第89話 【護衛の実力・2】
クロエの救出後、何故か俺はティアナと魔法の勝負をする事になった。
いや、何で勝負? そう俺は思ったのだが、俺の魔法を見てティアナが「私とどっちが魔法の腕が上か、確認したいんです!」と強くお願いして来た。
「勝負って、流石にティアナさんに魔法を放つなんて事は出来ませんよ……」
「大丈夫です。危なくなったら、直ぐにその場から離れますから! どうか、お願いします!」
そうお願いをしてくるティアナ。
俺は離れてみている姫様に視線を向け助けを求めた。
「ティアナ、あまり我儘言わないのジュンだって本来は見せるつもりが無かった力を見せたのよ?」
「で、ですが……これ程の魔法の腕を持つ方は、早々居ません。一度だけ、同じ属性魔法を撃ちあうだけで良いです。お願いします」
その後もティアナは諦める事は無く、結局俺はティアナと魔法の勝負というか力比べをする事になった。
また変な事になったな……まさかあのティアナと魔法の勝負をする事になるとは、思いもしなかった。
「ティアナさん、お願いですから怪我だけはしないでくださいね」
「ええ、分かっています」
そうして俺はティアナとの魔法の威力勝負を行った。
やり方は簡単で互いに魔力を出しながら魔法を撃ち続け、徐々に込める魔力を上げていくというやり方。
これは主に実力が同程度の者同士や、師弟関係の者同士が魔法の実力を計る勝負方法だ。
ゲームでは一定の魔法の力を得ると、とある魔法使いとこの勝負を行い勝利すると良いスキルが貰えるというのもあった。
まあ、俺は別にそれで得れる報酬にゲーム時代から興味が無く、二回くらいしかやらずそれからはその勝負を全てスルーしていた。
「ティアナさん、まだいけますか? もっと上げますよ?」
「はい、大丈夫です!」
流石に相手は公爵家の娘。
いくら相手が良いとは言ったとは言え、魔法を放ってる今の現状は凄くおかしい。
これでもし怪我でもしたら、俺はどんな手を使ってもその傷を完全に治療して、即この国から出るつもりだ。
「まだ上げますよ。大丈夫ですか?」
「ま、まだ行けます!」
その後、徐々に苦しそうな顔になって行くティアナ。
無理をしてると誰もが分かる顔をしていて、俺はいつでも魔法を消せるようにしていた。
それから数分もしない内にティアナは魔力を使い果たし、辛そうな表情で「降参です」と言った。
そして俺は直ぐに魔法を消して、辛そうな顔をしているティアナへと近づき魔力回復薬を渡した。
回復薬を飲んだティアナだが、まだ辛そうな顔をしていたので飴も渡して、どんな効果があるのか説明をして食べて貰った。
「まさか、これほどの腕とは思いませんでした。完敗です……」
負けを認めるティアナだが、その表情はどこか嬉しそうな表情をしている。
「あら、ティアナ。初めて同年代の相手に負けたのに、嬉しそうな顔をしてるわね」
「嬉しそうですか? ……そうですね。私を超える魔法使いの天才に会えたのが、本当に嬉しいんだと思います」
そうティアナは言うと、俺に向かって「ありがとうございます」とお礼を口にした。
「満足して頂けたようで良かったです。俺としては、ティアナさんに怪我がなく終わったのでホッとしてます。いくら許可されてるとは、侯爵家。それもあのノルフェン家の方を怪我させたなんてなったら……」
そう言いながら俺がブルリと震えると、ティアナは「そ、そんな酷い事はいくらなんでもしませんよ」と言い返してきた。
しかし、そんなティアナの言葉に姫様は「ジュンの言った通り、酷い事になっていたわね」と言った。
「うんうん、ティアナちゃんのお父さんもそうだけど、やっぱりレーヴィン様は怒り狂ってたと思うよ」
「ですらか本当は断りたかったんですけど、あまりにも言うので全神経を魔法を注いでいつでも止められる体制をとってました」
そう皆で言うと、自分の我儘のせいで俺の人生が狂ってたかもしれないと知ったティアナは縮こまって「ご、ごめんなさい」と謝った。
その後、訓練場から姫様の部屋に戻って来た。
「あんなに我儘なティアナはじめて見たわ」
「私も~、フィーちゃんが我儘なのはよく見てたけど、ティアナちゃんのあんな姿はじめて見て驚いたよ~。ティアナちゃんもまだ子供なんだね~」
「うう~、恥ずかしいです」
ニヤニヤと笑う友人二人に、ティアナは顔を赤くしてぬいぐるみに顔を隠していた。
「姫様、ミリアーナさんその辺にしないとティアナさんが可哀想ですよ」
「……そうね。散々弄ったし、もうこの辺にしておくわ。後で仕返しが怖いし」
「うんうん、まあ仕返しされるのフィーちゃんだけだと思うけどね~」
それから、恥ずかしそうに顔を埋めているティアナはそのまま置いておいて、話題を他の事に変えた。
その後は姫様の部屋で昔話が盛り上がり、姫様達は楽しそうな時間を過ごしていた。
そして翌日、夜遅くまでお泊り会を楽しんでいた姫様達はお昼近くまでグッスリと眠っていて起きて来る事は無かった。
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