第22話 風紀委員の鷹宮さんは、生徒の誰とも馴染まない②


 何事もなく、4時限目まで授業が終わり、昼休みの時間がやってくる。


 各々がお弁当を広げたり、食堂へ向かおうとする中、僕は教室から出て行った鷹宮さんを追いかけた。


「あの、鷹宮たかみやさん!」


「……どうしましたか、藤野くん」


 そして、声をかけると、彼女は無表情なまま、立ち止まってくれる。


 そんな彼女に対して、僕はあるお願いをした。


「あのさ、鷹宮さん。良かったら……一緒にご飯……食べない?」


 すると、いつも人前では無表情な鷹宮さんが、目を見開く。


「……もしかして、何か予定あったり……した?」


「いえ……そういう訳ではないんですが……」


 どうやら、困惑しているのは純粋に僕が声をかけたからのようだった。


「だったら、また一緒にどうかなって思って……」


 幸い、廊下にはクラスの人がいなかったので、僕たちが話していても、特に気に留められるようなことはなかった。


「…………」


 鷹宮さんは、逡巡したのか、少し沈黙した後、僕に告げる。


「わかりました」


 こうして、僕は2日連続で鷹宮さんと一緒にお昼ご飯を食べることになった。


 ただ、やっぱり2人でご飯を食べる場所となると、クラスメイトと遭遇する可能性も考えて、目立たないところのほうがいいだろう。


 となると、やっぱり安全な場所となれば、僕たちの同好会で使っている教室になる。


 ただ、問題があるとすれば、同好会の教室は三枝の監視下にあるということだ。


 おそらく、昨日の全容が三枝さえぐさに見られていたというのも鷹宮さんは知らないだろう。


 そして、今日はイレギュラーとはいえ、三枝が仕掛けたカメラなどが作動している可能性もある。


 本人は、あの後カメラの類は回収したといっていたけれど、僕を油断させる為のブラフという可能性もなくはない。


「ごめん……お待たせ」


「いえ、別に構いませんが……」


 一応、教室の中をチェックしてから鷹宮さんを案内した。


 鷹宮さんは、何か言いたそうな顔をしていたが、最終的には何も言わずに教室の中へと入ってくれた。


 ちなみに、三枝の話は本当だったようで、カメラは1台も設置されていなかった。


 こうして、やっと2人で席に着く。


 位置は、自然と昨日と同じように、向き合うような形になる。


 ただ、昨日とは違って、鷹宮さんが持参していたのは菓子パンだった。


 そういえば、普段は購買でパンを買っている、と言っていたっけ?


「今日は、家から持ってきたので」


 僕の視線に気が付いたのか、鷹宮さんはすぐにそう答えた。


「藤野くんのお弁当は、凄く美味しそうですね」


 一方、僕の広げたお弁当をみた鷹宮さんが、そんな感想を呟く。


 鷹宮さんがそう言ってくれたお弁当は、いつも妹の綾が用意してくれているものだった。


「お上手ですね、妹さん」


 そして、鷹宮さんもその話を覚えていてくれたらしい。


 自分のことではないとはいえ、身内を褒めて貰えるのは嬉しいことだった。


「彩りも綺麗ですし、しっかりと栄養も考えられているおかずだと思います」


 鷹宮さんに言われて、改めて自分のお弁当を眺める。


 確かに、鷹宮さんの言う通り、おかずの品も多いし野菜もきっちり配置されている。


 自分でお弁当を作ったからこそ、自然とそういう感想が出てきたのだろう。


「私も、これくらい上手になれればいいんですけど……」


 羨ましそうに、鷹宮さんはそう呟いた。


「大丈夫だよ、あや……妹だって、最初から料理が上手だったわけじゃないし」


「そうなんですか?」


「うん。結構、練習してたの見てきたから」


 さすがに、全部が黒焦げ、なんてことはなかったけれど、それでも綾の料理スキルがどんどん上がっていくところを間近で見てきたのだ。


「だから、鷹宮さんだって、続けていけばどんどん上手になっていくと思うよ」


 そう言ったところで、若干偉そうになってしまっているんじゃないかと危惧したのだが……。


「そうですね……善処します」


 言葉は固かったものの、ほんの少しだけ口元が笑っていたので、好意的に受け取ってくれたようだった。

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