第471話 【強者達の戦い・3】


「あれ、レイはもう行ったのか?」


「うん。ほら、相手が勇者さんでしょ? 流石のレイちゃんも緊張してたみたいだから、早めに移動して気分を整えてくるって言ってた」


 まあ、確かに相手が勇者となると流石のレイでも緊張はするか。


「普段、楽しそうに戦ってるレイだけど勇者との戦いは楽しみよりも、勝ちを優先しそうだな」


「そうだね。レイちゃんがあんな真剣な表情をしてたの久しぶりに見たから、本気で勇者さんに勝ちに行こうとしてたよ。それで、ジン君から見てレイちゃんは勇者さんに勝てそう?」


 クロエからそう言われた俺は、少しだけ考えて俺の二人の試合結果について話出した。


「勇者がどこまで力を出すかによって変わるだろうな、勇者が絶対に身分をバレない程度に力を抑えて戦ってくるんなら、レイも勇者に勝てるだろう。だけど、勇者が本気で来た時は分からない。正直、今の勇者の本気がどの程度か俺にも予想が出来ない」


「それって、やっぱり神の武具のせい?」


「ああ、ヨルドと戦ってみて〝神の武具〟の性能についてある程度分かったが、神の力を授かってるようなものだ。それを二つ、勇者は所持してるのが確定してる。そんな相手にレベルが100を超えてるとはいえ、レイが勝てるか俺でも想像が出来ない」


 そう俺達が話していると、俺とヨルドの戦いでボロボロになっていた会場の修復が終わり、レイと勇者が入場して来た。

 勇者とレイは互いに中央まで歩いて来ると、軽く握手を交わして直ぐに距離を取った。


「お互い真剣だね」


 クロエのその言葉通り、勇者とレイは真剣な顔をしていた。

 そんな二人を見て審判は、これまでより少し早めに試合を始めさせた。


「——ッ!」


 試合開始早々、両者の強い【威圧】がぶつかり合って、強い圧力を感じ取った。

 そして【威圧】のぶつかり合いから数秒もしない内に、勇者とレイは同時に動き槍と戦斧がぶつかり合い、再び衝撃が会場に広がった。

 その攻撃後、勇者とレイの激しい戦いが始まった。

 槍で距離を取りながら戦う勇者に対し、レイは深追いはせず自分のペースで勇者に攻撃をしている。


「レイちゃん、今までの戦い方と大分違うね。いつもみたいに突っ込まないね」


「ルークさんとの戦いでレイの中で何かが変わったのかも知れないな、後は他の試合とか見て自分の戦い方に参考になる戦い方があったのかも知れない」


 レイはこれまで楽しさ重視で、攻撃全振りの戦い方が基本だった。

 別にそれで困る事は無かったし、俺達のサポートも有り事故等はこれまで無かった。

 レイ本人もその戦い方が性格にあっていて、俺達のパーティーとしても問題は無かった。

 だが今回の大会を経て、レイの中で自分の戦い方を変えるきっかけが生まれたみたいだ。


「レベル100を超えて、目標が無くなってるって愚痴を言ってたし、自分の戦い方を見つめ直すにはいい機会だからな、それに相手は勇者だから試す相手としても申し分ないな」


 そう俺は言って、レイと勇者の試合を見逃さない様に観戦する事にした。


「……長いな」


「二人共体力あるみたいだね。もう一時間経ってるよ?」


 レイと勇者の戦いが始まって、約一時間が経過した。

 しかし、一時間経過したにも関わらず、勇者とレイは未だに激しい攻防戦を繰り広げている。


「俺の予想通り、勇者は全力を出していないみたいだな。その分、体力の消費が少なく長時間戦えるみたいだ。そしてレイに関しては、普段の戦いであれば体力も消耗するのが激しいけど、今は自分の新しい可能性を試してる段階であまり体力の消耗は少ないみたいだな……これは、どっちが勝つか分からない試合だな」


「個人的にはレイちゃんに勝って欲しい所だけど、勇者さんのが若干余裕はあるみたいだよね。レイちゃんも少し余裕があるとはいえ、少しずつだけど動きが悪くなってきてる」


 クロエのその指摘通り、レイの動きは少しずつ悪くなってきている。

 新しい戦い方を試してるせいで、体力にはまだ余裕があるみたいだが、考える力に回す力は大分落ちているみたいだ。

 その点、勇者は試合開始の時点から変わらず、一定の動きでレイと戦っている。


「それにしても、勇者は凄いな……旅の間に始めたと思う槍で、あの動きを出来るって、元々槍の才能でもあったんだろうな」


「それは私も思ってたよ。剣とは、間合いとか色々違うのによくあんな上手に使えるなって、剣も相当使えるのに槍も使えて、本当に勇者さんって器用だよね」


「それはそうだな、剣から槍に武器を変えれたって凄い才能だと俺も思う」


 俺とクロエは槍で戦う勇者に対し、そう評価して観戦を続けた。

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