陰キャ喪女の私が罰ゲームで陰キャぼっちオタクに告白したら実は超人気アイドルだった彼と付き合うことになりました

真霜ナオ

01:告白


 高校生活も終盤に差し掛かる三年の冬。私は学校に行きたくない。

 なぜなら、クラスメイトたちからいじめを受けているからだ。

 きっかけなんて覚えてない。

 私がいわゆる陰キャで、クラスの中心人物たちの格好の標的となってしまっただけの話だ。


 彼らみたいな人たちの思い通りになるのが嫌で、学校を休んだことはなかった。

 だけど、今日もまた私は、あの人たちの標的になる。


「ねえ、アイツに告白してきてよ」


「えっ……!?」


「できるでしょ? 購買のパン買ってくるの遅れた罰ゲーム」


「いや、でも……」


「なに、やんないの? うわあ、シラける子ちゃんが何か言ってまーす」


 シラける子。

 それは、白毛琉心しらげ るこという私の名前を文字った不愉快なあだ名だ。


 クラスメイトが指名したのは、同じクラスの斎藤我玖さいとう がくだった。

 彼は私と同じ陰キャで、誰とも一緒にいるところを見たことがない、一匹狼だ。

 私は別に彼のことを好きなわけじゃないし、そもそも彼のことなんて名前と見た目くらいしか知らない。

 告白なんかされたって迷惑なだけだろうし、他人を巻き込むような『罰ゲーム』は初めてだった。


「だって、告白って……私、斎藤くんのこと別に……」


「シラけんなあ。陰キャが陰キャにフラれるトコが見てえんだよ。それとも別の罰ゲームにすっか?」


「…………わかり、ました」


 嘘の告白なんかしたくない。それでも、断ればさらに罰ゲームが過激化することも、これまでの経験で承知しているのだ。

 告白をしなければ、次はどんなことをさせられるかわからない。


 私は覚悟を決めると、教室の中央辺りにある斎藤くんの席へと足を向けた。

 ただでさえ彼の座席の配置からしても、教室中の注目が集まりすぎて罰ゲームだ。

 

「……あ、あの……斎藤くん」


「…………」


「さ、斎藤くん……!」


「……? なに」


 どうやら机に突っ伏して昼寝をしていたらしい彼は、ようやく私の声に気がついて顔を上げてくれる。

 といっても、黒くて長い前髪に隠れてその表情を見ることはできない。

 私とクラスメイトの先ほどの会話も聞こえていなかったのだろうが、来てしまった以上はもう引き下がれない。


「えっと……その、私……斎藤くんのことが……好きです」


「…………」


 申し訳ないとは思いつつ、早くこんなみじめな時間を終わらせてしまおうと思った。

 後ろでは、私の告白をわざとらしくはやし立てる声が聞こえる。私がフラれるのを、今か今かと待っているのだ。


 今すぐ走って逃げ出したい。そんな風に思っている私の心情など知らず、彼は口を開こうとしてくれない。

 突然の告白に面食らっているのだろうか?

 彼だって、異性からの告白なんてされ慣れていないはずだ。


(無理もないけど……お願い、一言でいいから早く断って……!)


 震えてしまいそうな膝を叱咤しったしながら、私はじっと彼の言葉を待つ。

 しかし、耳に届いたのは思いがけない言葉だった。


「ああ……じゃあ、よろしく」


「……へ?」


 よろしくとは、どういう意味なのだろうか?

 てっきり『いや、無理』『俺は好きじゃない』くらいの答えが返ってくるものとばかり思っていたのだが。


「白毛さん、俺のこと好きなんでしょ? だから、よろしく」


「え、それって……付き合う……って、こと?」


「うん?」


 当然といえば当然なのだが、まさかOKの返事が飛び出すとは想定していなかった。

 それは私だけではなく、クラスメイトたちも同じだったのだろう。

 けれど、陰キャ同士が付き合うことになったという図は、彼らにとって良いネタとなったらしい。

 途端に周りに集まってきたクラスメイトたちが、カップル成立を祝福してくれた。


(ああ……どうやって本当のことを伝えよう)


 彼にとっては、私が本気で告白をしたことになっているはずだ。

 だが、実際には罰ゲームで告白をしたわけで、私には彼に対する特別な感情などひとつも無い。

 その事実をどう伝えるべきかと悩んでいるうちに、放課後になっていた。


「あれ……」


 こういうことは、なるべく早い方がいいだろうと思ったのに。

 帰り支度を済ませる頃、教室の中にはもう彼の姿は無くなっていた。


(どうしよう、私……斎藤くんの連絡先も知らない……)


 一匹狼の陰キャなので、クラスの中にも彼の連絡先を知っていそうな人物は見当たらない。

 本来ならすぐにでも事実を話したいと思っていたのに。

 また明日、改めて斎藤くんに話をしなければならない。


 私は肩を落としながら、その日は仕方なく家に帰ることにした。

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