01:冒頭部分だけを読み込ませ、後はひたすら続きを書かせたもの

使

 

 

 

 

   

 

  姿



 

  ふとした拍子に、彼女の手が私の手に触れた。その瞬間、私の中で何かが弾けたように思えた。

気がつくと、私は彼女に口づけていた。

彼女は驚いて目を見開き、それから、私を突き飛ばした。

突き飛ばされた勢いのまま尻餅をつくと、彼女は彼女は立ち去ろうとしていた。

「待って!」

立ち上がり、追いすがろうとしたけれど、風に煽られて転んでしまう。

涙が溢れてくる。どうして? なぜ? 私はただ、あなたを愛したかっただけなのに…………。

「待って! 行かないで!!」

それでも、風に押されて離れそうになる身体を引き寄せて、抱きしめてしまう。

「ごめんなさい、お願いだから行かないで。あなたがいないと生きていけない。もう二度とあんなことはしないから、行かないで、そばにいてよ…………」

泣きじゃくりながら、私は懇願する。


すると、彼女はゆっくりと振り返り、微笑んだ。

それはまるで、春風のようだった。

「あなたには、もっと相応しい人がいるわ」

そして、踵を返して歩み去って行く。

「待って、行かないで、お願いだから、ねえ、待ってってば」

叫んでも、声は届かない。

「こんなにも好きなのに、どうして分かってくれないの?」

私の問いかけに応える者はいなかった。

やがて、風がやむ。

後には、一人の少女だけが残された。

少女は泣き崩れる。

もいない、見向きもされない場所で、ただ一人、誰にも聞こえない嗚咽を漏らす。

「行かないで、そばに居て」

そう願っても、彼女を引き止めることはできない。

やがて、太陽が沈む頃になって、ようやく少女は立ち上がる。

そして、歩き出す。

愛した人の後を追うために。

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