第15話 飼い主失格。
ユキのキリっとした顔(そういう雰囲気)は、決意表明してやったわ的なドヤ顔している。
『我らはリティシアを守護するものであり、国を守る気はない』と、不敬な発言を放り込んできた後には、シーンとした静寂。
「それは当然の事、承知しております。」
その静寂を破ったのは、この国の最高権力者である陛下だった。
父とはまた違ったタイプの美丈夫で、まだ二十代後半らしい。
金髪金目は父と全く同じ色合いで、神々しい。
父が美しい大天使ミカエル様なら、陛下は美しく逞しいゼウス神といった所である。
『へぇ、素直な人間は好きだよ。僕はリティシアの守護を直接女神から任された聖獣“白虎”。名はスノウ。』
スノウはユキと違って友好的な態度だ。尻尾をゆらゆらさせながら陛下の傍へと歩いて行った。
実はリティシアにはスノウの背しか見えなかった為、見る事の無かった正面のスノウ。
ゆらゆらと尻尾を揺らしながら近づいたスノウの瞳が、完全に肉食獣の野生を宿しギラギラさせながら、王の真意を量らんと距離を詰めていた。
王はその瞳を探るなら探れと直視して、
「大変ステキな名ですね。スノウ様とお呼びしても宜しいですか?」
一国の王とて聖獣の前ではただの人。
高貴なる血であるとか、人が作ったという身分制度など関係ない。
賢い王はそれを十分に理解していた。
ゴクリと室内に膨らんだ緊張感を呑みこむ。
公爵も公爵夫人も、たった一名だけこの場に居る事を許された警護の為だろう騎士団長も(聖獣と戦って相打ちですら無理だろうが)、静かに見守った。
静かに見守れないのはリティシアである。
落ち着きなく視線が叔父である王と聖獣たちを行ったりきたりしている。
(言い訊かせて王城へ来たつもりだけど、ユキは失礼な事を言うし―――
スノウはギリギリ友好的だけどやけに上から目線だし…っ!
全然飼い主とのお約束を守ってないわ…どうしよう。)
父と母が見守っているのに自分がオロオロするのは良くないと分かっているが、
自分のペットの不敬である、飼い主に責任があると信じているリティシアはハラハラしてそれどころではないのだ。
国王陛下は美丈夫で威厳に満ち溢れた姿をしているが、その物腰は柔らかく、常に穏やかな表情で、そして、口にされる言葉はどれも丁寧で優しさが伝わる。
一国の王として求められる情を排した決断力であったり、真を視通す目を持つという威圧を含めた資質を持っているが、それを纏う時のタイミングは場によって使い分けるべきものだと思っている為、身内と接する時は常に優しい目をした人なのだ。
今、この場に求められているのは、王としての資質ではなく、リティシアの叔父としての振る舞いなのだろうと、判断したのだった。
兄である王は、愛する弟の屋敷へと年に数回はお忍びとしてやって来る。
そして、リティシアを含めた四人で仲良く晩餐を囲み、その後、公爵と一緒にお酒を酌み交わし王としての様々なプレッシャーや特大のストレスを吐き出し、翌朝、ケロ理と穏やかになって「また来る」と上機嫌で帰っていくのだ。
リティシアは一緒に晩餐をとる事はあっても、会話らしい会話をしていない。
緊張が極限に達する中たどたどしく挨拶の口上を述べ、後はただひたすらに目を合わせないように俯き、食事に集中していたからだ。
七歳の誕生日の際はいつもより長い会話を初めてしたが、緊張で白目を剥きそうな程であった為、優しくして貰ったというくらいしか記憶がない。
「―――僕の名を呼ぶ事を許すよ。リティシアの叔父さん。」
スノウの中で王の態度もリティシアへの想いも合格。
名を呼ぶ事を許可したのだった。
――――が、リティシアからすれば、
(こらこらこらーっ! 何で上から目線なの!? スノウったら!)
スノウはやらかし認定で、とんでもない発言なのである。
先程の暴言を陛下はスルーして下さっているが、ユキはどうなのかと周囲を見回せば、ユキは壁際に移動して床にペタリと伏せをしており、つまらなさそうにくあっと欠伸をしているのが見えた。
聖獣達を伴って王城へ行く事で、陛下に失礼な事をしないようにとしっかりとリティシアは言い訊かせた筈だった。
ユキとスノウはあれだけしつこく言い訊かせられた筈だが、あっさりと忘却の彼方にやっているようだが。
(私、飼い主失格だわ……)
リティシアはマイペースな聖獣様たち…いやペット達を見て、今すぐ白目を剥き、膝から崩れ落ちそうな気分になったのだった。
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