第15話 【知識の有効活用・3】

 その後も俺はアスカから、尋問の様に色んな事を尋ねられた。

 その結果、何故か知らないがアスカからえらく気に入られてしまった。


「ジン君、面白いね~。君みたいな子、初めて見たよ」


「……」


 対面して座っていた筈のアスカは、俺の横に座り俺の頭を笑みを浮かべながら撫でていた。

 撫でられている俺の恰好は、逃げられない様に縄で縛られている。

 尋問中、何度か脱出を試みた結果だ。


「マスター、流石にそれはジンさんも嫌がってますからやめてあげてください」


「え~、まだ撫でてたいよ」


 撫で続けるアスカにフィーネさんが助け舟を出してくれた。

 もう少し早く言ってほしかったけどな!


「……マスター」


「ッ! はい、止めます!」


 フィーネさんが真顔で〝マスター〟と口にすると、アスカは即なでなでを止めた。

 そしてピンッと背筋を伸ばし、顔もガチガチに固まっていた。


「ジンさんを騙してこの場に居て貰ってるんですよ? あまり調子に乗った行動は、冒険者様に対して失礼にあたりますよ」


「は、はい! すみません!」


「謝る相手は私じゃないですよね?」


「はい! すみません!」


 アスカは立ち上がり、俺に向かって綺麗なお辞儀でそう謝罪を口にした。

 ……一体どういう事だ? 確か、ゲームではアスカは〝ギルドの絶対的権限を持つキャラ〟として知られていた筈だ。

 なのに今の一連の流れを見ると、アスカよりもフィーネさんの方が何故か偉く見えてしまった。


「あのフィーネさんと、ギルドマスターってどういう関係なんですか?」


「……ジンさんには色々とマスターが迷惑掛けましたし、その位でしたらお話しできます。私とマスターの関係ですが、元々は同じパーティーとして冒険者で活動していたんです。その時は、私がリーダーを務めマスターや他の方を指揮していたんです」


 フィーネさんのその話を聞いた俺は驚き、眼を見開いてフィーネさんを見つめた。

 あの話のキャラがフィーネさんだったのかッ!?

 アスカが元冒険者という事は、ゲームをしていたのでそれは知っていた。

 しかし、そのパーティーメンバー自体はゲームには出ていなくて〝凄かった人物〟として語られていただけだった。

 本当だったら、本編に出る予定だったキャラだった。

 しかし、より華のあるキャラが良いという事で没になってしまい物語に登場する事は無くなったと後のゲーム会社の記事で見た。


「元々冒険者だったんですね。通りで先程のマスターを睨む眼光、冒険者と同じ鋭さだなと感じました」


「そこは忘れて頂きですね……」


 フィーネさんは俺の言葉に、少し恥ずかしそうにそう言った。

 俺とフィーネさんが会話している間、何故かアスカはずっと頭を下げたままで俺は遂に「何でまだ頭下げてるんですか?」と聞いた。


「……フィーネが許可してくれてないから」


「……」


 プルプルと震えながらそう言うアスカに俺は、可哀そうな人だなと思いフィーネさんに視線を向けた。

 視線を向けられたフィーネさんは、俺の言いたい事を感じ取り「もう良いですよ」と言った。


「昔はフィーネさんが上だったのに、何で未だにギルドマスターはフィーネさんの指示に従ってるんですか?」


「怖いんだ。さっきジン君も見ただろ? フィーネは怒ると物凄く怖いんだ……」


 いずれ〝戦女〟として活躍する人物が、こうまで怯える人物ってフィーネさん一体何者なんだよ……。


「話が脱線しましたけど、マスターはもうジン君に聞きたい事は終わりましたか?」


「うん、もう十分知れたから満足よ。ありがとねジン君、それにクロエちゃんも時間とっちゃって」


 俺とクロエにそうアスカは言い、俺はようやくこの場から解放された。

 アスカ達と別れた後、時間も丁度良く俺はクロエと共に食堂に飯を食べに向かった。


「ジン君、さっきはごめんね。騙すような事をして」


「もういいよ。そこまで悪い事で騙された訳でも無いし、それにクロエだってギルドから頼まれてやったんだろ?」


「うん、リコラちゃんにどうしてもジン君の予定を聞き出して止めて欲しいって頼まれちゃって、断るに断れなかったんだ」


「それなら仕方ない、クロエも被害者だ。まあ、でも今後は何かあっても相談をしてくれよ」


 そう俺が言うと、クロエは涙を浮かべ「ジングゥン」と泣き出してしまった。

 その後、飯が来る頃には落ち着いたクロエと食事を堪能して店の前で、また明日と言って解散した。

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