第五話
「今日俺が婚約を知ったのにもう破棄なんですか?一体何したんですか?!しかも予定って言いましたか?なんでもう捨てられるのがわかってるんですか?!」
「私は何もしてないわよ。宰相に泣きつかれて仕方なくってとこね。」
「泣きつかれて婚約破棄するんですか?おかしいでしょ?!」
事情はこうだ。
アデルナと王太子ルートヴィヒとの出会いは王立魔導学校。アデルナ十二歳、ルートヴィヒは十六歳だった。
同じ教授に教えを乞うた仲、二人はいわゆる兄弟弟子だった。性格も価値観も一緒、魔術レベルも高いとくれば仲良くもなる。ルートヴィヒ自身、王族でありながら気さくな性格だった。ルートヴィヒをルイスと呼ぶ程にアデルナは兄弟子と親しくなった。
色々家庭の愚痴を言っていたところで、婚約しろと家からうるさいという話になった。
とりあえず婚約者がいればせっつかれないないのではないか?お互いの利害が一致し二人の間で偽装婚約が結ばれた。期限は本気の相手ができるまで。
そうして五年が経ち、ルートヴィヒから婚約破棄してほしい旨連絡あった。王太子の相手はアデルナの同級生で子爵令嬢のクリスタ。アデルナにとても懐いていてアデルナの取り巻きの一人だ。
クリスタを妻に迎えたい。ルートヴィヒにそう伝えられ、ならば両者円満で婚約破棄しようとアデルナがニつ返事で応じたところ、宰相から制止が入った。
「えーと、仮にも王族が?偽装婚約みたいなことをするなんて外聞が悪い?って今さら言い出してね。破棄ならそれっぽく破棄をしなさい、と。」
「つまり?」
「泥沼を演じろと。」
「はあ?!」
宰相としてはハイスペック公爵令嬢のアデルナに王太子妃になって欲しかったのだろう。あわよくばこのまま流させて婚姻まで持ち込んでしまえと企てていたところに婚約破棄の展開になった。
慌てた宰相はなんとか押し留めようと妨害の一手を打った。妨害のつもりだったが、宰相は二人の性格をきちんと理解していなかった。
「シナリオは私が書いたわ。場所はルイスが設定したの。婚約破棄なら華々しく夜会がいいということで。ルイスが相手だと色々楽でいいわ。」
「夜会?!人前で?!」
「誰もいないところで泥沼やってどうするのよ。」
もう二人ともめちゃくちゃやる気じゃないか!何余計なこと言ってんだ宰相閣下は!!
ここでイザークははたと気がつく。
「え?だから今日?今日の夜会で婚約破棄されると?」
「その予定よ。宰相が王太子の経歴に汚点を残してくれるなってまた泣きついてきたから私が悪役令嬢ね。」
アデルナは扇を手に目を細めて妖艶に微笑んで見せる。
おいおい、本気でやる気だよ!!
だから今日は衣装に気合入っていたのか!珍しく赤いドレスだとは思ったが、悪役なら毒々しいぞ!
「悪役って!姫の経歴がダメでしょ?!」
「私はいいのよ。そんなことどうでもいいわ。婚約者の私が外に男を作って、それに傷心したルイスがクリスタに癒されるって筋ね。」
フフンと楽しそうに笑みまでこぼす。
うわぁ、これはダメだ。もう止まらない。どうすんだこれ?!イザークは右手で顔を覆い目を閉じる。
アデルナが手に持っていた本をずいと差し出した。「悪役令嬢の婚約破棄」とタイトルまで書かれている。ほんと楽しそうだな!
「あんたのセリフもあるから今から覚えておきなさい。少ないからすぐ覚えられるでしょ?」
「は?!」
「まだわからない?あんたが浮気男役よ?」
イザークは絶句した。今までこの姫には驚かされたが、多分従者をしてきた今までで一番の衝撃だ。まじまじとアデルナの顔を見た。
「はぁぁ?!俺が?!聞いてません!!」
「言ってないわよ。言ったら逃げてたでしょ?」
当然だ!全力で逃げるに決まってる!そもそも色々無理がある!
「俺は姫の従者ですよ?そんなの誰も信じないでしょう?!」
「どうかしら?二月くらいあんたといるところを見せびらかしといたから、ちょっと噂になってたわよ?学園の行き帰りの馬車も二人きりにしたし。」
「そんな前から?!謀りましたね?!」
なんてこった!!確かに腕を取られてやたらと連れ回されていた。馬車もそうだったのか。あれはそういう意図だったと?!
「今日の衣装もそのために揃えたのよ?お互いの瞳の色の刺繍を入れたの。これは侍女達のアイデアね。」
「今日は本当にいい感じに仕上がってるわ。頑張りなさい。特別手当はつけてあげるわよ。」
アデルナが
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