第26話 またテメェか……って言いてぇが、こっちから出向いてやるよ

『こちらドミニア。警戒を維持しつつ、各機は交代で補給してください』

『こちらヴァーチア。各機、順次補給を』


 アドレーアとアドライアの声に合わせ、俺たち王立駆逐艦隊組は補給に移る。

 それを受けて、正規軍もまた補給を始めた。


『ゼル君!』


 と、シルフィアから通信が繋がる。


「何だ?」

『さっきのビーム砲、すごかったね! あれ、ゼル君の機体から?』

「ああ。しっかしよぉ、今のヴェルリート・グレーセアはどうなってんだ……?」

『私の桜玖良さくらのカメラ映像、送るね!』


 一瞬のち、映像が転送される。……って。


「な、なんじゃこりゃあ!?」


 ヴェルリート・グレーセアの見た目……変わりすぎてんぞオイ!?


『どうしたの?』

「どうしたもこうしたもねぇよ! 出撃前は漆黒だったってのに、今じゃ血管みてぇに光るラインが出てやがる!」


 血管と違って見た目のグロさは全然ねぇが、それでも明らかに変わりすぎてやがる。

 何だよコレ! 夜に出したら目立つぞ! 人間に対して、だけど!


 あーでも、よく見たらけっこうイカすな、今のヴェルリート・グレーセア。見た目的にゃあけっこう好きだぜ。隠密行動に不向きすぎだけど。


「つーか、お前は補給行かなくていいのかよ? 弾薬使ったろ?」

『後回しかな。弾薬はともかく、機体の調子はまだ良好だから』


 さっすがシルフィア。損害を最小限に抑えてやがる。


『ゼルシオス様』


 と、ライラの紅那内くないが近くに来た。


「ライラか。どうした?」

『補給へ向かってください。既に私は済ませておりますので』

「そうか。あいよ」


 順番を伝えに来たのか。

 とりあえず、補給に向かっとくぜ。


「こちらヴェルリート・グレーセア、着艦許可を求む」

『ヴェルリート・グレーセア、着艦を許可します』

「あいよ」


 許可が出たと同時に、俺はドミニアに着艦する。

 指定の場所まで機体を向かわせてから、俺は重素臓ゲー・オーガンを機能させる。腕輪が水色に光ったのを確かめてから、コクピットから降りた。


 ふわふわ落ちる感覚ってのは、前世じゃ味わえねぇもんだぜ。

 しかも今は、ドミニアも飛んでるんだもんな。


 さて、どうすっか。ちょいと戦いすぎてメシが食いてぇ。

 あんま重くても受け付けねぇが……。


 と、駆けてくる気配がする。

 少し待ってみると、アドレーアがやって来た。


「ゼルシオス様、お疲れ様でした」

「あいよ。とりあえず、なんか食べるもんあるか?」

「そうおっしゃると思いまして、準備しておりましたわ。こちらをどうぞ」


 パックにストローが付いた代物。

 これ、前世で見た宇宙食じゃねぇか? 中身はペーストっぽいし。


 とはいえ、訓練で食べたことがあるのでそんなにビビるもんでもねぇ。

 つーか、出してもらったもんを無下に断るって何様だよオイ。俺でもそこまではしねぇぞ。


「頂くぜ……んっ、美味いなこれ!」


 食べ慣れた味でありながら、旨みが増すように調理されてやがる。食べた感じ、栄養価も悪そうじゃねぇ。これならいくらでもいけるぜ! 戦闘中なので食べ過ぎ禁物、だがな。


「お気に召していただけたようで、何よりですわ」

「モグモグ……んぐ。こんなペーストでもエネルギー多めなんだから、よく分かんねぇなこれ」


 宇宙食レベルの戦闘食を出せるとなれば、半端な文化じゃねぇ。

 つーか、アドシアなんつー人型機動兵器がある時点で、下手すりゃ地球以上の文化だぜこりゃ。


 俺は残りのペーストを飲むように食べると、フタを閉めたパックを右手で放り投げてはキャッチする。


「ゴミはこちらで」

「あいよ。しっかしよぉ、アドレーア」

「何でしょうか?」

「仮にも王女なのに、メイドみてぇなことしてっけど……いいのか?」

「いいのです。第4王女や第4王子以下は、自力で何かをすることを叩き込まれるので」


 うへぇ……。ヴェルセア王国の王族に対する教育方針、知ってはいるがなかなか厳しいこって。


「ところで、この後はどうしますか? 何もなければ、撤退を決めてから私を抱いてくださっても構わないのですが」

「うーん……」


 悪かねぇが、横やりが入りそうな気がする。

 と、アドレーアが血相を変えて耳元の無線機に触れた。


「はい。はい……何ですって?」

「あぁん?」

「出現頻度『伝説』……赫竜エクスフランメ・ドラッヒェが接近しているのを捉えました。よりにもよって、この状況で……!」


 補給中の現状では、出ている戦力に限りがある。

 が、赫竜エクスフランメ・ドラッヒェか。たぶん、さっきの個体だろう。


「首の根本に新しい傷はあるか?」

「首の根本、ですか? ……ある、そうですが」

「じゃあさっきのヤツだな。待ってろ、俺が話つけてくる」

「ゼルシオス様、危険です! 相手は空獣ルフトティーアですわ!」


 アドレーアが止めてくる。

 ま、何も知らなきゃ、当然だわな。


「いいから待ってろ。俺が話をつける」

「しかし、ヴェルリート・グレーセアは補給に……」

「生身で行くぜ」


 マジで生身で空飛べっからな、こっちの世界。


「それはあまりにも危険ですわ! ヴェルリート・グレーセアが使えない以上、せめてリヒティアを……」

「いらん。戦いにゃあならねぇよ。それに、アテはあるんだ」


 正直、「またテメェか、赫竜エクスフランメ・ドラッヒェ」と文句の一つでも言いてぇが。

 さっきの様子、あと今の勘からすると、ホントに赫竜エクスフランメ・ドラッヒェに戦うつもりは無さそうだぜ。


「ごっそさん。美味かったぜ。ああ、全部隊に攻撃禁止の厳命、よろしく頼む」


 俺はそれだけ言うと、重素臓ゲー・オーガンの機能をさらに強めてから、ハッチ開口部から外へ出た。

 艦を蹴りアドシアを蹴り、次々と渡って――最終的には、桜玖良さくらの肩アーマーに乗っかる。


「よう、シルフィア。俺だ。今、左肩にいるぜ」

『左肩!?』


 グゥンと音を立てて桜玖良さくらの首が曲がると、俺を視界に収める。


『ほ、ほんとにいた……。心臓に悪いよ、ゼル君』

「ちょっと用事があんだよ。乗せてってもらおうと思ってな」

『予備のアドシア、あるんじゃないの?』

「ぶっちゃけ、リヒティアだと使いづらくてな。あと気まぐれ」

『あははは、ゼル君らしいね。それじゃ、どこに行けばいいか案内して?』

「あいよ」


 俺はシルフィアに進む方向を示しながら、向かってくる赫竜エクスフランメ・ドラッヒェと合流する算段を立てた。

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