第32話 「腐っても鯛」は外道に過ぎず!

 コ○ナ禍が一休みした中、新しい国のリーダーが事実上、決まった。


 前リーダーである田舎者の成り上がり者は、コ○ナ禍の中、世界の運動会を敢行し、爆発的な感染状況を表出させた上、その難局から逃亡した。


 その愚策にいち早く反旗を翻し、老害による陳腐な組織にメスを入れようとした者が、新リーダーに選ばれたことは、至って適当な流れと思われる。


 この者が、派閥の論理、マスコミの煽動等の小細工によらない真の実力者であることを心から期待する。


 俺の属する第一次産業である漁業について、この2年に及ぶコ○ナ禍のダメージは計り知れないものがある。


 旅館に卸せば、通常、一万円で買い取られるキロ級のヒラメも、最近は全く買い手が付かず、魚屋のちっこい水槽の中で100グラム300円の値打ちとし、人目に晒され、観賞用の魚のように生き続けている。


 ただ、コ○ナ禍であろうと無かろうと、海に出れば、コ○ナ差別などの偏見は微塵も無く、純度の高い労働が提供される。


 誰が感染者であるか否かなど、自然は興味を持たない。


 そんなちっこい物に興味を持つのは、下衆な輩の人間であり、その中でも下衆の極まりであるマスコミ、そして、マスコミに対して、異常なほど怯える、サバンナのインパラのように警戒心だけが長けている、腐った組織である。


 こういう臆病な組織は、決まってマスコミに、平然と漫然と、仲間を生贄として御供えするかのように、特定しなくてもよい個人情報を提供する。


 誰も興味を持たない情報を…


その結果、マスコミの餌食となった仲間は、無惨な記事を書かれ、更には何ヶ月もの間、インターネット記事に晒し首のように、恰も犯罪者のように、表示され続ける。


 読み手の興味がゼロとなっても、残酷に放置されたまま…


 俺は、新政権に漁業の事情まで期待することはしない。


 が、俺のようなコ○ナ感染者でマスコミの餌食になった者を救済して頂くことを切に願う。


 コ○ナ禍は収束してない!


 コ○ナ感染者の後遺症及び差別対策は、隅っこに追いやられ、放置されたままである。


 この2年間のコ○ナ禍により、どれだけ多くの人々の人生設計に多大なる変更、又は頓挫が生じたか!


 その放置された暗闇に勇気を持って光を当てることが、新政権の宿命である。


 そこには悍ましい、事実が存在しているのだ。


 声無き声


 または、勇気ある声の封鎖


 それら声に対し、今から耳を傾けろ!


 闇に埋没した真実、葬られた差別・偏見、決して放置することなかれ…


 そう期待する。


 さて、長崎の生活に戻ることとしよう。


「高貴の微笑み」から別れの真意を告げられ、そこに当事者間の責はなく、第三者の陰謀が隠れていることが分かった。


 全ての過去が明らかにされた訳ではないが、それはそれで一定の成果とは言えた。


 俺の私的な面における精神状態は束の間の安定期を迎えていた。


 しかしだ。


 ここで、またも俺を邪魔する輩が登場して来る。


 組織だ!


 腐った組織の残党が俺を過剰に刺激した。


 長崎の仕事は、前も述べたとおり、至って平穏な状況であった。


 特段の有事対応もなく、外的な攻撃対象ともされておらず、普通の地方の支店業務の遂行が日々行われていたに過ぎなかった。


 得手して、こういう平時の時には、平時だからこそ通用する、見せかけのリーダーが介在する。


 トップは女性登用者の「お願い〇〇ちゃん」、ナンバー2は、次期トップを目論む、本社には決して意見しないイエスマンの小心者、そして、ナンバー3が本社の使いだ。


 1番の問題児はナンバー3の人事部長であった。


 こいつは、長年、本社勤務を経験し、意気揚々と地方に降り立ち、社員の心を掴むことなく、我が儘放題に本社イズムを宣う愚か者であった。


 こういう輩は、この地方では、現場からの反発を喰らい、自滅することが多々あった。


 実はこの人事部長は、長崎の前の勤務地で、現場社員の反発を喰らい、自滅した人物であった。


 その前任地において、本社被れの類に漏れず、本社イズムをのうのうと宣うだけで、現場の仕事はど素人であった。


 結局、時間の経過と共に、自身の無能さを痛感し、それを部下のせいにし、やがて、愚の骨頂として、パワハラまがいの言動で存在感を見せつけようとしたが、行き止まりは、現場上がりの支店長に咎められ、自滅し、メンタルの仮面を被り、休職した輩であった。


 それがだ!


 半年後、ゾンビのように復活し、異例の異動により、この長崎の地に、降格無くして舞い降りて来たのだ。


 その裏に何がある…


 あるのは本社の身内贔屓


 本社の子飼いは、護られる。


 本社の社員は、「腐っても鯛」なのだ…


 この男、本社時代のゴマスリ、忖度で築き上げた人脈を巧みに使い、居心地の悪くなった前任地からの救済措置として、同じポストで長崎に赴任して来やがった!


 当然、長崎の同ポストの部長は、理由無き異動により、バーターとして、此奴の前任地に飛ばされた…


 異例中の異例の人事異動であった。


 社員達から驚嘆の声が上がる。


「本社の者は、こうしてまでも救済されるのか?」


「地方は所詮、本社社員の当て椅子なのか?」


「本社はどうして、こんな無能な者を救済するのか?本社が宣う『能力・実績主義』など、正に絵に描いた餅じゃないか!」


「結局は本社経験者とイエスマンしか、この会社では出世できないじゃないか!」


 平和な長崎に不要なトラブルの種が舞い込んできた…


 その男は、風貌からして、典型的な狡猾な目付きをしていた。


 狐、いや、イタチのような残虐さも持ち合わせた風貌…


 そして、如何にも自身はパワハラの被害者であるかのようにメンタルの仮面を被り、節目がちな表情を演出し、転任直後の挨拶を行っていた。


 しかし、俺には分かる。


 奴の腹黒い魂胆が…


此奴は長崎赴任後の残り半年を被害者として演じることに徹しようとしていた。


 女支店長の後を金魚の糞のように歩き回っていた。


 ナンバー2の支店長代理などは眼中に無いよう、ひたすら金魚の糞に成り切っていた。


 しかしだ。


 人間の本性は、そう簡単に変わるものでも無く、隠させるものでもない。


 こういう輩は詰まらぬ本能を持っている。


 自身より強そうな者には滅法弱いくせ、弱い奴には陰湿なほど辛辣に当たる。


 奴の部署と俺の部署はワンフロアーで隣接していた。


 奴の狡猾な本能は、俺の粗暴さを敏感にキャッチし、俺に対しては、お利口に低姿勢を貫いていた。


 しかし、奴の部署の部下に対しては、赴任当初のメンタルの仮面は次第に剥がれ出し、奴の陰湿極まりない高飛車な態度が露わになり始めていた。


 何時間も部下を机の前に立たせ、何やら仏頂面で延々と宣っている。


「違うんだよなぁ~、そんなセンス、本社ではあり得ないよ!」


「本社ではそんなことしないんだよ。本社はさぁ~、日本の経済を動かす中心でさぁ~、本社はさぁ~、政界とも繋がりが強くてさぁ~、本社はさぁ~、丸の内はさぁ~、東京はさぁ~…………………………………」


 全く仕事をすることなく、本社被れの話を延々と宣い、時に甲高い奇声で高らかに笑い、そして、地方を現場を部下を詰っている。


 段々とその部署は、繁忙期でもないのに残業が増えて行った。


 その理由について、俺の部署の部下が言うには、


 何でも、時間中、このイタチ野郎の戯言を延々と聞かされるため仕事が進まず、ましてや、何と、このイタチ野郎、5時から仕事をするのが本社流と宣い、更にはだ!、自身はメンタル、1人で会社に居ることが出来ないとほざき、部下達に付き合い残業を強要する始末であったとのこと。


 俺はこのイタチ野郎に痛い目を見せてやろうと、次第に俺の悪い心がニヤケ出していた。


「おい、お前の大っ嫌いな獲物が登場したんじゃないかい?やっちまいなよ!ボコボコにやるんだろう?」


「あぁ~、やるよ!一喝で終わりそうだがな。」


「そうか。安心したよ。最近、お前、鳴りを潜めていたからな。従順なお前ほどつまらぬものはないからな!」


「まぁ、心配するな。俺も些か、最近、面白くなかったんだよ。それを発散するのに恰好の獲物さ。」


「そんなんだ?お前、最近、何が面白くなかったんだよ?」


「お願い〇〇ちゃんの、あの言葉だよ!」


「あれか!なるほど、お前の反逆心を煽る、あの言葉か!」


「そうだ!」


 あの言葉とは…


 季節が晩秋に差し掛かると仕切りに俺は女支店長から、こう言われた。


「〇〇課長、今は○○課長にとって大事な時期ですからね。」


「大事な時期ですから、本社に無礼のないようお願いします。」


「〇〇課長の会社人生の大事な時期ですからね。何事も穏便にお願いしますね。」


 これだ!


「大事な時期ですから~」


 腐れが!


 俺はこんな保身に溢れる言葉が大嫌いだ!


 何事にも穏便に!


 ホンマ、腐れ組織だ!


 誰が従順な羊になるものか!


 俺は誰であろうと、何であろうと、不可なことには意見を申す!


 俺は無言の民にはならぬ!


 何が大事な時期だ!


 本社を刺激するな?


 腐れ!


 ふざけんな!


 異動時期だけが大事な時期か?


 毎日が大事な時期ではないのか!


 本社のイエスマンを演じろ?


 腐れ!


 こんな風に、俺の一番嫌いな忖度、保身の品評会が始まろうとしていたのだ。


 来季の異動を見据え、本社のお偉方が御視察に現れ、地方の牛の品評会を行う。


 どれだけ従順で、どれだけ忖度できるか、その価値のみを見極める。


 仕事度外視で、観光と化した視察ルート、昼飯、夜の宴会…


 おもてなし


 出世欲のある上層部は、これに全エネルギーを費やす。


「〇〇課長の大事な時期」


 違うだろう!


 お前らイエスマンの大事な時期だろうが!


 俺をお前らの保身と忖度に巻き込むな!


 そんな憤りが沸々と心の底で熾っていたんだ!


 そんな矢先、あのイタチ野郎が俺の罠に入って来たよ。


 奴は11月中旬、本社に出張していた。


 奴の古巣、奴の砦の本社


 奴は少し油断をした。


 本社に戻ったのかと錯覚をしたんだ。


 いつもは俺にビビって俺の目を見ることができない臆病者が、勘違いをしてしまった。


 奴は無造作に本社会議の休憩時間を利用し、俺に電話をして来た。


 そのやり取りはこうだ。


「〇〇課長、今、会議の休憩時間なんですが、一つお願いがあります。」


「何ですか?」


「先の協議で重要な意見がありましたので、今から私の言うことを支店長に伝えてください。」


「私が伝える?私の部署の関係ですか?」


「いいえ、違います。私の部署の関係です。」


「どうして、貴方から支店長に直接電話しないのですか?直接言えば良いでしょう?」


「支店長にお電話で話すのは失礼ですから、〇〇課長から伝えてください。」


「おい、コラっ!お前、俺を何と思っちょんのか!コラァ!俺はお前の使いか!コラァ!俺はお前の部下か!コラァ!」


「………」



「コラァ!何か言わんか!コラァ!」


「………」


「腐れ!調子に乗んなよ!アホ!自分で言わんかい!腐れ!」


「………」



 俺は一喝し、電話を叩っ斬った。


 その翌日、本社会議が終わり、支店に出社するはずのイタチ野郎の姿はなかった。


 昼過ぎ、俺は支店長室に呼ばれた。


 女支店長は俺にこう問うた。


「〇〇課長、昨日、〇〇部長を怒鳴ったのは本当ですか?」


「本当です。」


「どうして怒鳴ったんですか?」


「私を部下扱いしたからです。」


「………」


「支店長は奴から事情は聞いたのですか?」


「聞きました。まさか、怒鳴られるとは思ってなかったと言っています。」


「くだらん内容で、俺を丁稚のように使う奴は許しません。」


「〇〇課長の仰ることは御もっともです。〇〇部長の私に伝えたい内容も知れてるものでしたから…」


「では、私はこれで失礼します。」


「あっ、待ってください。」


「何ですか?」


「もう、〇〇部長に対して、強く当たらないよう約束してください。」


「奴が反省すれば、私からは攻撃しません。」


「〇〇部長はメンタル疾患で、〇〇課長が怖くて、今日、休暇を取りました。〇〇部長の精神状態に留意願います。」


「あんたの目は節穴か?」


「えっ?」


「奴がメンタルの仮面を被ってるのが分からんのか?」


「………」


「こんな部屋にじっと閉じこもり、社内を見渡さないから、貴女は何も分かっていない。」


「………」


「奴の部署の職員が、奴のパワハラ紛いの言動で萎縮してるのに気付かないのか!」


「それは感じてました。」


「あんたが釘を刺さんからじゃ!支店長代理も奴が本社に伝手を持ってるから注意もせん!

 ならば、ワシが釘を刺すしかなかろうもん!」


「………」


「もう要件はないな!」


「〇〇課長、大事な時期です。〇〇部長は本社に繋がっています。〇〇課長に部の悪い情報が上がる…」


「腐れ!そんなもん関係ない!本社ばかり気にしてどうするんじゃ!ここは長崎じゃぁ!ここは現場じゃぁ!この地で、この現場で、本社被れは通用せんのじゃ!俺をみくびるな!俺は保身が大嫌いじゃ!俺に釘を刺すなら、他のもんにせぇ!」


 俺は女支店長、「お願い〇〇ちゃん」を怒鳴り飛ばし、部屋を後にした。


 長崎2年目の晩秋の頃


 丁度、50歳、節目の時


 俺は薄々感じていた事が現実になった事を肌で感じ取った。


 この腐った組織で生き残るには、仕事の実力・能力は何の役にも立たない。


 必要とされるのは、組織への従順度、物を言わぬイエスマンに徹すること…


 それが必要であることを、改めて痛感していた。

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