異世界で最強の暗殺者になった俺は現実世界に帰ってきたのだが、さらに別世界の勇者と魔王が俺をスカウトしにきた。だがいつの間にか二人に惚れられ取り合いになりモテまくっています。

第39話 爆弾

「蒼馬、悪い奴倒すのモモの力（・・・）使う？」

「いや、そこまでの相手じゃない。俺だけの力で十分すぎるぐらいだ」

「蒼馬様どころか、私だけでもどうとでもなりそうですけどね」

　コレットは戦いができるのが嬉しいのか、ニコニコ笑顔で俺の方に手を向ける。

　何かを寄こせということであろう。

　そして俺は彼女が何を求めているのかが分かっていた。

　亜空間を開き、彼女の武器を取り出す。

「ありがとうございます、蒼馬様」

　コレットはそれを肩に担ぐと、その凄まじい重量に彼女の足元が軽く沈む。

「な、なんて大きな斧なのだ……」

　ムトーがコレットの姿を見て驚愕している。

　彼女の倍ほどある大きさの斧。

　それを軽々と浮かせるコレット。

「じゃあ行くから。覚悟して」

「なっ！？」

　テクロスとの距離を一瞬で詰めるコレット。

　奴もだがマナたちもその速度に驚き、目を点にさせている。

「ほい」

　コレットが斧を振り下ろす。

　ただそれだけのことであったが――地面が爆ぜる。

　コレットの一撃はテクロスの左腕を抉り、ひき肉にしてしまっていた。

「があああああ！」

「おい、やりすぎるなよ」

「はーい。じゃあ九割殺しぐらいでやめておきますね」

「九割は行き過ぎだ。半殺しでもやり過ぎだからな」

「じゃあ４．５割ぐらい殺しておきます」

　もう一度斧を肩に担ぐコレット。

　テクロスは恐怖に顔を歪ませ、腰を抜かせていた。

「ま、まさか……芹沢蒼馬の仲間まで強いなんて……これは聞いてませんよ（・・・・・・・）」

「あはは。何か色々隠してるみたいね……ってことで、拷問かけてでも吐かせっから覚悟しろ！」

　顔つきが邪悪なものに変化するコレット。

　その表情に一層恐怖心を加速させるテクロス。

「だ、だがまだ想定内……片腕を失ったのはいただけませんが、まだ私は負けてませんよ」

「負け惜しみはいいんだよ。これから地獄味わう準備はできたか？」

　コレットの脅しに周囲はビクッと恐怖の反応を示す。

　だがテクロスは一人、片頬を吊り上げる。

「負け惜しみじゃないんですよ。私は芹沢蒼馬に勝つ方法を――用意している！」

「――蒼馬……なんじゃこれは」

「マナ……？」

　先ほどの四天王のようにマナの胸から黒い光が漏れ始める。

　だが結界は張ったのとは違う、何か嫌な（・・）予感がした。

「あはははは！　マナ様！　あなた様の魔石！　使わせていただきますよ！」

「貴様……マナ様に何をするつもりだ！？」

　ミルヴァンたちがテクロスに詰め寄り取り囲む。

　だがテクロスは笑うばかりで彼らを気にする素振りを見せない。

「あなたたちの心臓に魔石……そして聖石が埋め込まれている意味はごぞんじないでしょう？」

「ど、どういうことじゃ……意味とはなんのことじゃ！？」

「魔石と聖石……それはあなたたちに力を与えていたのは間違いないですが、それ以上の意味がある！」

　テクロスは笑いながら続ける。

「それはあなたたちを操作しやすくするため、そして私たち管理する者たちが力を行使するための道具なのです！」

　力を行使するため……

　なるほど、さっき結界を張った時にメグたちの魔石を使ったというわけか。

　そして今度はマナの魔石を使って何をするつもりだ？

「さらにもう一つ！　魔石と聖石には使い道がある！」

「もう一つの使い道？」

「ええそれは……大規模の爆発を起こす、爆弾のような扱いもできるのです！　特にマナ様の魔石は特別製！　彼女の魔石なら、この山ぐらいは軽く吹き飛ばしてしまうでしょう！」

「な……なんじゃと？」

　愕然とするマナ。

　そして四天王たち。

「あはははは！　すでに爆弾は起動した！　後は爆発するのを待つのみです！　さあ芹沢蒼馬！　選びなさい！　今すぐ一人だけ逃げるか、あるいは情けをかけて一緒に死ぬか！」

「…………」

　マナを見捨ててコレットたちと逃げるか。

　あるいはマナの元に残って一緒に死ぬか……か。

「ふふふ……でも私は知っていますよ。あなたは仲間を見捨てて逃げるようなことはしない性格だと。なんて優しくていい人だ。その優しさが滑稽で涙が出てきますよ！」

　テクロスは立ち上がり、大笑いする。

　そして胸から取り出した何かを口に含みまた笑う。

「私はここで死にます。所詮私は駒でしかありませんから。でも、あなたたちと同じ死に方は御免だ。一人名誉ある死に方を選ばせていただきます」

　テクロスの口から血が噴き出す。

「……毒を飲んだのか？」

　最後にテクロスは穏やかな笑みをこぼし、そして崩れるように倒れ死んでしまった。

「蒼馬……蒼馬ぁ」

　マナが何かを訴えかけるように、涙を浮かべながらこちらを見る。

「頼む……こやつらを助けてやってくれ。余はどうなってもいい。だからこやつらだけは……」

「マナ様！？」

　マナの言葉にミルヴァンたちが驚きの声を上げる。

　きっと彼らはマナを見捨てるつもりはないのだろう。

　そしてそれは俺も同じこと。

　コレットたちとだけ逃げるなんて真似、するわけないだろ。

　だから俺ははっきりとマナに言う。

「悪いけど、マナの頼みは聞けないな。俺はお前も含めて助けてみせる」