第9話 ぬくもり
「っっ! もうっ! 焦げちゃいますよっ」
「おっと、それは困っちゃうね」
照れ隠しに理歩がそう言えば、誠士郎はパッと両手を上げて離れる。そして、そそくさとリビングへと移動する。
「もうっ……ご飯が足りるか心配だけど、多めに盛り付けますね」
卵を焼いているフライパンの中に、玉ねぎとベーコンを混ぜたケチャップライスを乗せる。そして器用に卵でご飯を包んでから浅く、縁が水色に染められていた皿に盛りつける。最後にケチャップをかければ完成だ。さすがにケチャップでハートや文字を書けるような度胸はなく、無難にジグザグにかけるにとどめた。
「さあ、どうぞ。お気に召すかどうかわからないですけど。あ、先に手洗いはしてくださいね。風邪ひくと大変なので」
「そうだね。急いでしてくる!」
まるで子供のような明るい顔で、果歩に言われるがまま手を洗いに向かった誠士郎。その背中を理歩はクスリと笑って見送った。
丁寧に手を洗って戻ってきた誠士郎は、理歩と向かい合うように席に座って「いただきます」と言うと、一口、オムライスを口に入れる。
「んんんっ! おいしい!」
「それは何よりです。あ、コンソメスープも作ったので、一緒にどうぞ。具は変わりないんですけどね」
マグカップに注いだコンソメスープには、オムライスと同様の具材である玉ねぎとベーコンが浮かんでいる。しっかりと煮込んでいるので、玉ねぎから出汁が出て、シンプルな味付けではあるものの、旨みがたっぷりと入っている。手軽に作れるので、余った野菜を消費するのに適したスープである。
それを口にして、ふぅと誠士郎は息を吐いた。
「あったまるなぁー……」
「ですねー」
寒くなってきた季節。温かいスープが身に染みる。
誰かと食べる二度目の食事は、悪くない。作ったご飯をおいしいと食べてくれる人がいると、作り甲斐もある。
(いいな、果歩は。こうやって、ご飯を作って一緒に食べて……私とは大違い)
実家を飛び出して一人暮らしをしていた理歩にとって、百八十度違う生活に惹かれた。でも、その生活に甘えてはならない。なぜなら自分は今、妹の果歩でいなければならない。この生活をしているのは果歩である。いつまで続くのかわからない生活は、理歩にとって父親から命じられた仕事である。そう言い聞かせて、今の生活で役割を果たすべく、固くなっていた表情筋を無理に動かして、笑顔を作った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます