第173話 【使者・1】
ヴェルド様の所での修行に大分慣れた頃、ノアから大事な話があると言われた。
「それで大事な話ってなんですか?」
修行を中断してまで、ノアから大事な話があると言われた俺は汗を拭いてそう聞いた。
「ジン様に一つお願いがあるんです」
「お願いですか?」
「はい、実はとある国の王の所に行って欲しいんです。前回、私自身が行ったのですが少し騒ぎになりまして……」
とある国というのは竜人の国で、そこの国の先祖とノアはとある約束をしているらしい。
その約束というのが新しい王になった際に、ノアから贈り物を渡して欲しいという内容で、それではれてその国の王は王として認められるらしい。
ノアはその約束を守っていて、その国の王が新しくなるたびにその国に行ってるらしいのだが先代の王の際に少し騒ぎになったといった。
「昔はその国に他の種族は居らず、竜人だけの国だったので私が出てもそこまで騒ぎにはならなかったのですが、国が出来て数百年が経ち国の在り方も大分変っていまして、今では多くの種族が集う国になって私が行くと、どうしても騒ぎになるんですよね……」
「成程……でも、それは新しい王からしたら、自分の時には来なかったから認めて貰えなかったと判断されるんじゃないですか?」
「前回の時に、次からは私が来る事は無いと伝えているので大丈夫です。その変わり、私が祝福してるという証拠の為に私の鱗を授ける風習に変えないかと伝えたんです。王からしても私自身が出ると、騒ぎになる事は私に迷惑をかけてしまうと考えたのかその提案にのってくれたんです」
そうノアは言うと、これが贈り物用の鱗ですと手渡してきた。
その鱗はノアのドラゴン形態時の色と全く一緒で、何度も戦った事のある俺はそれがノアの鱗だという事が触った感触で分かった。
「分かりました。その任務受けますよ」
「ありがとうございます。すみません、こんなお使いの為にジン様の時間を使ってしまって」
「いえ、ノアさんには色々とお世話になってますから、この位は大丈夫ですよ。あっ、でもその竜人の国ってどこの国ですか? 俺は今までいった事のある場所にしか転移出来ないので、行った事の無い場所だと転移が使えないんで」
「その土地まででしたら、私が送りますので大丈夫です。それと、彼らの国の名前は〝竜人国ドラゴニア〟という場所です」
……え~っと、今なんて言った? ドラゴニアってもしかして、あのドラゴニアか?
ゲーム本編で竜騎士という固有の騎士団を持つ国で、魔王の被害を唯一全く受けなかった最強国。
勇者が持つ聖剣でしか魔王は討伐出来ないという設定が無かったら、その国の王である竜人王であれば魔王は倒せるだろうと言われる程の最強の王が居る国。
その国の事を今、ノアは言ったのか?
「あの……ノアさん確認なんですけど、その国の王様ってグラムス・ドラゴニアという名前ですか?」
「おや? まだ彼は王になって日が浅いのですが、ジン様はかなりの情報通なんですね」
この反応から見て、俺が考えている国とノアがお使いに行ってほしいと言ってる国が一緒という事が分かった。
……そう言えば、グラムスの防具って竜人族の一部が使える【竜化】を使った際でも壊れない程頑丈な作りをしていた。
そしてその防具の色は、ノアの鱗と一緒の黒色だった。
成程、だからあれだけ魔物の攻撃を食らっても平気な顔をしていた訳か。
その後、俺はノアからいつなら行けるか聞かれて、仲間に聞かないと分からないので明日また話をしましょうと言って、俺は今日の修行は終わりにして王都に戻った。
「まさか、こんな所でグラムス王の設定を知る事が出来るとは思ってなかったな……」
そう俺は思いながら、自分でも分かるほどに口角が上に向いていた。
あの王様は俺のお気に入りキャラの一人でもあって、あのキャラの設定資料はかなり読み込んでいた。
それから俺はニヤケ顔が治まってから、部屋を出てクロエ達にノアからの頼み事について伝えた。
「ねえ、ジン君。そこって一人で行くの?」
頼み事を伝えると、クロエがそう聞いて来た。
レイとレンもそのクロエの言葉に耳を傾けていて、ジッ俺を見ながらと黙っていた。
「あ~、それはノアさんに聞いてみないと分からないけど、俺も遊びに行く訳ではないからな、頼みごとの序に少しだけ観光はすると思うけど……クロエ達も来たいのか?」
「行きたいよ」
「ドラゴニアは強い人が集まるって聞いてるから、一度行ってみたかったの!」
「俺もその国でしか手に入らない素材があるから、行けるなら生きたいな」
俺の質問に対して、皆はそう答えたので明日聞いてみるよと言って、話し合いは終わりにした。
そうして翌日、俺はノアに国に行く事が出来る事を伝えるついでに仲間達も一緒に連れて来て良いかを聞いた。
ノアは元から俺の仲間達も連れて行く気だったらしく、付いてこられても大丈夫ですよと言ってくれた。
その後、その日の修行が終わり宿に戻った俺は、クロエ達も行ける事を伝えると凄く喜んでいた。
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