第3話 脳裏に焼きついた因縁
お前は将来犯罪者になる、お前は碌な人間にはならない…か、
勝手に言い放たれたが、今、私は、平穏無事に大海原で釣糸を垂らし、遠くの海平線を見遣っています。
仕事?、ちゃんと故郷に帰り、夢であった漁師となり、高齢の両親の面倒を看ながら暮らしています。
家族?、子供も2人成人となり、独立しましたよ。妻も義父母の面倒を看るため一緒にUターン帰省しました。
仕事も、今は漁師をしてますが、それまでは、30年間、会社務め、全国異動をし、昨年末で早期退職しました。それなりの地位まで登り詰めました。
犯罪者、碌な人間には、残念ながらなっていないようですよ。
今でも警察官と教員は嫌いですね。
そうそう、教員には勝手に人生を潰されそうになりましたよ。勝手にね、勝手に教員如きが、人の一生を台無しにしようとするんですよ。
あれは、高一の時の私の担任。大学出立ての新米教員。女性教員でした。
彼女が塾講師ならば、及第点を貰えたかもしれませんが、人間形成をも指導する教職としては、最低レベルの人間でした。
マニュアルを開きながらの朝礼、生徒の言葉の背景にある真の声を聞き取れない浅い洞察力、生徒に怯える脆弱な精神力、こんな奴が私の高一という大事な時期の担任教員でした。
現在、彼女がどうしているのかは知りませんが、私が卒業後、早々に教職を辞職したと聞き及びました。
たった、5、6年の教員期間、その一年目、こいつが…
「A君、応援団入ってくれる?各学級から1名は出さないといけないのよ。」
「僕は勉強するためこの高校に入学しました。応援団などには入りたくありません。」
「でもね、A君、入学後の1回目の模試、450人中380番だったよね。この学校、レベルが高いから、A君はこれ以上、上位には行けないと思うの。分かるでしょ?」
「何がですか?」
「あのね、この学校には、入学出来て万歳組とね、これから頑張る組と別れてるのよ。A君はね、前者の組なの。」
「………」
「他の人、勉強頑張らないといけないから、A君、応援団、出て貰っていいかな~」
「嫌です。籤引きで決めてください。」
「うーん、分かったわ。でも、籤引きで当たった子が嫌がったら、A君引き受けてね。」
「えっ!それじゃ、籤引きの意味がないじゃん!」
「さっきも言ったけど、A君はね、この高校に入学出来ただけで十分な生徒なの。担任として、クラス平均点、下げたくないの。そこは理解してね。」
「………………」
籤引きの結果、中学時代の親友が的中となった。
奴とは入学して、同じ塾に通うことになっていた。
「俺、応援団員になったから塾行けなくなった。」
奴が寂しげに私の肩を叩きながら教室から出て行った。
私も塾に行くのをやめた。
「A君は、入学出来て万歳組なの」
彼女の言葉が脳裏に深くこびり付き、心の芯までやる気を折られた。
踠き苦しみ、見返すため、猛勉強した。
高校2年の春には100番以内まで、成績が上がった。
しかし、応援団に入った親友はどん尻の成績であった。
彼女を見返すための猛勉強が、なんか、アホらしく思えてきた。
「どうせ、A君は、入学出来て万歳組なの」
突然、彼女の言葉が脳裏をよぎった。
「くそっ!」
私は無心のまま職員室に向かっていた。
職員室に礼もしなく入り込み、私は、彼女に詰め寄った。
「万歳組が100番以内に入ったよ!」
「A君、まだ、そんな事、気にして勉強してるの?」
と彼女は悪気もなく、そう返答すると隣の席の体育教師を見遣った。
その体育教師がニヤリと笑いなが椅子を回し、私にこう言った。
「A、万歳組はな、最後は落ちるんだよ。高校3年から落ちるようになってるんだよ。今に分かる。」と
私は奴を睨みつけた。これが黒豚野郎との初顔合わせだった。
「なんだ、その目付きは!教師に対して、なんだ、その目付きは!」
私は瞬き一つもしなく、この黒々した醜い小太りの中年教員を虎が獲物を狙うような目付きで睨み続けた。
どのくらいの時間が経ったのか?
何か私の視線の中で黒い醜態が怖気付きながら喚いている映像が映し出されていた。
私は感じていた。
「こいつが、この新米教員につまらない傾向を教え込んだんだな。こいつが…!」と
何の根拠があって、何の権利があって、何様のつもりで、15歳の少年の夢を、未来を潰すのか!
この人間たちには、1人の少年の人生に影響を与えるべき言動を発する、資格・権利が付与されているのか!
運が悪かったよ…
本当に運だよ…
これでもまだ、神を恨むには浅はかな戯言か…
「もう済んだ事だ」と海面が揺らぎながら笑っている。
いや、まだ、終わっていない!
俺の心臓の鼓動が鳴る間は、過去の因縁は脳裏の映写機が煙を上げ壊れ果てるまで、映し出す!
俺は奴らを絶対に許さない!
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