01-03-04 周 伯夷・叔斉

 殷の王族に連なる公子に「伯夷はくい」「叔斉しゅくせい」という兄弟がいた。彼らはいんからしゅうに帰属していた。ただし、その心はあくまで殷を奉じていた。

 武王ぶおう文王ぶんおうの位牌を掲げて(この遠征があくまで文王主導である、と表明していた)討伐軍を立ち上げると、武王の馬に取りすがり、二人は言う。

「父の喪が明けてもおらぬのに軍を立ち上げるのが、果たして孝行者と言えますか! しかもそれで倒す相手が主君だと言うのであれば、そこに仁義はございますか!」

 周囲の人間は排除を求めたが、太公望たいこうぼうが「彼らは義士である」と、武王から引き剥がすことだけを命じた。


 殷が滅ぼされると、二人は武王を止められなかったことを恥じ、これ以上周の俸禄ほうろくを受けることはできないと首陽山しゅようざんに隠遁。歌を詠む。


 登彼西山兮とうかせいざんけい 采其薇矣さいきびいー

 以暴易暴兮いぼういぼうけい 不知其非矣ふちきひいー

 神農虞夏じんのうぐか 忽焉沒兮こつえんぼつけい

 我安適歸矣があんてききいー 于嗟徂兮うーさそけい

 命之衰矣めいしすいいー

  この山中でゼンマイを積み、

  細々と生きるのだ。

  暴でもって暴を倒すこと、

  どうしておかしいと思えぬのか。

  神農じんのうぎょうにあった徳は何処いずこ

  我が心の帰すべき先は何処。

  ああ、どこへとゆけば良いのか。

  天命は、かくも衰えた。


 そして、二人ともに餓死した。

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