01-10-09 趙九 藺相如

 藺相如りんしょうじょについて。恵文王けいぶんおうしん昭襄王しょうじょうおうよりの圧迫を受けたとき、和氏わしの壁を持って秦に赴いた。壁を献上すると、やはり昭襄王に城を割譲する意思は見受けられない。そこですぐさま奪還、怒気で髪を逆立てながら「我が頭、壁とともに砕いてみせよう」と一喝した。それから従者に璧玉を持って帰還させ、自らは昭襄王を欺いたとして、あえて堂々と王の前に出る。「何と言う賢者か」と、昭襄王もついに璧玉を諦め、藺相如を帰還させた。これが、いわゆる「完璧かんぺき」の語源である。


 その後会談の場にて恵文王を侮辱する昭襄王を同じ土俵まで引きずり下ろさせたのは、先に述べた通り。いわば「外交としての防壁」の働きを示した藺相如が廉頗れんぱ以上の地位に引き立てられるのはある意味当然のことであったが、実際に血を流して国境を守ってきた廉頗としては気に食わない。

「賤しい男が口先だけで上りつめるのか! やつの下でおるなぞ恥ずかしくてならん!」

 この発言を知った藺相如は廉頗を避けるようにした。従者が何故そのようなことを、と問うと、藺相如が答える。

「我らはこの趙を守る二頭の虎。それが相争ってどうなる? 秦を利するだけではないか」

 廉頗はこの発言を知るとすぐさま藺相如のもとに赴き、上半身をむき出しとして謝罪し、茨の鞭を藺相如に差し出した。それ以降、藺相如と廉頗は「刎頸の交わり」を結んだ。



蒙求もうぎゅう

廉頗負荆れんはふけい 須賈擢髮しゅかてきはつ

 藺相如への対抗心に目がくらみ、藺相如が見ていたもの(秦よりの防衛)を見失っていたことを恥じた廉頗は茨の鞭であがなおうとした。

 対する須賈は魏の論客。ライバルの范雎はんしょを嫉妬心から讒言、貶めた。そんな范雎がのちに秦の宰相にまで上りつめる。そうとも知らず、魏の外交官として秦に向かった須賈。范雎ははじめみすぼらしいなりで須賈の前に現れた。その境遇を憐れんだ須賈は衣類などを恵むのだが、ややあって范雎、現在の立場を明かす。驚いた須賈、すぐさま上半身裸となり土下座、「どんな罰も受ける、俺の髪を根こそぎ引っこ抜いても構わん」とまで言う。それを聞き范雎は過日の恨みを濯いだ。

 これは「秦にからむ士大夫の謝罪行動」で結ぶくらいしかできないような気がするなあ。許したほうの度量、で結ぶにはやや弱い気もするし。

 

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