暗転
とくに大人の半グレ集団のシノギは暴力団と競合する部分が多い。オレオレ詐欺はまだしもスカウトはとくにな。あっちに言わせると縄張り荒らしに見られるぐらいだ。だから場合によってはヤーさん相手に戦争することもあった。
まともに戦えば暴力団に分がありそうなものだが、例の取締法のために、抗争事件を起こした時に向こう傷が大きいのが暴力団ってのも時代だ。すぐにサツが介入してくるのが暴力団だ。だからあっちも簡単には手を上げられないところがある。
オレの半グレ集団も暴力団の連中と、時に戦い、時に手を結び、時に手打ちを行ったりしながら距離感を保っていた。これはオレも神経を使ったぜ。あいつらがいなけりゃ、シノギはもっとラクなんだが、いるものはしようがない。
とにかくメンドクサイ連中だが、こっちから潰すには手強すぎるし、これも考えようだが、あいつらがいるから、サツもこっちばかりを見てられないのもあるのはある。なかなか共存共栄とならないのが暴力団だ。
オレの夜露死苦は、怒羅美を潰した後も勢力を広げていた。あの頃は向かうところ敵なしって感じで他の半グレ集団を潰しては大きくなってたぜ。だが大きくなればなるほど暴力団との摩擦は増えて行った。ボスとしては頭の痛い問題だった。
そんな時に暴力団から協定の話し合いをしたいと申し入れがあった。だが出された条件に怒り狂いそうになった。協定と言いながら、暴力団の系列傘下に入り、上納金を納めろだったんだ。上納金の額も、そんなに払わされたら、こっちが干上がるしかないじゃないか。
交渉は決裂したよ。あんなふざけた条件が受け入れられるものか。そうなると報復を覚悟しないとならないが、あいつらだってサツの目がある。少々はやられるだろうが、高を括っていたんだ。
だが甘かったのを思い知らされた。これも後から思えばの話だが、あいつらも警察の取り締まりがきついからビジネスを広げたかったで良さそうだ。そう、半グレ集団がやっているテリトリーも資金源化したかったぐらいだ。
オレの夜露死苦は半グレ集団でも大手だ。その勢力とノウハウを根こそぎ欲しかったんだろう。そうだな、命まで取らねえ代わりに、今まで見たいな稼ぎは許さねえぐらいだ。それで満足しろだろう。
さすがは本職だと思ったな。本職がガチでやる時はあそこまでやるんだってな。夜露死苦のアジトは気づかないうちに包囲され、いきなり勝ちこんで来やがった。それもハジキを乱射しながらだった。
ハジキと言っても拳銃だけじゃねえんだよ。マシンガンみたいなものもぶっ放すんだよ。アジトはたちまち血の海になった。そこまであいつらが出来たのは、オレたちのアジトが町の外れの一軒家で周囲になんにもないところだったからだ。
オレは必死で逃げた。いくら喧嘩に自信があっても鉛弾には勝てねえからな。命からがら逃げられたが、これで夜露死苦は木っ端微塵になったったわけだ。あの調子じゃ、アジトから逃げ出せなかった仲間は全滅だろう。捕まった奴もいるかもしれんが、山に埋められるか、海に沈んで終わりだ。
それから生き残った奴と連絡を取り合って落ち合ったが七人集まった。とりあえず、この町にいたら命が危ないのはすぐに結論が出た。逃げるしかない。どこに逃げるかで迷ったが関西に逃げる事にした。ちょっとでも遠くにしたいのと大きな町じゃなけりゃシノギが出来ないからな。
なんとか大阪にはたどり着き、ドヤ街に入り込んでまずは情報集めだ。シノギをするにも地元の半グレ集団がどうなってるかだとか、暴力団もどうだかも知らずに動くのは危険だ。だがすぐに困るようになった。
アジトを逃げ出す時は命からがらだったし、あそこに置いていた活動資金を持ち出す余裕はなかった。手持ちの現金はあったが、稼がなければ減っていく。このままじゃ、ドヤ街にもいられなくなりホームレス一直線だ。
切羽詰まったオレたちはどうするかの相談になったが、大人になっても半グレやってる連中は、どこか頭がおかしい連中が多いし、ヤクやっているのもいる。そういう頭のネジが何本も抜けたような連中が出した解決策が、
「カネなら銀行にある」
正気じゃ誰も賛成しない計画にオレも乗ってしまったぐらいだ。それぐらい追い詰められてたし、切羽詰まっていたって事だ。そこから具体策を考え出したが、銀行を襲うのなら武器がいるのは当然だ。それで脅してカネを出させるのだからな。
この武器をどうするかも暴走したな。簡単に手に入る物なら包丁とか、ナイフがある。だがこの時はハジキがどうしても必要だって話になっちまった。この辺はアジトをハジキで襲撃された記憶も生々しいし、これから暴力団ともめる可能性があるから絶対必要になるぐらいだ。まあ、オレも賛成したんだが。
だがハジキを手に入れるのは容易じゃない。コンビニやスーパーで売っているものじゃないからな。この手の入手ルートがあるのはやはり暴力団だ。半グレのましてや流れ者状態のオレたちにはないし、そもそもハジキを買うカネなんてない。
「マッポを襲うのはどうだろ」
マッポなら拳銃を持っているが、一人襲っても一丁しか手に入らない。さらにマッポは弱くないし、マッポを一人襲えばサツを挙げて追いかけられる。そんなことになれば。銀行を襲うなんて無理になる。
「ハジキなら店でも売ってるぞ」
銃砲店はある。あそこにいけば猟銃はあるが、ああいう店の警備は固いに決まってる。オレも銃砲店を襲ってハジキを手に入れた話なんか聞いたこともないぐらいだ。襲っても、そこで捕まって終わりになる危険性が高すぎる気がした。
そりゃ、リスクを言い出したらキリがないし、そもそも銀行を襲おうとするのがリスクの塊だ。だがハジキを手に入れる段階で捕まったら話にならねえ。そしたら仲間の一人が思いついた。
「猟銃を置いてある家を知ってるぜ」
こいつは居酒屋でハンティングの自慢をやってる客と知り合ったらしい。なんと家まで聞き出していたのは褒めてやった。下見に出かけた時に別の仲間が言ったのだが、
「こういうお屋敷は防犯システムがあるはずだ」
頭のおかしい連中は、妙に細かいことに気が付く時と、無謀で大雑把な面が極端に出過ぎるところがある。そいつは警備会社に勤めていた時期があり、
「あれだ。あれなら外から解除できるはずだ」
その夜に決行した。警備システムを仲間が切ったら窓を割って侵入した。家には夫婦と娘二人がいたが縛り上げ、
「銃はどこだ」
素直に話そうとしないから娘の首にナイフを当てたら観念したのか教えたよ。銃庫に行くと猟銃が五丁あり、弾も手に入れた。使い方は仲間にモデルガン・マニアがいたから、だいたいわかったな。
銃庫で猟銃の確認をしたら、四人を縛り上げた部屋から悲鳴が聞こえた。それも女の悲鳴だ。駆けつけると、やっぱりな、やってやがった。アジトを襲撃されてから女とは無縁だったから、そりゃやるだろう。
オレも参加した。しないわけがないだろうが。両親の前で七人で思う存分やってやった。久しぶりだから三発ぶちこんでやったぜ。やっと落ち着いた時に仲間が、
「試し撃ちをしておこうぜ」
良い案だと思ったぜ。こんなものは実際に使っておかないと上手くならねえよ。ちょうど標的もいるじゃないか。四人とも撃ち殺してやった。生かしておいてもウルサイだけだ。これでハジキの準備も十分だ。
「腹減ったな」
冷蔵庫から適当に引っ張り出して食った。良いもの食ってるぜ。死んだら食えねえだろうから代わりに食べてやるぜ。感謝しろよ。
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