第7-2話 モブの町

 基他新町きたしんまちまでは、バスで30分かかる。


「悪いな、日曜日なのに」

「いや、あ、親に用事を頼まれてたんだ…えと、コンビニ?コンビニに商品を受け取りにしてたんだけれども受取り指定場所を間違えたって…」

「そうなんだ。あ、でもやりそうだな、うちの家族も」


 みえみえの嘘に言葉を返してくれたが、それ以上に会話は盛り上がらず、次の停留所を告げるアナウンスが車内に響く。


「………」


 和技は窓外に視線を向け、心の中でため息をついた。

 粂戸くめとを一人で行かせ、後から基他新町に瞬間移動し、修復士として別行動すれば、自由に動けるどころか。未縫依の居場所も簡単に特定できたのに。


 だが、心の底から家族を心配するクラスメートを一人にできなかった。


『後で帯論さんに怒られるよな…』


 その帯論だが、呼びかけても全く反応しない。飲んだ分だけ酷くなる『二日酔い』なのは間違いないだろう。

 吐き気と頭痛が同時進行で起きる副作用付きだが『酒』という気分良くなれる液体に一部の大人は手を伸ばさずにはいられない。


『コンビニ行くって言ったし、後でトイレでAIと入れ替われば良いか』


 行動の巻き返しができると判断した所で、和技はこれから先の行動を聞く。


基他きた新町に着いたら、どこを探せば良いのか目星はついてる? 未縫依さん御用達の店とか」

「…いや、全然。

 正直、基他新町ってピンとこないんだよな。ショピングモールとかないし」


 『それもそうだろう、基他新町はクラスDしかないモブ町なんだから』と、和技は心の中で返した。


 人口が激減した2321年で2022年を設定した架空世界を作るとなると大量の偽物、ゲーム世界で言うNPCで補充しなければならない。

 ここが架空世界だと知らない『普通の人達』に疑われないように、クラスAとBの魂を持つ者たちは密集させて、クラスCとDの魂を持たないプログラム達は、交通の便が悪い町に配置している。


「店じゃなくて、友達の家があるのかな? だとしたら良いんだけれども」

「そうだね」


 粂戸の言葉に再び沈黙が現れる。

 もし他の『特別狩り』が残した言葉通リで、未縫依も例外ではなかったら…

 その言葉が二人の頭中によぎり、車内アナウンスが目的地を告げるまで口が開くことはなかった。


 連絡がつかなくなった『特別狩り』が最後に残した『さようなら』それがどういう意味なのか、不安が増すばかりである。





 街の中心部だと思われる『基他新町商店街前』で2人は降りた。


 基他新町

 和技達が住む市から川を越えた先にある小さな町で、スーパーやファーストフードがあり生活するには不便はないが、特に目立った店はなく、車を持たない者には特に来ることはない。


 降りた所はアーケードのある小さなの商店街となっているが、付近に立つスーパーの影響もあってシャッターが目立った。

 寂れてはいるが、それ以外は…いたって変わりはなく、異変は感じられない。


「さて、どうする? どうしよう」

「俺、先にコンビニに行って用事を済ませてくるよ。すぐ近くにあるから」

「ああ、うん。俺は…みぬ姉が帰ってたり、連絡してた。しないか家に電話してみる」


 何か進展があった時に連絡できるようにラインや電話番号を登録してから、別行動を始める。

 和技は、コンビニのトイレでAIと交代し、ひとまず架空世界を離れた。


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