おっさん男の娘(ニート)が結婚するまでの話

村雨吾妻

母、再婚す。息子、家を出る。

プロローグ


 わたしの名前は、如月さくら。


 35歳のニートだ。


 今日も実家のダイニングに居座り、60歳の母親が作った料理を食べる。


「うま〜!かーさん、おかわり!」


「はいはい、さくらは良く食べるねぇ」


 しかし、親から文句や不満を言われる事はない。


 何故なら、月に50万円ほど実家に納めているからだ。


 何を隠そう、わたしは個人資産が200兆円を超える、世界一の個人投資家なのだ!


 世界の富の70%を所有している!


 わたしがとてつもない大富豪だと言う事を親は知らない。ただ、実家に月50万円ほど実際に納めているから、インターネットでたくさん稼いでるぐらいに思われている。


 今日も今日とて、飯がうまい!


「ねぇ、さくら」


 しかし、何だか今日のかーさんの様子がおかしい。


「かーさん、再婚しようと思うんだ」


「え!さ、再婚って、かーさんにそんな相手いたの!?」


 わたしは驚きで大好きなとんかつを食べる手も止まってしまう。


「えぇ、っと。勤め先の建築事務所の社長さんがね、いい人でね」


「まじかぁ。かーさん、美人だもんな。社長さんも確か、奥さん18年前に亡くしてるんだっけ?」


 とーさんが食道がんで亡くなって15年経つ。てっきり、かーさんはこのまま独り身で生涯を過ごすと思っていた。


「うん、でね。さくらはどう思う?私が再婚するって聞いて……」


 少し不安そうな声で俯くかーさん。


「なにいってんだよ。かーさん!かーさんがそれで幸せに成るって言うなら、大・賛・成!さ!」


「さくら。ありがとうね。私、さくらにどう思われるかだけは心配で……」


 かーさんは、とーさんが死んでから必死でわたしたち兄妹を育ててきてくれた。妹にも知らせてあげないと。


「かーさん。かえでにもしらせてやらないと。結婚式は盛大にいこうよ!」


「ああ、かえでにはもうLINEで知らせてあるのよ」


「ええ、ひどい。わたしだけ蚊帳の外だ!?」


 大げさなリアクションでおどけて見せると、かーさんはくすくすとおかしそうに笑った。


「あの子はねぇ。さくらのこと未だに無職の引きこもりだと思ってるからねぇ。結婚するなら、バカ兄は自立させろって、うるさくて」


「あー、まだ勘違いしてるんだ。あいつの結婚資金、だれが用立ててやったと思ってるんだか」


 かーさんは、大きなため息をついて困った顔で言う。


「そうねぇ、いくらインターネットで稼いでいるって言っても、納得しなくって」


「インターネットで稼いでる訳じゃないけどね。資産運用しているの」


「でも、それってインターネットでやるんでしょう?なら間違いないじゃない」


 ああ、これだからかえでも納得しないんだろう。


「ふふ、そんなことより、ご飯冷めちゃうわよ。早く食べなさい」


「ああ、とんかつの衣がしわしわして来てる!」


 そんな感じにかーさんの再婚報告は終わった。


 その日の夜にかえでから電話がかかってきた。


「おい、バカ兄。お母さんから再婚の話は聞いただろう。これを機にとっとと自立しろ」


 電話に出てそうそうの言葉にうんざりする。


「かえで、兄はすでに自立している。お金はたくさん稼いでるし、月に50万円も実家に納めているんだぞ」


「はぁ。そんなことはすでに知っている。信じられないことだが、バカ兄はインターネットとやらでそれなりに稼いでるようだな。」


 どんな手段かしらないがな、と妹。


「だけど、一日中部屋に籠ってPCにかじりついて、家事も親任せで。35歳にして無職引きこもり童貞くそオタク」


「童貞とオタクは関係ないだろう!?」


 あまりに酷い言い草に思わず電話越しに大声をあげてしまう。


「だまれ童貞」


「うぐぅ」


「バカ兄、お母さんを安心させたいというのなら家を出て一人暮らしをして、恋人の一人でも作ってみせろ」


「かえで……」


「自立しろ」


「……はい」


 そんなことでわたしはかーさんの再婚を機に実家を出ることになった。

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