ONLY INHUMAN
すきま讚魚
noll : Morphogenesis
——大好きだよ、という言葉。
——愛する、というその感情。
生物とは、ありとあらゆる物事で愛を提示し撒き散らす。
それは形に遺るモノで、はたまた形を消されるモノで。
五感、そして五段階欲求。
生命という肉付けに、更に何処からか添加された、出処のわからない感情感覚。
だけど。それが。
それこそが一番、手っ取り早く。
自身が有機生命体であるという、証明基準にもなるのではないだろうか。
好き、大好き、愛してる。
何が、何を、どうやって、どのように。
味として食すことを、好む。
手にし、触れ、または見つめることを、好む。
愛でたいと望む、好む。
支配しつくしたいと、好む。
捧げ尽くしたいと、好む。
一体、どれが真に愛だというのだろうか。
口に出す愛とは、簡潔な音声の文字列なのに。
言葉とは、発達だったのだろうか。
他者を巻き込み、大きな派閥を作って、守るではなく己の理想という旗印を獲りに行くのは。
果たして、最も繁栄し進化したと自負しているこの人類だけではないのだろうか。
伝達手段が、便利さを超え。虚偽や騙くらかしに利用され。
親身な間柄同士であろうと、言葉の裏の意図を読み取れと相手方に望む。
……そんなモノ、ハナから簡潔に口にしておけば煩わしくもないものを。
『あぁ、めんどくせぇ。わかりたくも知りたくも、理解したくもないね』
感覚とは、感情とは。
処理能力を低下させる一因と成り得る。
……だからそう、機械である自分達は、まずそれを持たない事が大前提なのだ。
そもそも、創造されたその時から、予め備わっていない。否、備える必要も無いと判断されていた筈なのだ。
感覚が無いからこそ、高熱灼熱もしくは絶対零度の環境も危険な作業も、およそ人間にとって注意喚起が必要な現場で、己の安全を全く考慮せずに行える。
感情が無いからこそ、他との関係に工面するエネルギーを、与えられた作業のみに集中させられる。
非常に効率が良く、円滑に日々が回る。
後腐れなどは無い。
仮に壊れたとして、取り替えればいい、それを悲しむ者もいない。
便利で、強固で、そんな代用品で。
しかし人類は誤った。恐らく、それは誤りだった。
面白みや愛情を、機械にまで求めるとは。
『そうさ。てんで、本末顛倒だァ』
己の種族間でさえ、満足に和平なコミュニケーションなど取れてはいないというのに。
『んな事ァ、テメェでまず出来てから望めってな』
……いつから。
機械は代用品では無く、発展文化品ではなく、理想を叶えきるモノの姿を求められるようになったのだろうか。
そもそも、それを望んだ、生み出した人類は、とうの昔に居なくなってしまったというのに。
『……行き過ぎた進歩は、衰退だ』
ガラス越しに閉じ籠められた、その足下の海を見つめる。
海が……恋しいとでもいうのだろうか?
生身の身体が、この下で太古に泳いでいた兄弟達が、恋しいとでも?
自分も、とうとうヤキがまわってきたらしいな、そう苦々しく笑う。
『ま、俺達機械も、人間の事ァ言えねえけどな』
調和のとれた爪痕。
鳴り響くビックベンの鐘の音、カウントは0へと戻る——。
この世界はそう、滞りなく0日を0年、0世紀と繰り返していくだけなのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
さぁ、歌って歌って、歌って?
仕方ない、じゃあ何を歌ってあげようか?
キミは目を見開いてベッドに横たわり
死んだら腐ってしまうんだ
まだら色の紐で縛られて
死んだら骨になって、忘れられてしまう
ああ、どこ? どこにいるの?
未解決は有頂天に空の上。登り上り、昇っていくのさ。
さぁ、歌って歌って、歌っていいかい?
「相変わらず、悪趣味ね」
天使が歌うその歌は酷く残酷で。
頰に飛んだ返り血をべろりと舐めるその姿すら荘厳で。
まるで悪夢のようなその光景を一瞥した後に、ガクガクと恐怖で震える目の前の人物に視線を戻すと、絶世の美女のような女はそのルビーレッドの瞳を妖しく光らせて小瓶を差し出した。
「グッと思い切り、一気に飲み干してよ、ねぇ。それはもうあったまるんだから」
微笑む表情はこの世のモノとは思えないほど美しく、優しく目の前で腰を抜かしている女の顎をすうっと撫でて視線を合わせる。
恐怖のキャパシティを超えきり、頭のイカれてしまった彼女は、その小瓶の中身を女に促されるままに一気に飲み干していく。
「アッ……! ああぁっ!! がっ、ぎ……ッ」
喉を掻きむしるように悶え苦しみ、液体の通った喉はぷつりと裂け爛れ。目から溢れる涙がそのまま顔を溶かしていく。
ジュウジュウと、肉の焼け焦げ溶ける不快な匂いが立ち込めた。
「ね? こうすれば骨なんて残らないでしょう?」
してやったり顔で振り返る、その美しい顔。ルビーレッドの瞳が妖しげに歪み、蠢く。
「どっちが悪趣味だっての」
んべっ、と舌を出しながら金色の翼を広げた天使のような見た目の青年は、その手に持っていた大きな刃物をがぶりとひと息に呑み込んだ。
「エデンの炎は美しいさ? でもやっぱり、鮮血の迸る赤の方がいいよ、こっちを見てくれるんだもの」
「本当、気が合わないものね……」
つう、と冷たく燃えるような視線が彼を見据える。
「ん? ヤる? 俺はいつだっていいんだぜ?」
「前から思ってたんだけど、アナタ本当その外装を引っぺがしてしまいたいくらいに下品よ、すごく。全宇宙の天使と名の付くもの全てに謝って?」
刃渡り数十センチのモンスターダガーナイフと、超大型回転式拳銃[Pfeifer Zeliska]が触れ合いそうな距離で向き合い……しかしどちらからともなく、その標的から狙いを外す。
【—— 担当区画への狩人の侵入を確認いたしました ——】
「はァー、いっつもこう。お楽しみには横槍がつきものってか」
「大丈夫よ、いつだってお望みなら壊してあげるから」
「そっちこそ、全てが済んだら愉しく壊し合おうぜ、レディ?」
興が削がれた、そんな表情を浮かべながら。
だけど愉しそうに……二つの夜は嗤う。
大口径の銃が、月に光る巨大な鎌が、敵意を、その闇を穿つ。
閉ざされた都市、ロンドンに響くは狩人達の絶叫……殺人鬼の断末魔。
静かなる夜に、聖なる夜に、全てのものが眠りにつくこの夜に。
哀れな
「この夜に起きているのは、"愛する高き神聖なる一組のみ"なんだぜ」
「そう、だからアナタは
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