第85話 勇者一行、前途多難

「……すげぇ……」

「綺麗ですね……」

「ほっほ。いやはや、懐かしいですなぁ」



 呆然とするアルカとサキュア。

 ガーノスは昔見たことがあるのか、朗らかな笑みを浮かべている。

 宙に浮かんでいたレミィが、ゆっくりと地面に降り立つ。



「それが、師匠の天使の力っすか」

「ああ。私が使える異能だ」



 背中の翼は自由に使えるのか、僅かにぴょこぴょこ動く。

 何故だかわからないが、ちょっとほっこりした。

 サキュアが恐る恐る翼に触れる。

 確かに感触がある。でも鳥の翼より柔らかく、密度も高い。衝動的に抱き着きたくなるほど。

 ずっと触っているサキュアに、レミィはむず痒そうな顔で咳払いをした。



「サキュア、いつまで触ってるつもりだ」

「ぁっ。ご、ごめんなさい。触り心地がよくて、つい……」

「まあ、別にいいが」

「じゃあもう少し」

「遠慮をしろ」

「あぐっ!?」



 レミィのデコピンで僅かに吹き飛んだ。

 魔法で減速し、僅かに流れた血を回復魔法で止血する。



「いたた……もう、加減してください」

「わ、悪い。天使形態だと身体能力も跳ね上がるんだ。久々にこの形態になったから、中々制御がな……」



 軽く腕を振るう。

 それだけで荒野の一部が吹き飛んだ。とんでもないパワーだ。翼もあるから、空中戦も出来るだろう。



「師匠。その状態なら父さんに勝てるっすか?」

「無理だな。アニキも七割の力で相手してくれるが、本気は引き出せない」

「マジすか」

「マジだ」



 七割も引き出せる時点で凄いのだが、クロアの本気はそれでも無理らしい。

 自分の父親ながら、想像を絶する強さだ。

 ──因みに、アルバート王国第一王子のコルトも七割まで引き出せる。ということは、素のコルトと天使形態のレミィが同じだけの力を持つということだ。

 そのことを知るものはここにいないが、コルトの化け物ぶりがよくわかる。



「天使の力って、どんなことが出来るっすか?」

「ふむ……これを使うと、魔法は一切発動出来ない。だが魔法に近い力……神力を使える。だがそれも限定的なものだ。私の場合、三つしか使えない」

「え、それ却って弱くなるような……?」

「と、思うだろ? だが神力は、それを失って余りある強さを持つ。身体能力も跳ね上がるから、そっちの方がいい時もあるんだ」



 神の御業とまで言われる万能の魔法を失ってもなお、天使形態の強さはそれを凌駕する。

 一体どんな力なのだろうか。



「今見せてもらうことは……」

「無理だな。まあ、魔王軍と戦う時になったら、嫌でも見せてやるさ」



 天使形態から通常形態に戻ったレミィ。

 こんな異能を使っても、疲れた様子はない。完全にコントロールしている。

 これが今のアルカの目指すべき先。

 興奮したように、アルカは前のめりになった。



「ど、どうやってコントロール出来たんですか? 教えてください!」

「言ったろ。気合いだ」

「……いや、もっと具体的な……」

「? これ以上ないくらい具体的だろ?」

「…………」



 全ッッッ然具体的じゃない。抽象の権化みたいなアドバイスだった。

 流石に可哀想に思ったのか、サキュアが話に割って入る。



「すみません、師匠。もっとこう……どう力を抑えるとか、そういうアドバイスを掛けてあげてください」

「つってもなぁ。こう……ハァー! ってやって、グッ! って感じだ」

「…………」



 要領を得ないアドバイスに、サキュアも唖然とした。

 それもそうだ。レミィは師匠なんてやったことがない。師匠初心者と言ってもいい。

 特に異能に関しては独学で、完全に感覚派だった。

 前途多難。

 アルカとサキュアは、図らずも同じことを考えたのだった。

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