ようこそ、悪の秘密結社デス・ジャークへ。我々は君を心から歓迎する

 ほっほう、君が駒場こまばタケシ君か。我ら『デス・ジャーク』の改造手術に志願してくるとは、なかなかに見応えのある青年だ。君の経歴は調べさせてもらったよ。学力優秀、スポーツ万能、帝都大学の院生として生体科学の研究に従事する傍ら、モーターレースの国際大会で優勝を争う腕前だそうだな。先日の国連学会で発表された君の論文は我々も見させてもらった。無論、我ら『デス・ジャーク』は喜んで君を迎え入れよう。君ほどの才能の持ち主には相応の待遇をもって報いねばならん。一般怪人などではなく幹部候補の席を用意しようではないか。


 しかし、自ら志願してきたとはいえ、君にも我々の本質を見極める時間が必要だろう。我々の掲載した採用条件は見てくれたかね。最初の三ヶ月間は試用期間とある。これは、我々が使い物にならない新人をクビにするための規定ではなく、未来ある若者達に我が組織の実態を中から見てもらい、本当に改造手術を受けるかどうかを判断してもらうための期間と思ってくれればいい。改造してしまってから、やはり合わないとなっては互いに不幸だからな。試用期間中は改造手術は行わず、後方支援の業務に従事してもらうことになる……ああ、無論、戦闘員のタイツを着て「イーッ」と声を張り上げろなどとは言わん。幹部候補の君にそんな下積みなどさせるものか。知っているかね、戦闘員は怪人候補とは別枠の非正規雇用なのだ。非正規だからといって雑な扱いはせず、怪人達と同様に有給休暇や賞与も設定しているし、労災にも入らせているのだがな……ふふん、我が組織の戦闘員はあのZ○Z○タウンのアルバイトよりも時給が高いのだぞ。世界征服を企む我らが『デス・ジャーク』が、愚かな人間どもの組織より劣るということがあってはならんからな。


 失礼、君の件に話を戻そう。そういう訳なのでな、駒場君、君の改造手術は、君が試用期間を終え、我が組織に命を捧げたいと改めて決意したその時のお楽しみだ。その間は十分に我々を吟味するがいい。試用期間だからといって待遇は変わらんから安心したまえ。君の学歴と能力があれば、アメリカや中国の一流企業なら年俸●●●●万円は出すだろう。我々はその2倍の●●●●万円を積もうではないか。なに、我が組織の未来を思えば安い投資だ。残業代や深夜割増賃金は言うまでもなく1分単位で出すし、被服手当、通勤手当、家賃手当も弾むぞ。家族……はまだ居ないのだな。君が妻子を持ったその時には、家族手当も手厚くあるから楽しみにしていたまえ。


 だが、組織に加わるにあたり、これだけは了解してもらわねばならん。世界征服を目標に掲げる我々の戦いは、常に命の危険と隣り合わせだ。前線では勿論のこと、今こうしている間にも、いつ正義のヒーローどもがこの基地を突き止めて踏み込んでこないとも限らんのだ。そして我ら幹部は常に部下達の先頭に立たねばならん。そこでだ……君の身に万一のことがあった時のために、我々は組織として保険に加入している。君が不幸にも我が組織の一員として命を落とした時……あるいは身体に障害を負った時……君自身かその遺族に、君のその時の職位に応じて、ここに書いてある通りの保険金が下りることになっている。これも無論、試用期間中から適用されるからな、今ここでサインをしてもらおう。ああ、そうか、モーターレースの選手である君にはお馴染みのものだったかね。命を危険に晒すことには慣れっこか、はっは、それは頼もしい。


 我々からの説明はひとまず以上だ。質問はあるかね? そうか、気になることがあればいつでも尋ねるといい。

 我々は君を心から歓迎する。ようこそ、世界征服を企む悪の秘密結社『デス・ジャーク』へ!

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