第3話 折れてる陸空もすごいんだぞ
「じゃあ、りっくん、一瞬チクっとして、声を出したくなっちゃうかもしれないし、舌を噛んじゃったりしたら危ないから、これを噛んでおいてね♫」
そういって口元に差し出された棒状のなにかを噛む。
マウスピースだろう。爪を飛ばされたときにはこんなものつけてもらえなかった。
もしかして、あのときとは違う。もっと痛いなにかをされるのだろうか。
俺がいろいろ考える前にシオからの声が鼓膜を揺らす。
「うんっ、これでよし!それじゃありっくん、いくね。ちょっとだけだから、我慢してねっ」
シオはニコニコしながらキャピッとした仕草をしたかと思うと、その機械から伸びたレバーを引いた。
ぼきっ。
「ふぐあぁぁぁぁっぁぁぁあああああぁぁぁぁっっああっあああああああああぁぁぁぁぁああああっぁっ!!!!!」
万力みたいな機械で挟まれた俺の左腕。
その関節から鈍い音が響いて、普通は曲がらない方向に伸びる俺の左の肘から先。
轡を噛まされているからそんなに大きく響いた声にはならないけど、力いっぱい泣き叫ぶ。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!いや、なんか熱い!?や、痛い!なにがチクッとだよ、ぼきっとじゃねぇか!!!
あまりの激痛に目の前の景色が涙で滲む。
今にも意識を失いそう、いやぜひとも失いたい俺の目に映るのは、たったの2回目だけどある意味見慣れてしまった牢獄と、俺の叫び声を恍惚とした表情で見つめる幼馴染の横顔。
そこからはさすがに、もう意識を保っていられなかった。
霞む視界と聴覚の端に、幼馴染の皮を被った悪魔の声が聞こえた気がした。
「背中にも、証を刻んでおくからね♫」
気のせいだと思いたい。
*****
はっ、ここは!?
いやいやだけど、あのお仕置き部屋よりも見慣れた天井。シオの部屋だ。
女の子らしい甘くて頭がしびれるような香りがする。
普通ならポジティブな感情で胸が高鳴るシチュエーションなのかもしれないけど、この匂いを嗅いでしまうと俺は恐怖で心拍数が上がるわけだ。
そんなことより、どういう状況だった!?
ズキッ!!!!
いってぇええええええええぇぇぇぇえぇえええぇぇえ!!!
ちょっと動こうとしたら左腕から信じられない痛みを感じて、反射で上半身を勢いよく起こしてしまいさらに痛みが来る。
少しして痛みが落ち着いた頃に見ると、添え木をして包帯ぐるぐるになった俺の
ズキズキとした痛みとともに視界に映る自分の左腕を見た瞬間、あのときの拷問部屋での色々がフラッシュバックのように脳裏によぎる。
いやいやいやいやいやいやいや、もうムリムリムリムリムリだ限界だまじで限界。次は命を盗られるまじで。
今回は左腕一本で済ませてもらったけど、一瞬でも早くこいつの前から姿を消さないといつか命を盗られる絶対に。
なんとしても、シオに、街のやつらに、この国のやつらにばれないように逃走の計画を練らなければ。その後の生活基盤を作らなければ......。
恐怖に支配されつつも、今回ばかりは本気で作戦をたてないといけなさそうだと悟りを得た俺は、一旦、落ち着くために起こした上半身を再びベッドに横たえる。
瞬間、背中にもズキッとした痛みを感じる。
結構痛い気がするけど、左腕の痛みで感覚がぼやけている気がする。
しばらくの間いろんな痛みに悶ていると、部屋のドアが勢いよく開け放たれる。
「りっくぅーん!」
俺の名前を叫びながら、
「いったぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!!!」
すごい勢いでのしかかられて、もうどこの痛みかもわからない。
「あっ、りっくん、ごめんね」
しょんぼりした表情で、両手の指先をツンツンしながらしおらしい態度で謝罪するシオ。
いやいや、もう何に謝ってるのかわからないよ。
「あはは、シオ、俺は全然大丈夫だからさっ。気にしないでよ」
どれだけ恐怖で一杯でも、いつものこの態度を崩すわけにはいかない。
これからの逃走計画。どんなものになるにしろ、ギリギリまでバレるわけにはいかない。
なら、いつも通りの振る舞いを変えるのは最悪の手だ。
「そ、そっかぁ!よかったぁ!」
太陽みたいな笑顔を咲かせるシオに、どうしようもない恐怖と、底知れない愛しさを感じる。
..................ん?愛しさ?
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