第294話 【蹂躙・1】
翌日、リーザに店に行き俺は装備の回収をした。
「世界樹の方はどうだ?」
「まだ全然ね。そもそも、世界樹は削るのさえ難しい素材だから、多分少なく見積もっても一ヵ月はかかりそうね」
「そうか、分かった。まあ、そこまで今欲しいって訳じゃないから、時間がある時にでも進めておいてくれ」
そう言って、俺はリーザの店を出た。
そして、皆と拠点で合流した俺は装備を渡して、着心地を確認してもらった。
特に違和感もなく、最高の仕上がりだった。
その後、俺達は最前線に向かう為、今の物資状況を確認をして足りなさそうな物は買い出しをして準備万端の状態でその日は寝た。
「それでは、行ってきます」
「ええ、頑張ってね。弟子ちゃん達の活躍は、空島から見てるからね」
師匠に挨拶をした俺は、事前に魔王軍の領土近くの場所を記憶していたのでそこに転移した。
そしてそこから、更に体が大きくなってほぼ本物のドラゴンと遜色ないリウスに乗り、姫様達が居る場所へと向かった。
「ジン君、このままリウス君に乗ったまま姫様達の所に降りたら、騒ぎにならないかな?」
「うん、一応姫様には場所を聞いてるから、その近くになったら降りる予定だよ。そこからは走る事になるけど、大丈夫?」
クロエの質問に対して、俺はそう答えるとクロエは「あっ、そうなんだ。私は走っても大丈夫だよ」と安心して、俺の質問にそう答えた。
「私も大丈夫だよ。レン君は体力持つかな?」
「流石に少し走るくらいなら、大丈夫だ」
皆から平気という言葉を貰った俺は、そろそろ姫様達の場所に近づいてきたのでリウスから降りて、走って向かう事にした。
それから20分程、走ると遠くの方に人間の集団が目に入った。
そして全速力で走る俺達に一部の兵士が気づくと、俺達の事を敵かと思い警戒されてしまった。
「何者だ!」
兵士達の中から一人野太い声でそう俺達に向けて、威圧しながらそう言ってきた。
俺達はそんな兵士たちの前に立ち止まり、被っていたフードを取った。
「アンドルさん、俺ですよ。ジンです」
「……えっ? ジンって、お前何でこんなところに?」
警戒していた兵士達とアンドルさんは、敵かと思った相手が俺達だった事に驚いた顔をした。
俺はそんなアンドルさんに「姫様に呼ばれたので来ました」と伝え、姫様が居る場所を教えてもらった。
兵士達は俺達が現れた事に、これで魔王軍との戦いが楽になると喜んでいた。
「外が騒がしいと思ったら、やっぱりもう着いてたのね。久しぶりね。元気にしていたかしら?」
「元気にしてましたよ。逆に姫様は、ストレスでかなりやつれてるみたいですね」
化粧で誤魔化してはいるみたいだが、目の隈が酷く、肌も少しあれていた。
俺はそんな姫様に姫様の容態回復の為に、節約していたであろう神秘薬を一つ使い、姫様の荒れた肌と目の隈を先に治療した。
「こんな無駄遣い、今の状況じゃ到底できなかったわ……本当に、ありがとね」
「話した限り、姫様の状態がヤバいと思ったので、ここに来る前に隠れ里に行って多めに貰って来たんです」
そう言って俺は【異空間ボックス】から、隠れ里から貰って来た神秘薬を取り出して姫様の従者に渡した。
姫様の従者はその神秘薬を受け取ると、深々と頭を下げて節約気味で治療が遅れていた兵士達の所に届けに行った。
「本当に助かったわ。あれで少しは、下がり気味の指揮も持ち直すと思うわ」
「姫様、勇者様は居るんですよね? 何で、兵士さん達の元気もないんですか?」
「……原因は分かってるわ。ただ今はどうしようもないのよ」
クロエの質問に姫様は、溜息を吐きながらそう言った。
そんな姫様の言葉に、レイが「あの戦女さん達が原因ですか?」と聞いた。
「戦力としては、確かに兵士以上の働きをしてくれているわ。ただ常に言い争っていて、それを見させられてるこっちは指揮が上がる筈も無くね。最近だと、戦女の子達間でも対立が出来て、更に悪化してるのよ」
「……よくそんな状況で、魔王討伐に来ようって判断になりましたね」
「王都に居た時から、問題はあったわ。でも、ここまでは酷くなかったのよ。だから、さっさと魔王を倒した方が良いってなって、今回の魔王討伐の作戦が始まったんだけど、まさかここまで酷くなるなんて、誰も思わなかったのよ」
こんな事になるなら、もう少し二人の事を見ておくべきだったわと姫様は後悔していた。
「まあ、今後悔しても仕方ないですよ。ここまで来てしまった以上は、やり遂げないと王都の人達も納得しないでしょうからね」
「ええ、分かっているわよ」
その後、俺が来た事が兵士達に伝わったのか、姫様のテントにユリウスかやってきた。
姫様程では無いが、ユリウスもまた疲弊しきった顔をしていて、こんなユリウスの顔は見た事が無かった。
「そんな顔、アンジュさんに見られたら笑われますね」
「はは、そうだろうね。まさか、こんなに精神的に疲れる事になるとは思わなかったよ。本当に、ジン君達が来てくれて安心したよ。正直、セイン君は勇者としてちゃんとしてるんだけど、戦女の子がね……」
ユリウスもまた姫様と同じ思いをしていて、疲れた表情をしてそう言った。
その後、俺達はユリウスと姫様と共に作戦会議を始めた。
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