2,500字後に君は死ぬ
2,500字後に君は死ぬ――
灰色に染まった空の下、私の前に突然現れてそんな予言を投げてきたのは、
やだ、タイプ!……なんて、キュンとしてる場合じゃないみたい。瓦礫の街には獲物を求めるゾンビがうごめき、荒廃した地平の彼方では絶え間なく響く銃撃音が人々の悲鳴をかき消している。
「行くよ、説明は逃げながら!」
「ちょっ、いきなり手繋ぎなんて大胆っ」
普通のOL一年目、お一人様のゴールデンウイークを満喫していた筈の私が、どうしてこんな地獄に放り込まれてしまったのかはわからないけど。とにかく今は、このイケメンに手を引かれて走るしかなさそうだった。
「死の運命から逃れる方法はただ一つ。この匿名コンの世界から抜け出すんだ!」
「どうやって!? ていうか、なんで私そんな世界にエントリーされてるんですか!?」
「きっと主催者のゴリ押しさ。あのベニヤ、人数を集めるためなら手段を選ばないからね」
「えぇ……」
思わず片手で
刹那、鼓膜を叩く爆音に続いて、追っ手のゾンビ達が爆発に飲まれて粉々になった。
「そうこう言ってる間にもう残り1,957字だ」
「数えてたんですか!?」
「君が生きて自分の世界に帰るには――」
見下ろしてくる真摯な視線にドキリとする
「規約違反で主催者からリジェクトされるしかない」
「えぇぇ……」
この
「規約違反って。一つの短編だけで作品として成立してないとか?」
「急に察しがいいね」
「ムダに喋ってたらそれだけ字数が
「『転生したら残り2500字だった件』か……あれはいい作品だった」
「じゃなくて。そういうことなら、さっさと違反してこの世界から抜け出しましょうよ!」
こうして喋ってる間にもゾンビの新手が迫ってきてるし。今度は手を引かれるまでもなく、私はひび割れたアスファルトの地面を蹴って走り出す。
「とにかくっ、この話を匿名コンで受け付けてもらえないようにすればいいんですよね!?」
「
「ふぇっ!? 急に何語喋ってるんですか!?」
「記述を日本語以外にすればリジェクトされるかもしれない! 君も早く何か外国語を喋るんだ!」
「ま、マシッソヨ! じゃなくてっ、それやるなら地の文から何から全部切り替えなきゃダメでしょ!? あっ、そうだっ!」
匿名コンの規約を脳内で
「いっそ記述をやめちゃいましょうよ! たぶん、今ならまだ1,000字未満――」
「もう間に合わない。ここまでで1,265字……てかゴメン、さっきのイタリア語で無駄に字数を消費した」
「さては顔だけですね!?」
「何が?」
「取り柄がっ!」
ひゅるひゅると音を立てて飛んできた爆弾が近くに着弾し、爆風が私達の体を煽り上げる。痛む体を起こし、私は彼に詰め寄った。
「もう、ここで切って『後編に続く』ってやっちゃいましょう! そしたら単独の短編として成立してなくて違反になるはず――」
「いや、あのベニヤはそんなことじゃNGにしてくれない。嘘初回もアリなら嘘最終回もアリ、ってことは、嘘前編くらいどうってことないはず」
「あのベニヤぁ……!」
「このままでは、975字後に君は死ぬ!」
「もう1,000字も残ってないの!?」
立ち止まっている余裕はなさそうだった。逆に吉流君の手首を引き掴み、硝煙の世界を私は走る。
「今更ですけど、このネタ、
「バレた?」
「私これでも読書家なんですから! 他の皆にもバレバレですよこんなの!」
「大丈夫、カクヨムユーザーはウェブ小説しか読まない」
「そんなことないと思うけど……」
せめて本文の
「てか、大丈夫だったら抜け出せないじゃないですか! マジメに違反してくださいよ!」
「じゃあ、レーティングタグ付けずに
「そんなの『主催者の判断で【残酷描写あり】付けときますね~』ってやられるだけじゃないですかっ。あっ!」
そこで閃いた。あのベニヤが何でもかんでも許容してしまうなら、いっそのこと――
「カクヨム自体の規約に触れちゃえばいいんですよ! ここらで濃厚なベッドシーンを入れちゃうとかどうです!? 私、こう見えて結構積極的なんですよ?」
胸元のボタンをひとつ外して、必殺の上目遣いを食らわせる。学生時代に数多の先輩を落としてきた得意技だ――関係を持った後が続かないのが難点だったけど。
「いや、でも……俺達、出会ってまだ2,061字だし、付き合ってるわけでもないし」
「なんでそこだけ急にマジメなんですかっ!」
「俺は最初から大真面目だけど!?」
「冒頭一行目からメタネタぶっこんでる時点でふざけてるでしょ!? やだやだっ、まだまだ素敵なイケメンと恋もしたいのに、あと500字足らずで死んじゃうなんてっ!」
「もう283字しかない。こうなったら――匿名コン七つ道具を出す時だ!」
「そんなのあるなら最初から出してくださいよ!」
じゃらっと音を立てて、彼が懐から取り出したのは
「領域展開! 精神と時のルビ!」
彼が叫んだ瞬間、私達の周囲の時空が歪んで――
元の世界で目覚める間際、私は思った。
いつか私の世界であのイケメンと再会したら、そのことを真っ先に突っ込んでやらなきゃ。
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