第85話 【二ヵ月・1】


 姫様の護衛を始めてから、二ヵ月が経とうとしている。

 二ヵ月という事は、俺とクロエの護衛依頼の期限が切れてしまう。

 これは冒険者の規則で、銅級冒険者は〝長期依頼は二ヵ月間が限界〟というのがある。

 そんな規則がある為、本来であれば姫様は俺達の代わりの護衛を探すか、もしくは契約の結びなおしをする必要がある。

 一度に長期間拘束出来ないが、依頼主の契約延長の書類を受ける冒険者がギルドに届けたら期間延長の手続きが可能だ。


「姫様、一つ聞いても良いですか?」


「あら、何かしら?」


「もう直ぐ俺達が護衛の仕事を始めて二ヵ月経ちますけど、新しい護衛の候補、もしくは書類の作成は出来てますか?」


「……えっ、もうそんなに経つかしら?」


「えっ、まだ一ヵ月くらいと思ってた……」


 俺の言葉に姫様は少し驚いた様子で聞き返し、何故かクロエも姫様側で期日を正確に覚えていなかった。

 姫様は待機していたメイドに「ジンさん達と契約、あと何日かしら?」と聞くと一週間もないと返答された。


「……ジンさんとクロエさんとの日常が楽しくて、すっかり忘れていたわ」


「なにしてるんですか……」


 姫様の言葉に対して、俺は呆れながらそう溜息を吐いた。

 そして俺はクロエの方を見て、「クロエは何で忘れていたんだ」と聞いた。


「その~、訓練が楽しくて日付を確認してなかったです! ごめんなさい!」


 クロエのその言葉に俺は更に呆れ、二人を交互に見て「覚えてたの俺だけか」と呟いた。


「姫様、確かもう直ぐ長期の休みでしたよね?」


「ええ、あと一ヵ月で長い休みに入るわ」


「でしたら、仕事の期間をその学園が休みに入るまで伸ばしますか?」


 そう俺は姫様に聞くと、姫様は驚いた様子で「良いの?」と聞き返した。

 正直、俺は今の生活を少し満喫していた。

 早くこの地から逃げる事も大事だが、それには力がある程度必要になって来る。

 少し前にリーザに作って貰った刀、改めてリーザに使い方とか聞くと柄の部分での攻撃や刃の裏での攻撃。

 俺の刀の戦い方の知識には無かった部分を教えてもらい、それらの訓練中で時間がもう少し欲しいと俺は思っていた。


「という訳で、王都を離れるにもまだ訓練が必要だなと俺自身も考え、合理的に考えて護衛の仕事を続けた方がいいと思ったんです。クロエはその様子だと、仕事を続けてもよさそうだと思うけど、クロエはどうだ?」


「私も仕事の期間延長に賛成だよ」


 そんな感じで、俺達は期間延長について乗り気だという事を姫様に伝えた。

 その結果、姫様は期間延長を希望して、その為の書類作成を始めた。


「楽しい日々を送ると、こういう事が起こるのね……新たな発見だわ」


「発見というか、単に忘れていただけですよね」


「……仕方ないじゃない。ジンさんとクロエさんが来て、私の日常が変化したのはジンさん達も知ってるでしょ? 今まで沢山、面白そうな子を見て来たけどジンさん達は別格だったのよ」


 ツンッと拗ねた様子で姫様はそう言った。

 この二ヶ月の間、一番変化したのは姫様と俺達との関係だろう。

 当初は、姫という立場を弁えてある程度、言葉遣いなどに気を使ったりしていた。

 だが、ある時から姫様が「この部屋に居る時は気を楽にして」と言われ、依頼主の要望だからと徐々に友達と話すような雰囲気で話す様になっていった。

 ただ流石に許されているとはいえ、相手は王族なので最低限のマナーは守って会話をしている。


「そう言ってくれるのは嬉しいですけどね」


「だって今までも何人か見て来たけど、こんな短期間で私を何度も驚かせたのはジンさん達だけよ? あのユリウスだって、こんな事は出来なかったわ」


「まあ、普通の人はたった数ヶ月の間に特大サイズの金塊やら、ミスリルの発見はしませんもんね」


「ええ、それにガフカの工房に武器を作って貰うなんて本当に凄い事ばかりしてるのよ? ジンさん達は、本当にそこら辺を自覚してほしいわ」


 立て続けに驚く事ばかりあったから、感覚が狂ったのよと姫様は言い訳としてそう言った。

 その後、完成した書類を受け取った俺達は姫様が用意してくれた馬車で冒険者ギルドへと行き、延長契約を結んだ。


「あっ、そうだ。ギルドに来たついでに、偶に運動がてら討伐して魔物の素材を買い取って貰えますか?」


「はい、大丈夫ですよ」


 契約を結んだ序に、俺は【異空間ボックス】に入ってる魔物の素材を売る事にした。

 特に多く狩ったとかでは無いが、素材自体が傷んでない為、予想よりも高く売れた。


「いいお小遣いになったな、どうするクロエ。このまま真っすぐ帰っても良いけど、商業区で買い物して帰るか?」


「う~ん、今は特に欲しい物は無いし、帰って訓練したいかな? ほら、必要時にお金がないってなったら困るし」


「まあ、そうだけど俺達の貯金、凄い事になってるからな……」


 金塊の売上だけでも数年は暮らせる程、俺達は稼いでいる。

 更にそこに魔物の素材を売却したお金や、護衛任務の給料なども加わって凄い金額になっている。

 その後、俺もそこまで欲しい物は今の所ないので、城に戻って来て訓練をする事にした。

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