第5-3話 特別な人

 軽やかな女性の声が離れた所から聞こえ、声の方向に視線を向けると…空を飛んでいた女性がジャングルジム上に浮いていた。


「この前に撮った人だ」


 未縫依みぬいがスマホで録画を始める中、和技とクラスメートは顔を見合わせ互いの困惑を読み取る。

 それは集まった人達もそうだった。



 それは彼女が『特別な人達』だから



 『特別な人達』の存在は誰もが知っているが、誰一人として名乗る者はいない。

 そんな中で公言し『浮遊』という特別な力を見せつけていた。

 さらに目のやり場に困る見事な曲線美を体にぴったりする革のボンテージドレスでまとい。地に触れそうなほど長い黒髪ポニーテールに整った小顔はモデルか芸能人かセレブでしか見えない。


 彼女は誰もが思い浮かべる『特別な人達』の姿をしていた。


「はぁい、皆。集まってくれてありがとうね」


 空を飛んでいた女性は、ジャングルジムの最上段にふわりと降りる。


「あたしは、ジィズマイ『特別な人達』だよ。

 みんなに平等にしようって活動している『ガリカル』の広報担当をしているんだ」

「平等?」


 誰かのオウム返しに、ジィズマイは『そう、平等』とさらにオウム返してから、説明を進めた。


「ジィズマイ達、ガリカルメンバーは思うのよ。


 『特別な人達』は不公平すぎるんじゃないかと、ね」


 誰もが心の中で思っている言葉をストレートに言った。

 ジィズマイは、その言葉に反応する人達を確認してから話を続ける。


「だからね、公平にすることにしたの。

 『普通の人達』も特別な力を持てば、不公平は消えるとね。

 だから、今からジィズマイが特別な力をプレゼントしまーす」

「え?」


 ジィズマイの言葉に理解が追いつかなかった。

 できない間に、ジィズマイは何もない所から大きなクラッカーを出現させ、一気に糸を引っ張る。


 ぱぁんとさほど大きくはない音と共に、クラッカーの中身、細長い紙と、それから色とりどりの光るビー玉のようなものが舞い上がった。

 しかしガラス玉と違い落下することはなく、シャボン玉のようにふわりとした感覚でゆっくり下降する。


「みんなー、そのガラス玉を取って取って。特別な力が手に入るから」


 ジィズマイのひと言で、集まった人達は声をあげ、ガラス玉に手を伸ばす。


「焦らなくて良いよ、ガラス玉は沢山あるし、一人一個ずつね。あ、転売はなしね。やったら特別な力を消しちゃうから」


 ジィズマイはジャングルジムの最上段に足を組んで座り、ガラス玉を手に入れようとする『普通の人達』を満足気に見下ろした。


「ガラス玉に書いてある数字を見えるように撮って、SNSに投稿してね。

 でもって、ここ重要。

 必ずGPS機能を解除して『#ガリカルは皆を平等にする団体』って打つんだよ、いーい、約束だからね。

 それを確認したら、ジィズマイ達ガリカルメンバーが特別な力をプレゼントするから」


 突然、ジィズマイから笑みが消え、立ち上がる。


「追手が来ちゃったか…随分と早いのは、ここに『特別な人達』が混じってるのかもね。

 ジィズマイは帰るよ。じゃあね、皆、拡散よろしくね」


 ジィズマイは手をふると、その場から消えた。


「……」


 集まった人達はジィズマイの姿が突然 消えた事に驚くが、すぐに『特別な力』を手に入れるため作業に専念する。

 その後、ジィズマイが言っていた追手らしき者の姿が現れることなく、公園は少し可笑しな賑わいを続けた。


「棚島、取れたか? さっそく投稿してみようぜ」

「あぁ…」


 和技も落ちていたガラス玉を拾い、ジィズマイの言うとおりにスマホを操作した。


 修復士として





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