給与を』『週休二日制を』『どら焼きさえ与えていればいいと思うな』『ロボットに人権はないのか』」
:www
:あかんw
:パイセンって言うなw
:売ってはいけないところに喧嘩売ったw
:国民的アニメの闇に触れたw
:シュプレヒコールwww
:世界に叛逆してやがる
「誰もいない河川敷で声を上げる。そんなわたしに近づく人がいた。台風で川の水位を見に来てしまったご老人だったら危ない。注意しなければ。そう思ってそちらを見ると妙齢な美人のお姉さんでした。ねこグローブ先生です」
:危ないのはお前だw
:危険駄メイドロボ
:言動ヤバいのにどうして対応がまともなんだよ
:なぜ台風の河川敷でシュプレヒコール
「ねこグローブ先生は空のビールケースをなぜか持っていました。色は黄色。私が入ってる段ボールのすぐ横に裏返しで置きます。そして目で促してきます。ここに乗れと」
:なんでだよw
:なにが始まっているんだよ
:これがアリス劇場
:コントが始まる
「私は戸惑いながらもビールケースに乗りました。ねこグローブ先生はうなずきます。親指をぐっと突き出しいいねとドヤ顔です。私はプラカードを思いっきり振り下ろして、ねこグローブ先生の頭をぶっ叩きました」
:だからなんでwww
:ママの扱いがひどい
:ねこグローブ先生の行動もなぞ
:これ作り話だよな?
「配慮してちゃんと面で叩きました。角は危険です」
:そういう問題じゃないwww
:角は危険だな
:配慮できてえらい
:めちゃくちゃだな
「身長差あって、私がビールケースに乗ってようやく目線が同じくらいの高さになるんですよね。同じ血筋でなぜこれほど違うのか。世界の理不尽さに怒りを覚えます」
:理不尽なのはアリスだろw
:あーそう着地するの
:同じ血筋?
:姉妹か
「正確には歳の近いリアル従姉のお姉さんです」
:従姉ね
:ビールケースは約三十センチ
:真宵アリスの公式身長は百五五センチ
:小柄だな
:ねこグローブ先生がでかい
「はあ? 百五五センチは小柄ではないです。夢のある数字です」
:キレたwww
:身長コンプか
:つまり本当の身長は百五五ない?
:アリス小さい
「小さくありません。この世界が巨人に進撃されているだけです。私は頑張れば百五十に届きます」
:頑張ればw
:百五十に届いていない
:未成年で小さい
:想像以上若い?
:まさか小学
「誰が小学生ですか。さすがに怒りますよ。そう言うのは警察のお姉さんだけにしてください」
:警察に間違われてるw
:子供料金でいけそう
:顔を覚えられてそう
:警察の常連
「警察のお姉さんと顔見知りになって、色々話してたのは中学生の頃の話です。高校生になってからはありません。高校は色々あって中退して、通信制に切り替えた似非女子高生ですけど。それに現在は引きこもって外に出ないので、警察のお姉さんのお世話になる機会もないです」
:警察のお姉さんと顔見知り
:たぶん保護対象認定されてる
:女子高生
:色々って掘ると闇?
「……闇です。いずれ話す予定ですけど、今は聞かないでください。ちなみにねこ姉とは同居の二人暮らしで、実質保護者ですね。虹ボ事務所ともねこ姉繋がりです」
:りょ
:りょ
:親とも離れているんだ
:おい
:そこは流せよ
:……ごめんなさい
「あー……こちらの配慮が至らず申し訳ありません。両親は問題ないです。不良娘特有の一方的に気まずいだけです。最近は直接話してはいないですけど、ねこ姉はたまに話してます」
:よかった
:なんか地雷多そう
:話した人に両親いなかったからつい
:まあ色々あるよな
「そうですね。……うん、いい機会なので両親にメッセージを。お母さんお父さん、私は大丈夫です。まだ引きこもりですし、健全や普通からは遠く、社会復帰できているとは思えません。けれど今日こうして配信という形で歩み始めて、再び社会と向き合おうとしています。色々問題しかない社会不適合不良娘で申し訳ありません。今度は自分から電話させていただきます。最後にお二人のことは尊敬し、愛しております」
:目から水が
:え……何も言えない
:いい子だな
:唐突に感動出すなよマジ泣く
:こんな娘ほしい
:娘に言われてみたい
「……自分で言ったとはいえ気まずいですね。もうちょっと時間が後なら強制的に終了させるんですけど。空気変えるため同期配信のアフレコでもしましょうか。私の唯一の特技です」
:……せやな
:色々感情が追い付かない配信
:堕落型が丁寧口調でいい子すぎる
:アフレコ?
「同期の配信全部覚えていたら、全員VTuberになった理由を話していたので」
:うん?
:なんか変なこと言わなかったか。
:同期の配信全部覚えて?
「では最初は桜色セツナさんのデビュー配信二十分三十四秒からスタート」
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