03:本性
どういうわけだか、人気絶頂のアイドル・
こんなことはあり得ない。夢なのだと思い込もうとしたのだが、握られた手から伝わる温もりは紛れもない本物だ。
「え、
「マジ!? でも何で急に正体バラすようなことしたの? 今まで隠してたってことだよね?」
会話を聞いていた周囲の女子たちが騒ぎ出したことで、私の意識は少しずつ現実に帰ってくる。
そう、彼女たちの言う通りだ。
これまで
まず斎藤くんの顔を見たことがある人だって、いなかったのではないだろうか?
それがアイドルであることを隠すためだというのなら納得だが、なぜ今こんな風にバラす必要があったのだろうか?
「事務所から、もう隠さなくていいってOKが出たんだよ。今日は仕事終わりだからこの格好のまま来ちゃったけど、普段はもう少し地味にするよ。学校にも迷惑かかるしね」
なるほど、普段のあのもさもさとした黒髪は地毛ではなく、派手な髪色を隠すためのウィッグだったのか。
(そういえば、体育の授業も病弱で休んでるって聞いたことあるけど……あれは怪我をしないようにってことだったのかな)
テレビで観る
病弱だったり運動神経が悪いとは到底思えないが、それならば納得だ。
「えーヤバ! あの
「ねえ
「サインも欲しい! おねが~い!」
その勢いには恐ろしいものを感じたが、アイドルはいつもこんな思いをしているというのか。
親しみやすさが人気の理由のひとつでもあるので、それらの要求に応じるものかと思っていたのだが。
「悪いけど、白毛さんと話してるから邪魔しないでくれるかな?」
「え……?」
その言葉に、興奮気味だった女子生徒たちの空気が凍りついたのがわかる。
それは私自身も同じだったのだが、彼は構わず私に笑顔を向けてきた。
「ああ、付き合ってるんだからもう苗字呼びじゃよそよそしいかな。
「いや、あの……
「あんな奴ら気にしなくていいよ。それより、名前で呼んでってば。ホラ!」
「が……
「うん!」
顔が整っているからというだけではなく、子犬のように嬉しそうに笑う彼はとても可愛い。
可愛いが、それ以上に彼の背後から私に向けられる嫉妬や怒りの視線が突き刺さって、それどころではない。
「
「そうだよ、
「シラける子ちゃんはさ、
「っていうか、アンタもさあ。まさか本気で
彼女たちの言葉に、私は反論することができない。
だって、その言葉はもっともなのだ。
キラキラとした世界で活躍する
「……お前らってさ、ホント
そんな
普段はニコニコと笑顔を振りまくわんこ系アイドル、なんて言われているのに。
その彼が、まるで氷のような冷たい目をしてクラスメイトを見ているのだ。
「普段は俺に無関心どころか、陰でコソコソ好き勝手言ってたよな? 聞こえてねえと思った?」
「そ、それは……っ!」
「陰キャのぼっち君。最底辺の負け犬。根暗オタク。あと何だっけ? 言われすぎて覚えきれないわ」
そう。
私のように罰ゲームを受けたりはしていなかったけど、理不尽ことを言われて馬鹿にされていたのだ。
「
彼の言うことは当然だろう。
今まで自分に対して散々な態度を取ってきたクラスメイトを相手に、アイドルとして接することなどできるはずがない。
ましてや今は仕事中でもない、プライベートな時間なのだから。
それでも、
だからこそ、みんな余計に驚いているのだろう。
「そんじゃ
「あっ、あの……」
「ちょっと待ちなさいよ!」
私の手を引いて立ち上がらせた彼は、一緒に下校しようという。
そんな彼の行く手に立ちはだかったのは、クラスの中心的女子だった。
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